最終週を迎えているNHKの連続テレビ小説『まんぷく』で、3月28日に放送された第149回の”あるシーン”が視聴者たちの心を掴んだ。
松坂慶子さん演じる主人公・立花福子の母、今井鈴が、親族や親戚を前に″生前葬”を執りおこなうシーンだ。鈴が白装束を身にまとい「死んでしまっては、みなさんとお別れのご挨拶ができないのでございます…それでは始めましょう」と話すと、自ら棺桶の中に入っていく。読み上げられる弔辞に、棺桶の中から返答する場面もあった。
このシーンを観た視聴者からは、「まさかまさかの生前葬」「まるまる1回分生前葬!」「生前葬に感動」など、様々な声が上がった。
大辞林第三版によれば、生前葬は「本人が生存しているうちに行われる、葬儀の形式をとった集会。従来の葬儀に否定的な立場から、本人の意思により主催される」と説明されている。
ハフポスト日本版は、生前葬を演出に取り入れた意図について、『まんぷく』の制作統括を務めるNHKのチーフプロデューサーの真鍋斎氏を取材した。
━━なぜ、生前葬を演出に取り入れたのでしょうか?
鈴さんというキャラクターは、主人公夫婦に比肩する重要な存在ですから、その締めくくりに当たって、ヒロインや萬平さん、克子さんたちに、心からの感謝の言葉を言ってもらいたいという思いがありました。
当初は、‘本当の葬儀’(鈴さんが亡くなるということ)で、そうした場面を作ろうと考えていましたが、私たちの想定を超えて鈴さんというキャラクターが視聴者の皆さんの中で育っていることを実感していましたので、鈴さんが亡くなることに、抵抗を感じていました。
ならば、どうするか?という話し合いの中で、生前葬という発想が生まれました。
━━当時の時代背景は昭和45年ごろです。この頃の生前葬の再現は何をもとにしたのでしょうか?
脚本の打ち合わせにおいて、脚本家の福田靖さんと私やスタッフの間で話し合いがなされる中で、福田さんが「生前葬というのは、当時あったんですかね」ということをおっしゃって、調べてみたら、現在ほどではないにせよ幾つかの例がありました。
そこで、その例をもとに生前葬を取り入れようということになりました。
━━「感動した」「笑った」などこのシーンには反応が様々ありました。どう受け止めていますか?
「笑いがあって、感動がある」というのは、まさに私たちが目指すエンターテインメントの王道であり、この回はその典型であると考えていましたし、その思いが伝わるように作る努力もいたしました。
そうした意図が視聴者の方々にも伝わったとするならば、制作者としてうれしく思います。
■放送を観た葬儀関係者 生前葬は『人生のウィニングラン』
葬儀関係者は、このシーンをどう観たのか?生前葬のサービスを提供する株式会社レイ・クリエーションの原田哲郎さんは、こう語る。
非常に印象に残るシーンでした。
血縁関係が希薄になり、核家族化が進む中、生きているうちにお別れができる生前葬をきっかけに、親戚同士が再び仲良くなったり、付き合いを取り戻すこともできる。
生前葬の瞬間って、例えるなら、いわば「人生のウィニングラン」なんですよね。その人がこれまで生きてきた年月を、しっかりと皆で噛みしめる。そういう意味では、まだまだ少ない葬儀の形ですが、広まってほしいなという思いがあります。
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観る事が生活習慣となっている人も多く、なにかと話題になることも多いNHKの連続テレビ小説。
そこで今回描かれた生前葬は、日本の葬儀の新たな形として、今後広がりを見せるのだろうか。