『入浴着』というものの存在を、あなたは知っているだろうか?
温泉やスパなどの入浴施設で、手術等で残った跡を気にせず入浴できるようにすることを目的に作られた専門の着衣だ。ポスターを制作して入浴着の啓発を行う自治体が出てくるなど、普及が進みつつある。
株式会社ブライトアイズの加藤ひとみ社長は、1999年12月に入浴着を制作し販売を始めた。開発から約20年の月日が経った今、何を思うのか。入浴着の開発の経緯と普及の現状について聞いた。
■ 「乳がんの私は温泉に入れないの?」 きっかけは自らの経験
━━開発のきっかけと経緯を教えてください
22年も前のことですが、私自身が乳がん患者だったのです。私は、右の乳房を全摘出しました。
その後は、温泉に入りたくても自らの手術痕や周囲の目を気にするようになってしまって。「乳がんの私は温泉に入れないの?」と思いました。
ちょうどその時期、同じような境遇の方から声を頂いたこともあって、制作に着手しました。
━━完成した入浴着、入浴施設からの当時の反応は?
当時は、入浴着の着衣を認められず入浴を断られることが多かったです。
施設の方から「温泉は裸で入るものだ」とか、「入浴着での入浴を認めたら、タトゥーをしている人も、入浴着で隠せば入浴可能ということになってしまう」などと言われました。
入浴着の存在が、そもそも知られていないというのが問題でした。
━━その状況に対して、どのような取り組みをしたのでしょうか?
もともと私たちは長野県で創業したので、地元の信州大学に衛生面の調査を依頼しました。その調査をもとに、入浴着が衛生上安心できる着衣であることを入浴施設側に伝えることを進めていきました。
その他、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)や温泉施設に自ら周り、認知を広めるための活動を地道にしていきました。
━━今、認知は広がってきた実感はありますか?
自治体の啓発もあって、入浴着で入浴できる施設は増えてきたなとは感じます。ただ、未だに「断られた」という報告もあるので、完全には周知は進んでいないと思います。
━━啓発に向けた課題は何でしょうか?
入浴施設側の方々の理解や周知が進んでいくだけではなく、親族や友人といった常に身近に過ごす間柄レベルでの理解をもっと進めていくべきだと感じます。
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過去の病気の傷を理由に、温泉に入るという一つの楽しみが奪われることはあってはならない。
まずは、「自分の周り」という小さなコミュニティから、入浴着の存在を知ってもらうことが大切なのかもしれない。