4カ月ぶりの実戦復帰となったフィギュアスケート世界選手権男子フリーで、羽生結弦選手は王者の風格が漂う気迫の演技を見せた。だが、優勝のネイサン・チェン選手には及ばず銀メダル。試合後は「強くなりたい」と悔しさをにじませた。
金メダルにこだわった理由の一つが、羽生選手が今シーズンのプログラムに選んだ楽曲だ。
フリーで使用した「Origin」は、羽生選手が幼い頃から憧れていたロシアのエフゲニー・プルシェンコ氏が2004年に芸術点で6点満点を獲得した伝説のプログラム「ニジンスキーに捧ぐ」をアレンジした。タイトルには「起源」という意味があり、「かっこいい!すごい!こんな風に滑りたい!」という子ども時代の原点に帰ろう、という意識が込められている。
ショートプログラムの「秋によせて」は、アメリカのジョニー・ウィアー氏が2004年シーズンのフリーで使用したもの。プルシェンコ氏とウィアー氏は、当時10歳だった羽生選手にとって憧れで目標の選手だった。
羽生選手がフリーで着用した黒と金色の衣装も、プルシェンコ氏の衣装によく似ている。オリンピックで金メダルと銀メダルを2つずつ持つ「皇帝」プルシェンコ氏への敬意がにじむ。
「秋によせて」の羽生選手とウィアー氏の衣装も同様だ。
23日の試合後、フジテレビに生出演した羽生選手は、宮根誠司アナから衣装について「黒と金でしたね」と質問され、「あー銀だった…。えぐられた…」と冗談とも本気ともつかない一言。「金メダルが似合う衣装だと思ってます」と残念そうだった。
さらに、原点でもある「小学生の自分」にどんな言葉をかけたいか尋ねられ、「小さい時の自分はめちゃめちゃ厳しいので、こんな滑りじゃ許されない」と苦笑。「こんなんでプル様の曲を使ってるんじゃねーよ、って言われると思います」と語った。
「私の心の中では、君が一番だ」
だが「皇帝」からは「私の心の中では、君が一番だ」と羽生選手を讃えるメッセージが届いた。
試合後、プルシェンコ氏はInstagramを更新した。
「私の偉大な友人ユズル、君は困難と怪我のすべてを乗り越え、日本での世界選手権で素晴らしい演技をした。君がどんなに大変だったか、私は分かる。私の心の中では、君が一番だ」