東京医科大学が過去の入試で、女性や多浪の受験生に対して不利になるよう不正な得点調整をしていた問題。
3月22日、未成年を含む元受験生33人が、東京医大に対し約1億3000万円の損害賠償を求めて提訴した。
訴状などによると、原告は2006年度入試から昨年の入試までを受験した20代を中心とする女性たち。うち約半数は別の医学部に通っており、他の学部に進学したり、社会人のほか現役で医師として働いている人もいる。
訴訟では、単年度の受験に対し200万の損害賠償を請求する。また、一般入試受験料6万円、センター試験利用入試4万円の受験料、そして受験のために支払った交通費や宿泊費などを算定して請求する。
東京医大はこの問題を受け、過去2年分については合否の再判定をし、実際には合格していた元受験生に入学する意向があるかを確認をしている。
原告には、意向確認の対象者も2人おり、不正に不合格にされ、その後の受験勉強を強いられるなどの損害を被ったとして意向確認対象者1人当たり500万円の支払いを求める。
性別を理由としたあからさまな得点操作をしていたことを知り、がく然とした
弁護団は、単年度当たり200万円の慰謝料を請求する不法行為の理由として、「性別という、自分では全くコントロールできない属性で差別していること。そして、公正公平な入試を実施すべきなのに、その大前提が崩されていた。受験生の信頼を大きく裏切った」と説明。
また、第三者委員会の調査では少なくとも2006年からこうした不正が行われていると指摘されているのに、不正が発覚して以降も、再判定をしたのは過去2年間にすぎないなど、対応がごく一部にとどまっていることや不正によって不合格になったことは「受験生にとって非常に大きな苦痛であるということは論を待たない」と述べた。
弁護団の1人で、全国初のセクシュアルハラスメント訴訟を受け持っていた角田由紀子弁護士は、訴訟の意義について「迅速で適切な救済を求める役割のほか、再発防止を防ぐための警鐘を鳴らすことになる」と話した。
また、事件の背景にある日本社会の性差別について、憲法学者の辻村みよ子さんの言葉を借り「永久凍土化している」と言及した。
今回の訴訟を通じて「性差別の岩盤につるはしを持って挑みかかっても、崩れない牢固としたものがある。どうにかこの凍土を少しでも溶かして、性差別のない社会に一歩でも近づける必要がある」と話した。
弁護費用は、クラウドファンディングを実施して416人の賛同を得た。最終的に、740万円の費用が集まった。
弁護団は、この訴訟のほか文部科学省に対して、医学部医学科2019年度入試に関する調査の要請を提出。
要請文では、公平性が確保されたか否かを検証するため男女別の受験者数や合格者数、合格率について2018年緊急調査で出された速報のように、速やかに公表することなどを求めている。
原告の女性「このまま何もせず黙っていたら、鎮静化されて女子が不利なままになってしまうかもしれない」
会見に参加した原告の1人は「東京医大が性別を理由としたあからさまな得点操作をしていたことを知り、がく然とした」と話した。
過去3年間東京医大を受験していたという。
「今回はたまたま、東京医大の得点操作の事実が公表されることとなったが、女性を不利に扱っておきながら男性と同額の受験料を支払わせていたことは、詐欺と言っても過言ではないと思う」と語気を強めた。
加えて「女性として生まれてくるすべての人間に最初から枷がはめられているとか、男性よりも夢が追いにくいとかそういったことのないようにしたい」と訴訟への期待を寄せた。
原告団に参加した経緯については「このまま何もせず黙っていたら、鎮静化されて女子が不利なままになってしまうかもしれないと思ったので提訴に参加しました」と語った。
また、2017年度入試を受け、入試意向確認の対象者となった原告は「僅差の場合は不利という認識だったが、20点30点引かれていたなどとは思いもしなかった。対応も相当ずさんだった。再入学しない人には合格通知すら出さない。受験する人たちの年単位での苦労を、大学側の勝手な都合で踏みにじったということを、どれほど浅はかで信頼を失う行為であるかということをしっかり認識し、改めて謝罪するべき」とコメントを寄せた。
東京医大「コメントは控える」
東京医大は、ハフポスト日本版の取材に対し「現時点では訴状を拝見していないためコメントできない」と話した。