シアトル・マリナーズのイチロー選手が3月21日、記者会見を開いて引退を表明した。
深夜に始まった記者会見には、100人を超える報道陣が詰めかけた。 イチロー選手は、引退を決意した理由、自身の生き方、ファンの存在など、ひとつひとつの質問に力強い言葉で答えた。 質問に答えた後、「おかしなこと言ってます?」と連発して笑いが起きるなど、会見は終始、穏やかな雰囲気で進んだ。
マリナーズ以外にいく気持ちはなかった
引退を決めたタイミングを問われると、「タイミングはキャンプ終盤ですね。日本に戻ってくる、何日前かはお伝えできないですけど終盤に入った時です」と説明。
今回の東京ドームでの開幕戦までが契約上の予定だったと明かした上で、「キャンプ終盤でも結果を出せずに、それを覆すことができなかったということですね」と、悔しさをにじませた。
引退を決意した理由については「マリナーズ以外にいく気持ちはなかったというのが大きい。去年シアトルに戻していただいて本当に嬉しかった」と、長年過ごした古巣マリナーズへの思いを打ち明けた。同時に、「春に向けて可能性があると言われて、そこも自分なりに頑張ってきたんですけれども…」と悔やんだ。
それでも、記者から思い残すことはないかと問われると、今日の試合の球場でファンから寄せられた温かい大声援に触れ、後悔はないと言い切った。
「もちろんもっとできたことはあると思いますけど、結果を残すために自分なりに重ねてきたこと、人よりも頑張ったということは全く言えないけど自分なりに頑張ってきたということははっきりと言えます」
日本球界復帰は「選択肢になかった」
2001年にメジャーに移籍してから、メジャーリーグに野球人生を捧げた。日本球界に復帰する選手が多い中、イチロー選手にとって、「選択肢にはなかった」という。
理由については答えなかったが、「最低50までと本当に思っていたが、それは叶わずで、有言不実行の男になってしまった。その表現をしなかったらここまでこれなかった」と自身のキャリアを振り返った。
おかしなこと言ってます?(笑)
イチロー選手にとって、この日の試合は、普段触れ合う機会の少ない日本ファンの存在を、改めて確認する機会になった。
「日本の方は表現することが苦手というか、そんな印象があったんですけど、それが完全に覆りました。内側に持ってる熱い想い。それが確実にあるということが、とても想像つかなかったことです」と、驚きを語った。
答えを言い終えた後、「おかしなこと言ってます?(笑)」と聞き返し、会場を笑い場面もあった。
イチロー選手に憧れる子供達へメッセージを求められたが「苦手なんだよなぁと、考え込む場面も。
「野球だけじゃなくてもいいんです。自分が夢中になれるものが見つけられればそれに向かってエネルギーを注げられるので、そういうものを見つけて欲しいそれが見つかれば自分の前に立ちはだかる壁にも向かっていける。自分に向くか向かないかというよりも好きなものを見つけて欲しいと思います」とエールを送った。
人より頑張ることなんてとてもできない
10年連続200本安打など、さまざまな記録に挑戦してきたイチロー選手。残してきた数々の偉業について、「大したことではないというか。それを目指してやってきたんですが、僕ら後輩が先輩たちの記録を抜いていくことはしないといけないことだと思いますが、そのことにあまり意味はない」。
そう謙遜する一方で、今日までの苦労や、今日の試合に立てたことへの喜びを次のように振り返った。
「去年の5月以降ゲーム出られない状態になって、それを最後まで成し遂げられなければ今日のこの日はなかった。あの日々はひょっとしたら誰にもできないことかもしれないというささやかな誇りを生んだ日々。どの記録も自分の中ではほんの少しだけ誇りを持てたことかなと思います」
自分の生き方について問われると、「人より頑張ることなんてとてもできない。自分に限界を生みながらちょっとそれを超えていくと、いつの間にかこんな自分になっていく。少しずつの積み重ねでしか自分自身を超えていけないのではないか」と考えを明かした。
これまでの自身の歩みを振り返りながら、「一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて続けられないと。地道に進むしかない。後退もしながら、自分がやると決めたことを信じてやっていく」と語った。
今後の芸名は「元イチロー」?
会見では、イチローという名称が今後はどうなるのかを問われる場面もあり、イチロー選手は「カタカナのイチローってどうなんですかねぇ。元カタカナのイチローになるんですかね」と言葉を窮した。
また、監督に就任する可能性については「絶対に無理です」と否定し、「人望がない。本当に。人望がないんですよ、僕」と断った。
最後に、孤独感をずっと感じながらプレーしていたのかという質問が飛んだ。
イチロー選手は、次のような言葉で締めくくった。
「(アメリカで活躍する日本人として)外国人になったことで、人の心を慮ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れて来ました。孤独を感じて苦しんだことは多々ありました。その体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだろうと今は思います」
会見が終わると、イチロー選手に対して会場中にあふれんばかりの拍手が沸き起こった。