イタリアのクレモナで3月20日、中学生の乗るスクールバスがハイジャックされ、全焼する事件があった。
BBCなどによると、事件に巻き込まれたのはミラノ南東にあるクレモナ近郊の中学生51人。引率の職員も3人いた。
生徒たちは、スポーツの課外活動のため、スクールバスに乗ってジムに向かう途中だったという。
犯人は、運転手だった。ガソリンをまきバスに放火
バスが出発して間もなく、運転手は豹変した。
スクールバスの運転手をしていたセネガル出身の47歳の男は、学校からジムに向かう途中で「いまから全員人質だ」と突然話し始めたという。
テレグラフ紙によると、運転手はナイフを振り回すなどして生徒らを脅迫し、急に運転手はバスをミラノに向かって走らせた。
運転手は携帯電話などを取り上げて電気コードで生徒の体を縛り身動きを取れなくし、「誰も生きては戻れない」と言ってガソリンをまきちらした。
国家治安警察隊が出動、全員を助け出す
しかしバスの中では、携帯を取り上げられる前にすでに親と連絡を取り合っていた生徒が1人いた。
生徒の親は、警察に通報。国家治安警察隊が出動し、バスを封鎖した。
バスは警察隊の車にぶつかった。まかれたガソリンに引火し、バスはすでに火を上げ始めていたが、警察隊は後方の窓を壊し、51人の生徒全員の救出に成功。
その後、バスは全焼した。
現場で撮影されたスマートフォンの映像は、生徒たちが車から逃げ、パニックで叫んでいる様子を映していた。
12歳の少年は、バスの中の様子についてテレビのインタビューに次のように答えた。
「運転手は、自分の子ども3人が北アフリカからボートでイタリアに渡ろうとして、亡くなったのだと話していた。多くの子どもたちが海におぼれて死んでいるから、お前たちは火にあぶられて死ねと言われた。自分も死ぬかと思って怖かった」
生徒十数人と、職員ら2人は煙を吸うなどして病院に搬送されたが、幸運なことに命に別状はなかった。運転手も手に軽いやけどを負った。
男は2002年からスクールバスを運転していた
AFP通信などによると、男は2002年からスクールバスの運転手として勤めていた。
イタリア人女性と結婚したが、すでに離婚しており10代の子どもが2人いるという。
地中海で亡くなるボート移民の問題に言及、テロの可能性も
この事件について地元の検察官は、「テロ犯罪による起訴の可能性もある」と述べた。
近年、アフリカからヨーロッパに向け、地中海をボートで渡る移民や難民が数千人単位で亡くなる事案が多く起きている。
この事案について、警察によると運転手は「地中海での死を食い止め、大虐殺を起こしてやる」などと叫んでいた。
またバス内で、イタリアのディマイオ副首相とサルヴィーニ内務大臣の名前を挙げて「彼らのせいだ」と非難していたという。
ディマイオ副首相とサルヴィーニ内務大臣は、地中海を経てイタリアへ渡ってくる移民や難民がたどり着く港を封鎖する方針のポピュリズム政党「五つ星運動」と「同盟」を率いている。
2018年の政権発足後、政権は移民への強硬策を講じてきた。
イタリア内務省の関係筋は、「この運転手のイタリア市民権ははく奪されるだろう」とAFP通信に語った。