ゲイであることを同級生に暴露(アウティング)された一橋大の法科大学院生(当時25歳)が、2015年8月に校舎から転落死したのは、大学が適切な対応をしなかったのが原因として、両親が大学に約8576万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2月27日、東京地裁であった。鈴木正紀裁判長は原告側の訴えを棄却した。
両親はアウティングした同級生も訴えていたが、2018年1月に和解している。
訴状などによると、亡くなった学生は、自分がゲイ(男性の同性愛者)であることを家族にも言っていなかった。2015年4月、恋愛感情を抱いた同級生に告白。告白によって知った同級生がその年の6月、法科大学院の同級生たちのLINEグループで、学生がゲイであることをアウティングした。
アウティングに大きなショックを受けた学生は、その後授業などで暴露した同級生と顔を合わせるとパニック発作が起こるようになる。2015年7月から心療内科を受診、不安神経症やうつ、パニックなどの診断を受け薬を処方され、一連の事実や症状について大学のハラスメント相談室や保健センターに伝えていた。
学生の両親が訴えていたのは以下の点など。
・大学側は、アウティングというセクハラ防止対策をしなかった
・大学のハラスメント相談室が自死を防ぐ手立てをしなかった
・パニック発作や薬の処方などについて知っており、自死の予測ができたのに授業に出ることを防止しなかった
これに対して、大学側は以下のように反論していた。
・セクシュアルマイノリティも含むハラスメント防止のための啓発に努めている
・具体的なハラスメントを防止するのは現実的に不可能
・突発的な自死を予測するのは不可能
・専門の相談機関も紹介していた (ただしそれは性同一性障害のクリニックで、大学側が問題を正しく認識していなかったことの現れと原告側は指摘)
判決を受けて一橋大学は以下のコメントを発表した。
改めて亡くなられた学生のご冥福をお祈りし、遺族の方々に弔意を表します。
本件につきましては、裁判において、事実に基づき、大学側の立場を明らかにして参りました。本学と致しましては、引き続き、学内におけるマイノリティーの方々の権利についての啓発と保護に努めて参ります。
一方、原告側は記者会見を開き、南和行弁護士らが両親の思いを以下のように語った。
彼のお母さんお父さんは、裁判のたびにこう話していました。「本人の気持ちも一緒に法廷に来ているから。弁護士にはなれなかったけど、あなたの裁判だよ」と。
この裁判が勝つか負けるかよりも、裁判所が「アウティング」をどう捉えるか、その本質を気にされていました。
「目指していた弁護士にはなれなかったけれど、本人の生きたことが日本の裁判の歴史の中で大きな基準になるような判決になれば、夢は果たせなくても意味はあったんじゃないかな」それがご両親の思いでした。
「アウティング」は集団の中で人間関係がガラッと変わってしまうこと。しかし裁判では表面的な判断しかされなかった。私達、原告代理人も残念でなりません。