国連広報センター所長の根本かおるです。“世界”を舞台にした仕事の一つのオプションとして、国連に目を向けてみてはいかがでしょうか。
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国連の役割を乱暴を承知でざっくり説明すると、「平和と安全の維持」、「経済社会開発」、そして「人権の推進」、ということになる。シリア危機をめぐって対立する当事者間をシャトル外交するブラヒミ氏のような和平交渉のピースメーカー、制服組のブルーヘルメットたちが活躍する国連の平和維持活動(PKO)、あるいは故郷を追われた難民や飢餓に苦しむ人々への人道援助活動などをイメージする人も多いだろう。しかし、そうした「現場」のみが国連ではない。どの組織にも財務、人事、法務、IT、広報というサポート部門があるように、国連もこれらサポート部門があって初めて組織として機能する。
私が在籍する国連広報局の同僚は、ほとんどがマスコミ出身者だ。ロイター、AP、BBC、NBC、CNNなどの現場で働き、マスコミの習性とニーズを知り尽くした上で、初めて効果的な広報ができる。私も、国連に入る前に日本のテレビ局で勤務した経験に大いに助けられている。また、国連広報局には、ユニセフや国連WFP(世界食糧計画)などの広報局を経験して移ってきた職員も少なくない。広報はいわば「横展開」できるスペシャリスト・ポストの仕事なのだ。
同様のことが財務・人事・法務についても当てはまる。銀行や証券会社、民間企業の調達部門で経験を積み、その専門性を活かして幹部ポストで国連に転職してきた例は多い。外資系金融機関で株の運用をしていたところ、国連の年金運用部門の担当者が退職したことを知り、「国連で働きたい」という気持ちから履歴書を片っ端から送って採用にこぎつけたというつわものの日本人もいる。
同年代の日本人の仲間と話していて驚かされるのは、社会的な課題の解決に自分も貢献したいという人が実に多いことだ。寄付を通じて応援する、イベントに参加する、ボランティアする、突き抜けた人ならソーシャル・ビジネスを立ち上げる、などなど、その「アクション」の選択肢は様々だ。私はそこに「国連でスキルを活かして、グローバル課題の解決に貢献する」というオプションを加えたい。
国連の通常予算における日本の分担率はおよそ11パーセントだが、日本人職員は望ましい職員数のおよそ3分の1程度の数しかいない。国連は意欲ある日本人をより多く採用したいと考え、昨秋6つもの国連機関の人事担当が初めて合同で訪日し、東京で人事説明会を開いた。参加者の熱意と可能性に触発され、国連では日本政府と協力して、合同説明会の定例化や地方開催を検討している。在京の国連機関もキャリアセミナーを積極的に提供している。さらに、締め切りを守る、段取りを考える、異なる考えの人たちから意見を聞いて調整するなど、日本人の特質が実は国連ではとても評価されるという状況がある。様々な機会に積極的に参加して刺激を受けた人から、その後見事国連機関に採用が決まったとの朗報をいただくこともある
こうした情報を国連は積極的に発信している。国連本部のUN Careers ウェブサイトには最新の空席情報をはじめ、応募に必要な情報が網羅的に掲載されている。また、国連広報センターのウェブサイトでは、日本人職員のキャリアパスに関する体験談などが豊富にそろっている。日本を含め、望ましい数の職員数に達していない国出身者を対象に、若くて有能な人材を発掘する「ヤング・プロフェッショナル・プログラム(YPP)」試験が毎年行われる。また、日本政府も、外務省の国際機関人事センターが情報提供して意欲ある日本人を支援している。
すべての挑戦も、まず最初の一歩から始まる。こうした機会を積極的に活用してもらい、ぜひ国連というオプションもあるということを知って、キャリアプランに入れていただきたい!
4月19日付の朝日新聞に、根本かおる 国連広報センター所長の寄稿文「国際機関邦人職員 JPO拡充で人材育てよ」が掲載されました。