「夫はすぐにオンライン会議に呼び出され…」。在宅勤務があぶり出す、女性が働きにくい日本企業の土壌

日本の子育て期の女性は、平均約7時間半を家事・育児に取られている。それは、1人で2人分の仕事をしているに等しい。
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Nadezhda Fedrunova via Getty Images

企業がリモートワークを進め、子供たちの学校も休校になっていたこの時期、家事と子供の世話、仕事を皆さんはどのように割り振っておられただろうか? 今回は、これからの時代にますます必要になると考えられる、在宅ワークと家事・育児の関係について書きたい。

日中は子供の遊びや勉強の相手、夜は仕事する妻

6月9日に放送された『クローズアップ現代+』(NHK)は、コロナ禍で困窮する女性たちに焦点を当てた内容だった。その中に、小学1年生の息子と2歳の娘を育てる30代夫婦がいた。その映像は、女性の家事・育児負担の大きさを伝える意味で象徴的だった。

夫婦はともに在宅勤務となり、息子も分散登校で在宅時間が長く、娘は保育園にも預けられない状況だった。日中、子供の遊びや勉強の相手に時間を取られる妻は、仕事を夜中に行わざるを得ず、疲労が蓄積しているのか、頭痛に苦しんでいた。

番組で、在宅勤務になって困ったことがあるか、子供が休校になった男女98人を対象にに取ったアンケートが紹介されていた。すると、仕事については男女差がほとんどないが、家事・育児を挙げるのは、女性44%に対し男性は15%と、3倍近い差がついていたのである。それは恐らくもともと家事・育児を引き受けていた女性が多かったからだろう。しかし、少し変化の兆しも見える。

夫婦共に在宅勤務なのに…

夫婦で在宅勤務になり、夫も家にいるのだから家事をシェアしたという声は直接、間接によく聞いた。それは例えば、昼食当番を夫が受け持つ、妻がオンライン会議の間に子どもの世話をするといったやり方である。

家事・子どもの世話と仕事の両立は大変だ、と妻を見て気がついた男性もいる。共働きが多数派になって20年余り経つが、家事・育児の大変さを実はよくわかっていない男性がまだ多い。育児休暇や、家事・育児で細切れの時間を取られる主婦の日中を、「休めていいなあ」などと言われ、悔しい思いをした女性は多いのではないだろうか。

誰かのために行う家事やケアは、自分の時間を取られることでもある。絶えず何かをしでかす。あるいは、親に自分がしていることを見て欲しい、話を聞いて欲しいとせがむ子供は、世話が焼けるうえ目が離せない。ケアには、他の何かに集中することが許されない側面がある。

他のことをしていないから、ケアをしている人は遊んでいる、あるいは休んでいるように見える。しかし、当人は、何かあったときにさっと動く現場監督みたいな役割をちゃんと果たしている。また、関心を寄せることで愛情を伝える、という重要な役割も受け持つ。集中を必要とするから、他にできることは限られる。

親の愛を求める子供が、そばにいるなら構って欲しい、と願うのは自然な発想である。しかし、子供と仕事の間で引き裂かれる親は、つらい。母親業への義務感が強い女性は特にそうだろう。ケアは他の仕事や家事と両立が難しい。

日本の子育て期の女性は、1人で2人分の仕事をしているに等しい

一方、家事は仕事と時間を分けたり、並行して行うことが容易だ。それでも、時間は有限なので、家事に費やす時間が長いと労働時間全体が長くなってしまう。『平成30年版男女共同参画白書』によると、6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間は、妻が1日当たり7時間34分、うち育児時間が3時間45分もある。対して夫は1時間23分で、育児時間がそのうち49分と圧倒的な差がつく。欧米諸国の女性の家事・育児時間は1~2時間短いが、それは欧米諸国の夫たちが家事・育児を2~3時間しているからだ。日本の子育て期の女性は、フルタイムの仕事と同じぐらいの時間を家事・育児に取られている。それは、1人で2人分の仕事をしているに等しい。

その過酷さを可視化したのが、『クローズアップ現代+』だったと言える。妻の負担に気づいた夫たちは、もっと積極的に家事や育児をしたいと考えるかもしれないが、その実行を職場が阻む可能性は高い。番組の夫婦は、夫がひんぱんにオンライン会議に呼び出され、子どもに費やす時間を奪われている様子がうかがえた。

「働いている姿を見せる」のが大事な日本企業

このように、従業員の家事や育児時間に配慮しない職場はおそらく多い。それは、日本の企業社会が、性別役割分担を行った夫たちが働くことを前提に発展したためではないだろうか。

日本のサラリーマンは、会社や上司が呼び出せばいつでも行ける、どこへでも行くという態度を求められてきた。在宅勤務になって、「働いている姿を(会社に)見せられない」とぼやく男性がいた、と聞いたが、それは彼らが会社の要求にいつでも応える待機姿勢を「見せる」ことを、日本の企業では何より重要だと心得ていたからではないだろうか。

「いる」ことが第一、と考えれば、つき合い残業や飲みにケーション、休日ゴルフの大切さ、家庭の事情に関わりなく急に求められる転勤などの理由が分かる。有給休暇が取りにくい職場の意味も、育休切りも短時間勤務の人が昇進から遠くなる理由も納得できる。しかし、そういう職場は拘束時間を長くし、私生活を犠牲にすることを求めがちなため、子育てや家事を大切にしたいと考える人とは折り合わない。そういう人が女性に多かったことが、女性を職場から、昇進から、昇給から遠ざけてきた面もあるのではないか。

在宅勤務になれば、会社が求めるときにはオンラインで対応し、それ以外の時間は自分のペースで仕事を進めることができる。家事は時間配分がしやすく、在宅勤務向きな面もある。洗濯機を回しながら仕事をする、煮物を煮る間に仕事をするなどができる。家族そろって食事をした後、仕事を再開してもいい。家事は本来、生活時間に合わせて1人で行えるものなので、1日の間に分散できるとスムーズに進む。

家事や育児の重要性や女性たちの負担に気づくチャンス

しかし、子供が家にいればそのペースは乱されがちだ。仕事の時間を邪魔させない家庭でのルール作りが必要だが、在宅勤務が一時的な場合は、ルールを作って徹底させる余裕がないかもしれない。空間を区切れる仕事部屋があればなおよいが、プライベート用に選んだ家はそのスペースがない場合も多い。幼児に、ルールを教えることも難しい。子育てには、保育などの社会的なサポートが必要であることを、コロナ禍は浮き彫りにしたと言える。

家事は、生きていくうえで欠かせないし、リフレッシュして再び仕事に臨むためにも必要である。育児は、大変でもあるが、親の喜びを味わえる機会でもある。誰もが子どもを持つ必要はないが、社会にとっては子どもは必要である。子どもという存在自体が祝福されるべきだし、彼らは私たちの希望であり未来でもある。そういう人たちが自分らしく育つ環境を用意するためには、時間的にも精神的にも世話をする人たちにゆとりが必要だ。コロナ禍は、働き方を見直すだけでなく、家事や育児の重要性や女性たちの負担の大きさに気づくチャンスでもあった。

新しい時代の企業には、ぜひ次のことを前向きに検討して欲しい。それは、労働時間を柔軟に設定し、在宅勤務を可能にすること。また、仕事時間と家庭の時間を個人がフレキシブルに設定できることや、長時間労働を止めさせて生産性を高めることである。もちろん、実現にはセキュリティ対策その他やるべきことはたくさんあるだろうが、新しい働き方は、長く経済が停滞し、少子化が進んできた社会に、新しい潮流をもたらすのではないだろうか。

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