コロナ禍発生から半年が経過し、大きな変化が見られる東京都の人口動向
既に多くのメディアが報じている通り、新型コロナウイルス感染症の影響(以下、コロナ禍という)により東京都の人口動向にこれまでとは異なる変化が生じている。東京都の月別の転出入動向は、外国人を含む現在の形で統計が集計された2013年7月以降、本年4月まで一度として転出超過となった月は無かったが、本年5月以降、6月を除き転出超過が継続している。
そして、4、5月の緊急事態宣言期と7月以降の陽性者数再拡大期とでは変化の内容が質的に異なっている点にも留意すべきと考えられる。
本稿では、こうした観点から「住民基本台帳人口移動報告」のデータを用いて、国籍や年齢、転出入の内訳など、この変化の詳細を分析し、今後の可能性について考察する。
コロナ禍により転出超過に転じた東京都の人口動向
■緊急事態宣言期間中の5月に転出超過に転換、陽性者数再拡大によりさらに大きな転出超過へ
これまで、図1に示す通り、東京都は1997年以降、年間の転出入動向は一貫して転入超過であった。こうした東京への人口集中に歯止めをかけるため、地方創生法に基づく取り組みをはじめとしたさまざまな地方振興策が進められてきたが、東京への転入超過を抑制することはできなかった。しかし、コロナ禍により東京の人口動向に異変が生じている。
東京都の月別の転出入超過数は、図2に示す通り近年は毎年ほとんど同水準で推移してきた。しかし、緊急事態宣言下の4月に例年の同月と比較して転入超過数が大幅に減少し、2013年7月以来はじめて転出超過となった。
その後6月には若干の転入超過となり、昨年までの同月期とほぼ同じ水準となったが、東京都の新型コロナ陽性者数が再拡大した7月に5月を上回る転出超過に転じ、8月はさらにその規模が拡大している。
コロナ禍発生から現在までの人口動向の詳細
■新型コロナ発生当初の3、4月に外国人の若年層を中心に大幅な転出超過
図3に示す通り、コロナ禍発生当初の3、4月は外国人が転出超過となっていた。この2カ月、日本人は転入超過であったため全体としては転入超過だったが、その後5月には外国人の転出超過数は縮小したものの、日本人が同程度の転出超過となったため東京都全体としても転出超過となった。図4に示す通り、この時期に転出超過となった外国人の大部分を20~24歳が占めており、留学生がその中心となっていた可能性がある。6月以降、こうした外国人の大きな転出超過は見られなくなっており、7月以降の転出超過は主として日本人によるものであると言える。
■緊急事態宣言時及び7月以降の陽性者数再拡大期に例年と比較して日本人の転入超過数が大幅減
例年、東京都における日本人の転出入動向は、進学、就職、転勤により3月に大きな転入超過があり、4月も3月ほどではないが他の月と比較して大きな転入超過が見られる。これに対し、図5に示す通り、本年度は緊急事態宣言が発出され、行動が大きく制約された4月、5月に昨年と比較して大幅に転入超過数が減少した。その後、緊急事態宣言が解除された6月には昨年からの転入超過数減少は縮小したが、東京都で陽性者数が再拡大した7月、8月は再び昨年と比較して大幅に転入超過数が減少し、その規模は拡大している。
■緊急事態宣言時と陽性者数再拡大期とで異なる日本人の転入超過数が減少した年齢層
東京都における日本人の転入超過数の年齢階層別の特性を見ると、4、5月の緊急事態宣言時と7、8月の東京都の陽性者数再拡大期とでは明確な差異が見られる。図6に示す通り、緊急事態宣言時は前年同期と比較して15~19歳、20~24歳の転入超過数が大幅に減少している。これは、緊急事態宣言に伴う大学の授業のリモート化や在宅勤務の増加、東京都での陽性者数増加への不安などにより、進学及び就職による東京都への移住が例年よりも減少したことが主要因である可能性が高い。また、25~34歳を中心に幅広い世代で昨年よりも転入超過数が減少しており、転勤や住み替えなどによる転入の減少も要因となった可能性がある。
一方、7、8月の東京都の陽性者数再拡大期は、4、5月と異なり進学・就職の影響がないため、15~19歳の転入超過数は昨年と比較してほとんど変化がなく、20~24歳の転入超過数の減少幅も半減している一方、25~29歳の転入超過数を中心に25歳以上の世代の減少幅が4、5月と比較して拡大しており、転勤や住み替えなどが主要因で転入超過が減少した可能性がある。
■7月までの日本人の転出超過は転入の減少によるものだったが、8月に転出が大幅増加
日本人の転入超過減少を転出、転入に分けて見ると、図7に示す通り、3月には転出、転入とも前年よりも大幅に増加している。これは、4月以降の緊急事態宣言発出可能性が見込まれる中、転勤などにより4月以降の東京への転入が予定されていた人々が早めに転入した可能性がある。
その後、4、5月は転入、転出ともに前年から減少しており、緊急事態宣言に伴う行動制約により移住自体が大きく減少したと考えられるが、転出を大きく上回る規模で転入が減少したことで大幅な転出超過となった。
さらに、緊急事態宣言が解除され、移住が容易となった6月は反動により転入、転出とも前年よりやや増加したが、その後、7月以降の東京都の陽性者数再拡大期に入ると、まず7月に再び転入が減少し、さらに8月には転入の減少に加え、転出が大きく増加したことで大幅な転出超過となった。
今後の可能性
ここまでに整理した通り、東京都の転入超過が昨年と比較して大幅に減少した要因は、4月から7月までについては、進学や就職、転勤、住み替えなどで例年であれば東京都に転入していた人々が、緊急事態宣言による行動制約や東京都での陽性者数増加への不安から、他地域を居住地に選択したことや移住自体を取りやめたことが主たる要因であると考えられる。
しかし、8月には昨年と比較して転出数が大きく増加しており、これは、東京都在住者が陽性者数増加への不安や在宅勤務の増加などを背景として、他地域に移住した可能性がある。
当面は、新型コロナウイルス感染症の不安が完全に解消されるとは考えにくいが、中長期的にみれば、雇用の場や様々な都市機能が集積する東京都の生活の場としての魅力は依然として高く、ワクチンの開発、普及や治療法の確立など新型コロナウイルス感染症への不安が解消されれば、現在のような転入超過数の減少傾向は落ち着いていく可能性が高い。
一方で、必要に迫られて幅広く普及した在宅勤務と組織内外のリモートでのコミュニケーションは既に定着し、新型コロナウイルス感染症の不安が解消されても変わらない可能性が指摘されている。
今後、在宅勤務の増加により、これまで職住近接を重視して都内に移住していた人が移住先に他地域を選択するケースや、都内居住者が空間にゆとりのある住環境を求めて郊外に移住するケースが増加する場合、東京都の転入超過数の減少が進む可能性がある。
コロナ禍により急変した東京都の人口動向が今後どのように推移するかは、東京都における新型コロナウイルス感染症の不安がいつごろ、どの程度解消されるか、在宅勤務とビジネスのリモート化がどの程度進展するか、それにより東京都の生活の場としての魅力や優位性がどのように変化するかよって左右されると考えられる。