正社員は在宅勤務、派遣は出社は仕方ないのか? 派遣の私、今日も会社に行きます

派遣社員は、仕事を辞める「ゼロ」か、感染の心配(恐怖)を抱えて出社する「100」かしかありません。
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B.S.P.I. via Getty Images

(文:派遣のハケ子)               

ハケ子が現在派遣されている派遣先は、命を守る業種でもライフラインを守る業種でもありません。だから社会貢献をしていないのかと言うと、そんなことはありません…これは、どの業種でも一緒だと思います。何らかの形で、どの業種もこの世の中に何かしらの影響や貢献をしているものだと思います。

そのなかでも、命を守る業種とライフラインを守る業種以外は営業活動や社員の出勤を自粛させよという「お願い」が、政府から出ました。緊急事態宣言です。それを受けて対象地域の知事らからも自粛せよという「お願い」が出ました。これに応じて、テレワークなどの在宅勤務が広がっています。

しかし、そうはいっても日々の通勤電車はそれなりに混雑し、日々出社をする人はいます。それに対し、発言力のある方々が「出社しちゃうんだ」「危機感無さ過ぎる。自分は安全と思っているのがおかしい」などとSNSで発信をし、そこへ多くの反論が寄せらています。

ハケ子はその「出社しちゃうんだ組/危機感無さ過ぎ組」に入っており、毎朝出社しています。そこには派遣社員ゆえの出社が存在しています。

派遣社員だから仕方ない…のか?

感染症で業務を自粛や縮小するという経験は、派遣先も派遣元も派遣社員も初めての経験です。正直、派遣先企業も派遣元企業も、派遣社員をどうこのコロナ禍の中で取り扱えばいいのか、まごまごしているのではないかと現場にいる派遣社員当事者として感じています。

Twitter界隈でそのあたりを見ていると、派遣先や担当職種が在宅勤務に親和性があり、派遣社員にも在宅勤務をさせようという考えの派遣先に当たれば、派遣社員であっても在宅勤務へ移行というケースもあります。

しかし、派遣社員への貸与PCの問題や勤怠管理含め業務の指揮管理をどうするのか・・・在宅勤務に向かない、できない理由ばかりに目が奪われ、派遣先がその決断に踏み切れないケースがなかなかに多いようです。    

ハケ子は後者の部類にあります。そうして派遣社員の在宅勤務の仕組みを持たない派遣先企業や、仕組みはあっても派遣社員に在宅勤務をさせる決断ができない企業は、潔く、派遣社員を自宅待機にすればいいのですが…。人類と感染症の世界的な戦いという先行きが見通せない景気の傾きに対し、少しでも支出は抑えたい。自宅待機で稼働していない派遣社員に対して賃金補償の負担は避けたい…そうして、契約解除という考えに至ることは想像に難くありません。

派遣会社としては、契約が切れるのを恐れます。テーマパークが派遣社員の一斉雇止めをしたことも記憶に新しいところですが、各企業が派遣切りを始めるその中で、派遣先へ賃金補償のお願いはしづらい。契約が切られるくらいなら現場へ派遣社員を行かせ続けた方がよいという判断になることも想像に難くありません。

派遣会社は、派遣先様のご意向が何より一番の仕事です。派遣先が「あくまでも、派遣社員による自発的希望により出社したいのであれば」と先方が望めば、派遣社員を「感染に気を付けて派遣先様のご意向に従ってお願いします」となります。実際、派遣会社営業からそんな内容の『お気遣いメール』がやってきています。

これでは、派遣社員の出社自粛は望めません。派遣社員本人の力ではどうにもなりません。「企業側のやる気」にかかっており、派遣社員は仕事を辞めるゼロか、後ろめたい気持ちや感染の心配(恐怖)を抱えて出社する100か、しかありません。派遣労働者自身は、それぞれがどう自分の健康と命と雇用をこのコロナ禍の中で守り戦火をくぐり抜け生きる糧を確保して生き抜くのかという、難しい課題を派遣社員自身、抱えることになっています。

これだけではなく、国としての賃金補償問題も一気に噴出しました。政府が対応してこなかった非正規問題のツケが噴出したとも言えるかもしれません。このままでは派遣社員に出社自粛を求めるのであれば、派遣社員自身が賃金ゼロで生活が詰むことを飲み込んだ、派遣社員自身の「ご厚意」による犠牲の上に出社自粛が成り立つことになります。

ハケ子自身は現在、派遣先に派遣社員を在宅勤務させる仕組みがなく、システムへも自宅から入れないため出社をしています。職種柄、自粛のお願いが出ている期間中すべて在宅勤務はもともと難しい部分はありますが、現在の派遣先に自宅待機という選択肢もありません。また、オフィスに来る紙書類の処理やオフィスでしか操作できない経理システムを動かす作業もあります。それなら出社しか働く方法がない派遣社員のハケ子が出社し、部内の正社員は全員在宅勤務という形となっています。

他部署でも同じ状況でやむを得ず派遣社員たちが出社しています。それぞれの派遣社員と話すと、現在派遣先に数社入っている派遣会社はどこも自宅待機へ向け、一応は賃金補償の交渉含め行っているようですが、交渉が難航しているようです。

その中で派遣社員らで声を上げたこともあってか、派遣先は遅まきながら派遣社員が在宅勤務できるよう派遣社員を使用する部署へ業務指示書を作成するよう指示し、貸与PCを用意する準備をしていますが、市場で品薄になっている備品類などの関係もあって整うのは緊急事態宣言期間の後半かもしれません。

ウイルスにやられるか、生活費が底をついてやられるか…結局どっちであっても派遣社員は詰んでしまいます。非難されるかもしれませんが、なんとかこうして仕事を続けていれば、もしかしたらこの戦火を生き残れるかもしれません。そんなところに自分の生活を託すしかありません。

職業に貴賎なし、命は平等…なの?

ハケ子の場合、職種柄出社をせねばならない部分はありますが、仕組みと企業の決断があれば、正社員と当番制で出社と在宅勤務もしくは自宅待機ということができないわけではありません。しかし、職種柄というよりも「派遣社員だから」という理由で出社をすることになってしまっています。それを拒めば雇止めという企業の決断に従うことになります。

中には正社員であっても出社をせねばならない人だっている、派遣社員はまだマシだという声があるのも知っています。ですが、こうして「派遣社員だから」という理由で出社をすることになってしまう労働者がいることも事実です。ハケ子だけでなく、他にも多くの派遣社員がそうした立場にいます。

正社員が現場にいないのは違法だ、という声もありますが、そこは企業です。ちゃんと対策はしていますし、誰かしら正社員1名くらいは現場に出ねば仕事にならない人がいますので、出社しています。指揮命令者の常駐を問題視する声もありますが、派遣先責任者は異なりますので指揮命令者が常駐していないのは遠隔からでも指揮命令が可能であれば違反にあたりません。(出張で長期不在になる正社員が出ることもありますから…)

職業差別だ!という声もあります。本来はこういった事態を考えて派遣先と派遣会社とが事前にどうするのか、派遣社員への賃金補償も含め考えておくべき事でした。その対策が「派遣社員だから」という理由でされてこなかったのであれば職業差別です。我々が経験しているこのコロナ禍を礎に今後に生かしてもらい職業差別を撤回をしていただくしかありません。企業の責任です。

苦情を言うべきです!声を上げるべきです!団結しましょう!…これについては多くの派遣社員が既に、今この最中に声をそれぞれ上げていると思います。派遣先と派遣会社を相手に日々の仕事をこなしながら声を上げていると思います。

ハケ子自身、先に書いたように他社からの派遣社員も含め改善要求と何本もの改善案を派遣先に出しています。派遣元にも、営業担当者にも声を上げています。相手は企業です。なかなか難しいものがあります。人レベルの話では気持ちはわかるし、なんとかしたいと言ってはくれますが、なかなかその先へつながりません。我々も喉元に契約解除という刃物を突き付けられた、か弱き労働者です。現場も一枚岩ではありません。うまくいきそうなら乗っかりたいけど・・・失敗しそうなら知らん顔したいという思いの人もいます。当たり前だと思います。今契約がそれで切られてしまえば、次がどうなるかわかりません。誰もが一緒に声をあげられるわけではありません。

もし、あなたの身近にこうして「派遣社員だから出社しないといけない」人がいて、苦情を言うべきだ、声を上げるべきだ、違法だ、と思うそのお気持ちで、その派遣社員の胸の内に耳を傾けていただき、一緒に声を上げていただければと思います。派遣社員を理由にこうした選択ができない事はあってならない、社内に在宅勤務の仕組みがないのであれば、賃金補償の上で自宅待機ができるようにと、一緒に企業へ呼び掛けていただければと思います。

派遣社員は解雇されても、自宅待機で給与補償がないも、当たり前。それを選択したのは自分。そういう文句言わないの。そんな声も多くあります。しかし、派遣社員も同じ労働者です。同じ命のある人です。適用されるべき法もあります。また、家族と同居する派遣社員も大勢います。同じく、不安を抱えながら日々出社し仕事をしています。どうか、身近にこんな風に声をあげている派遣社員がいたらお力をお貸しいただければと思います。

出社…せざるを得ない

出社しちゃうんだ、危機感が無さ過ぎるという声に対し…私たち出社組は自分が安全だ、感染するわけない、なんてこれっぽちも思っていません。自分が感染し他者へ与える恐怖も持っています。自分は危険であり、もしかすると症状がないだけで感染しているのかもしれないと思いながら、ゼロか100かの選択の中で出社しています。

出社しちゃうんだ…そうです、出社します。せざるを得ません。

私たち非正規労働者は派遣社員は経済的体力は皆無です。賃金補償がなければ、ゼロを選択することは生きることを諦めることなのです。大袈裟だとおもいますか?もしそう思うならそれはとても想像力に欠けた尊大な考えです。

最後に…

派遣社員という立場とは別に、職種柄出社せざるを得ない人へ、周囲として何ができるのかもぜひ、考えていただければと思います。書類の締め切りを守る、正しく規定通りに作成する、単価を誤らず受発注する、こんな些細な事でもその部署にとっては助かる事も多くあります。取引先へイレギュラーを起こさない無茶ぶりしないというのも大変助かります。また、誰かが在宅勤務するために出社をしているという立場の人もいます。それぞれが誰かに支えられていることを思いつつ、乗り越えていければと思ったりしています。

これから迎える新緑の季節の新鮮な緑が明るいまぶしい緑となるか否かの行動は、出社組の自分たちにもかかっていることはよくわかっています。自粛できる仕事のない日は徹底的に自粛して過ごすなどそれぞれが努力をしていると思います。出社することを安易に叩くのではなく、そこに何が起きているのか想像をしていただければと思います。有事に金の話をするのがそもそも・・・という事なのかもしれませんが、それが無くては私たちは生きていけません。だれも助けてはくれません。出社させてしまう、危機感が無さ過ぎるのは企業です。一緒に声をあげていただければと思います。特に、発言力のある方や社会に一石を投じる腕力あるメディアにはそれを切に願います。       

(2020年4月12日の派遣のハケ子さんのnote「出社…します。」から転載。)

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