俳優たちが経験した性的暴行、差別にも言及。デンマークが「性」について中学社会科で学ぶ意義

#MeTooなどの話題にうんざりし始めている人も増えているなか、私たちはこの問題についてどのように議論を続けていけばよいのだろう。
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monkeybusinessimages via Getty Images

#MeToo がSNS等で語られるようになって既に久しい。同時にこの話題、特に女性の受ける性差別や性的暴行の話題には、うんざりし始めている人が増えているのも事実だ。デンマークでも女性がこういった話を始めると、無言になる人、またその話題かと明らさまに態度を変える人もいるという話もあり、一度は議論の場に持ち出されて一定の承認と効果を得たものの、この先どのようにして議論を続けていくかは、わたしたちの新たな課題でもある。

そんなことを思っていた矢先、デンマークの中学生向けの教材ポータルサイトで、#MeToo が学習テーマとして中学社会科で取り上げられていることを知った。デンマークでは、教材ポータルサイトは教科書と同じように扱われ使用されている。少し調べてみると、性に関するテーマはなにも #MeToo に限ったことだけでなく、「性と平等」というカテゴリーの中で「性の役割」「性的アイデンティティ」「平等と性」「LGBT」という項目と同列に扱われていることがわかった。

中学社会科の学習テーマ

デンマークの義務教育では社会科は8年と9年(日本の中学2年と3年に相当)で教えられている。教育省が規定している中学社会科の共通目標では、この教科には4つのカテゴリー、「政治」「経済」「社会的、文化的制約」「社会的手法」が設けられている。

このうち3つめの「社会的、文化的制約」では、その習得目標がさらに「社会化」(socializing)「文化」(culture)「社会的分化」(social differentiation) という3つの分野に分けられ、以下のように指導目標が定められている。

3つの知識分野において、生徒が知識と能力を用い、社会や文化に関する問題に自ら意見を持ち、行動できるよう指導する。つまり、生徒が社会的、文化的制約といったテーマについて、分析でき、政治的な立場について議論でき、社会的、また異文化的視点を含んだ文化的な文脈において、責任をもって参画できるようにするということである。
デンマーク子ども・教育省 社会科ブックレット2019 25ページより

この3つの分野は更にそれぞれに習得目標が定められているが、「文化」では例えば文化的現象や、それが個人や一定のグループに与える意味について社会的概念を用いて説明、分析できることが求められていたり、また「社会的制約」においては、貧困、不平等、階層といった問題について様々な専門的、政治的視点から指導することが求められている。またそれぞれ時事的な社会問題を扱うことも奨励されている。

性に関するテーマは上記の切り口から多様に扱うことができ、また時事的なテーマを扱うことも重視されることから、教材ポータルサイトでも扱われているようだ。

#MeTooをどう扱うか

さわひろあやさんのnoteより

では、このポータルサイトの「性と平等」というテーマを少し掘り下げてみよう。このテーマは既述したように「性の役割」「性的アイデンティティ」「平等と性」「LGBT」「#MeToo」 という題材に分かれている。例えばこの中で「#MeToo」 を選ぶと、学習のためのテキストと、いくつかの課題が表れる。テキストは、#MeToo に至るまでの世界的な流れ、権力や性差別に関する解説、性的暴行についての統計が簡単に紹介されている。さらに、デンマークの俳優たちが経験した性的暴行、差別について赤裸々に語っている動画からいくつかが紹介され、動画を見た後に議論をするという設定になっている。

ここで紹介されている動画を2つ紹介したい。ひとつめは、女優のJulie Grundtvig Wester が、中学を卒業した夏にレイプされ、それを誰にも言えずにいた経験が語られる。これは#MeToo が始まったことと関連して紹介されている動画だ。

夏至の日にボートでレイプされました。その時は誰にも言いませんでした。そんなことは、きれいで優秀な女子には起こらないことだと思っていたからです。わたしは汚くて安っぽいから、これは自分のせいだと思っていました。わたしは不十分で、きれいでもなくて、他人からきちんと扱われるべき人間ではないからだと思っていたんです。自分のことをこんなふうに考えていました。何年経っても、男子が自分に近づいてくるのを恐れていました。今はもう大丈夫です。この体験について思い出すのは自分の限界を超えるような感じではあるけれど。
じゃあなぜわたしがこの話をしているのかって?それは、この議論が重要だからです。こういう出来事を声をあげて話すことで、恥だという気持ち、自分を責める気持ちを取り去ることができるからです。実際、#MeToo も含められる、こういった議論をSNSでするのは、わたしはしんどいなと感じてきました。ある知人がフェイスブックで「MeTooはもう終わりにすべき」と書いたのを見るまでは。「もうわたしたちは自分が被害者だと考えるのは止めるべき。そんなことをフェイスブックに書いたって何も変わらない」と書いていたんです。わたしはそれに全く同意しません。もし、こういうことを議論できないなら、もしこういう出来事を自分の心にだけしまい込んで、家で一人ぼっちで、こんなトラウマになるような体験から立ち直ろうとするなら、この文化を変えることは全くできないじゃないですか。それっておかしいじゃないですか。本当に多くの女性がレイプや性的暴行を受けているんだから、わたしたちは、なぜそんなことが起こるのか話し合わないといけないんです。そしてどうすればそれが起こらないようにできるかを。

MeToo fortælling genfortalt af Julie Grundtvig Wester

わたしのせい?

さらにここでは、自分を責めるということとそれがもたらす問題についても扱っている。

多くの人々は暴行を受けると、それに恥を感じて言葉にすることが難しくなることがあります。しかし、トラウマになるほどの経験について言葉にできないのは危険なことです。なぜなら、心的外傷に対処するためには、まさに言葉にして語ることが往々にして必要であるからです。以下の動画では、若い女性が自身の経験について語ることができなかったことが、どのような影響を及ぼしたかについて見ていきます。
Clio.me Samfundsfag, “Køn og ligestilling” #MeToo より

女優のAnne Louise Hassingが動画で以下のことを語る。

わたしは6,7年生の間、男女混合のスカウトに参加していて、性的暴行を受けました。それをしたのは、わたしより何歳も年上の人たちです。始まりは、わたしが彼らの膝の上に座らされたことでした。一見何事もないような感じでした。そのあと、わたしの身体や性的な部分を触り始めました。最悪だったのは、わたしがその人たちの身体を触らなくてはいけなかったことです。覚えているのは、その時、自分は幼く、汚らしいと思っていました。なぜなら、止めてと言えなかったからです。でもその人たちが何をするかわからないと恐れていたし、他の人にやってることを言われるのも怖かったんです。当時のわたしはあまり人気もなかったし。このことを誰にも話しませんでした。自分の親にさえも。そしてスカウトを辞めました。母はスカウトの制服や道具にお金がかかったのにといって怒っていたのを覚えています。2年後、わたしは摂食障害になりました。治療を受けている時、わたしはこの時期のことを話すことは一度もありませんでした。それは、暴行を受けたのはあなたの責任だと言われるのが怖かったからです。何年間ものあいだ、わたしは誰かが自分の身体に触れることさえ嫌でした。今は、このことについて向き合い、立ち直っています。ある程度のところまでは。起こった出来事について、自分が悪かったとはもう思っていません。わたしはむしろそのことを誰にも話さなかったことだけを後悔しています。わたしは本当に、こんなことが若い女の子たちに起こってほしくないと思っています。MeToo fortælling genfortalt af Anne Louise Hassing

さらにこの#MeToo テーマに関し、生徒が取り組む具体的な課題では、職場やスポーツクラブ等、様々な社会的文脈で起こっている問題を扱っている。またテーマの最後には「タブーを壊そう」というタイトルで、性的暴行を防止するためのキャンペーンを行う課題がある。以下、簡単にこの課題を紹介しよう。

課題「タブーを壊そう」

性的暴行がなぜ社会で問題なのか、誰に最も影響があるのか、なぜ多くの性的暴行が起こるのか、誰に向けたキャンペーンをするのか、ということをまず踏まえ、キャンペーン対象者の特徴、関心、コミュニケーション方法を考慮し、どのようなメディアで、どのようなメッセージを発信することが最も効果的であるかを考える。そして、自分達が広告企業で働いているという想定のもとに、顧客にむけてプレゼンを行う。プレゼンでは以下のことをまず発表する。

・キャンペーンの内容を簡単に紹介、
・伝えたいメッセージを簡潔に正確に伝える、
・対象者が誰なのかとその理由、
・メディアの種類とその理由、

その後、生徒たちは具体的なキャンペーン制作に取り組む。動画やポスターなど、グループで一定の時間取り組む。

制作が完了するとそれぞれグループごとに発表をする。可能であれば学内に展示する。そして最後には各グループごと、またクラス全体で評価を行う。評価項目は以下の通りだ。

・キャンペーンは目的にかなっていたか
・メッセージは届いたか
・対象者に届いていたか
・より改善できる点はあるか

さらに多様に性のテーマは扱われている

これはある教材ポータルサイトの中で、#MeToo を性と平等に関するテーマのひとつとして取り上げた例であり、この内容や課題を実際にどれぐらいの学校や教員が扱っているのか、またどれだけ実際に時間をかけて扱っているのかはわからない。しかし今回は詳しく紹介できなかったが、LGBTや性役割など、様々な角度から同じように性に関する様々な社会的課題やジェンダー問題について扱われているのは興味深い。また性に関するテーマは他会社の社会科ポータルサイトでも同様に扱われており、例えば#MeToo ではなくてもフェミニズムというテーマで、同じように性やジェンダーについて扱っている。さらには、社会科だけでなく、中学国語科でも、映画、テレビCM、文学の中でジェンダーを分析するという課題もいくつもある。ディズニー映画における性の役割を分析するというものもある。また、毎年2月には全国の学校で、一週間、性教育が奨励されている週もある(Uge 6)。このように、社会における性のあり方については、デンマークでは既に様々な角度から学校教育で扱われていることがわかる。

次世代を担っていく若者たちが、わたしたちの経験を踏まえ、公正で自分らしく存在できる社会を作り生きていく、そのために教育が役割を果たすとすれば、これはまさにその一例といえるだろう。わたしたちの様々な経験は、語り伝え、学びのもととなることで無駄にはならないのだ。

(さわひろあやさんのnote掲載記事「性について社会科で学んでいますか?」より転載。)

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