【国内患者数120万人】心不全の悪化を早期発見する?「RST算出プログラム」の最新治験について聞いた

心不全患者の再入院を回避するため、症状が出る前の不顕性増悪を早期に検出するための研究が進んでいる。モニタリングシステム「RST®算出プログラム」を用いた大阪大学による最新治験の結果が記者会見で発表された。

日本における死因の15%を占めるとも言われている心疾患。その41%を占めるのが心不全だ。

令和2年(2020年)の日本における心不全患者数は約120万人と推定されており、また罹患率は高齢になるほど高くなるという。また、平均寿命の延伸や高齢化が進む現代の日本において、心不全患者数は増加の一途を辿っている。

そうした中、パラマウントベッドの子会社であるハートラボは、呼吸安定性の定量評価指標である「RST(Respiratory Stability Time, 呼吸安定時間)」を遠隔で閲覧できるモニタリングシステム「RST算出プログラム」を開発。同プログラムは、大阪大学において心不全に対する医学的有用性が確認されている。

同プログラムにおける最新治験の詳細と成果について、大阪大学は2024年12月中旬、大阪大学国際医工情報センター(吹田キャンパス)にて記者発表を実施した。

RSTとは?心不全の未来を考えるキーワード

RSTを用いたモニタリングシステムの実装を2012年に開始した大阪大学国際医工情報センターの麻野井英次さんは、この新たな指標誕生の背景について「心不全患者の昼間の息切れや疲労感は夜の睡眠不足によるものではないかと考えて、1997年ごろから患者の睡眠脳波の計測を開始しました」と説明。

計測の結果、患者の睡眠中に呼吸が不安定になっていることが確認され、そこで乱れを定量するための指標としてRSTを考案したと話す。

その後、大阪大学大学院医学系研究科の宮川繁さん(心臓血管外科学)と坂田泰史さん(循環器内科学)らの研究グループは「安全かつ非侵襲で、誰にでも適用でき、不顕性増悪(息切れや体重増加など明らかな悪化よりも前に現れる悪化)を早期検出できる遠隔モニタリングシステム」の開発を目指しRSTの臨床的有用性に関する研究を開始した。

左から宮川繁さん、麻野井英次さん、坂田泰史さん。
左から宮川繁さん、麻野井英次さん、坂田泰史さん。
提供:大阪大学

研究の背景について、宮川さんは「近年は心不全患者の再入院を回避するため、症状がでる前の不顕性増悪を早期に検出するモニタリングシステムの研究が進んでいます」と説明。

アメリカで開発されたシステムでは、圧センサーを肺動脈内に植込み、肺動脈圧をモニタリングすることで不顕性増悪を検出し、早期介入により入院を抑制できたことが報告されている。しかし、このシステムは身体的、経済的に患者への負担が大きく、またデータ送信の操作を患者がしなければならないというハードルの高さもあり、日本では未承認となっているという。

「RST算出プログラム」は、患者が体動センサーを敷いた寝具に就寝するだけで、体動信号がプログラムのあるクラウドに自動送信され、終夜のRSTが毎日、自動計算されるというもの。算出されたRSTは遠隔モニタリングにより病院や診療所で連日追跡が可能だ。

※「RST算出プログラム」は 2024年8月23日付で厚生労働省からクラスII(管理医療機器)のプログラム医療機器(SaMD)として承認されている。

新たに発表された治験結果は?

今回、新たに結果が発表された医師主導治験の結果は、2019年から宮川さん、坂田さん、麻野井さんの大阪大学の研究グループが中心となり、日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもと、国内5つの医療機関とともに実施したもの。

本治験に先駆けて、2017年〜2019年に実施された多施設臨床研究では、RSTが20秒未満に低下すると、入院・死亡に至る重度の心不全症状の悪化が起こっていることが明らかになっており、この知見に基づき、RSTが20秒未満に低下した場合に治療を強化すれば入院を回避できる可能性を示唆していたという。

今回の研究目的は「RST20秒未満への低下は、心不全症状の悪化より前に現れる不顕性増悪を検出できるか」「RST20秒未満への低下は、心不全症状の悪化を早く検出できるか」「RST低下により症状の悪化を早く検出できれば、入院を抑制できるか」「RSTの回復は、心不全の回復を反映するか(RSTが回復すれば入院に至らないか)」の4点を明らかにすること入院リスクの高い外来通院中の慢性心不全患者(73人)を対象に、通常治療群とRST群とに無作為に割付けた。

その結果、RSTは不顕性増悪を検出できることを確認したという。具体的な治験結果は以下4点。


  1. 心不全症状の悪化は、入院の平均1週間前から出現したのに対し、RST20秒未満への低下は入院の平均1ヶ月前から確認(RSTは不顕性増悪を早期に検出した)
    2. 入院前に症状が悪化する時期はRST群、通常治療群ともに入院1週間前で、差はなかった。
    3.  症状が悪化した場合にのみ、治療をできることとした本治験では、2.の理由により、入院率に差はなかった。
    4.  RSTが低下した場合、治療によりRSTを上昇させることができれば、その後入院することはなかった。
提供:大阪大学

治験結果を振り返り、坂田さんは「RSTが有用な指標だと分かった上でどのように治療に活かしていけるのか、介入方法を科学的に探していく必要があります」と今後の課題について言及。さらにRSTを用いた医療が既存の医療と置き換わる場合、その医療費が具体的にどうなっていくかを確認するための臨床研究もすでに企画されていると話した。

パラマウントベッドは「RST算出プログラムの保険適用を目指すハートラボを支援し、RST遠隔モニタリングシステムを普及させることにより、心不全悪化の早期発見と早期治療開始による重症化の阻止に貢献したいと考えています」とコメントしている。

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