ゲームに熱中する子に「してはいけない」3つのタブー

「ゲームをやめないと成績が下がって困るわよ」という親の一言で勉強するようになる子どもはごく一部。では、ゲームばかりしている子どもに、親は何ができるのでしょう?
児童精神科医・関正樹さん
児童精神科医・関正樹さん
不登校新聞

子どもがゲームばかりで親としてどう向き合えばいいのか、不登校の子を持つ親の長年の悩みだ。最近はオンラインゲームも普及し親の心配は増えるばかり。ゲームに熱中する子どもに対し、親ができることは何か。ゲーム問題にくわしい児童精神科医・関正樹さんにお話をうかがった。

* * *

――関さんご自身もゲーム好きだとうかがいました。

ゲームウォッチのパックマンから始まり、小学校低学年のころはファミコンの「スーパーマリオ」や「ドラゴンクエスト」などをよくやりました。

ゲームは今でもよくやります。「スプラトゥーン2」や「あつまれどうぶつの森」など、子どもといっしょに遊ぶことも多いですね。

わが家では寝る時間は決めていますが、それ以外でゲームに関する約束事はとくに決めていません。

――ゲームに関して、不登校の子を持つ親から相談を受けることも多いのではないでしょうか?

臨床においては「学校へ行かないのにゲームばかりでよいのか」「ゲームのしすぎで学習成績が下がるのではないか」といった相談は多いですね。

親が「ゲームをやめたら学校へ行くんじゃないか」という期待を持っている場合、どうしたってネガティブな側面に目が向いてしまいます。

とくに、学習成績はゲームとセットで語られることが多い論点ですが、「ゲームと学習成績を結びつけて語ることは、親子関係において何もよい方向に働かない」というのが私の考えです。

むしろ、悪影響を及ぼす可能性のほうが高いな、と。「ゲームをやめないと成績が下がって困るわよ」という親の一言で勉強するようになる子どもはごく一部です。
 
たいていの子どもは勉強がきらいになる方向に強化されてしまい、親の望むかたちにはなりえません。

また、ゲーム時間と学習成績に関する調査もいくつかありますが、それらはあくまで両者に相関関係がありそうだということを指摘しているにすぎません。

ゲームをしたから成績が下がったという因果関係を論じるものではない、ということもきちんとおさえておく必要があります。

子ども主体で

――ゲームの約束事という話が出ましたが、困っている親も多いと思います。

ゲームに関する約束事を親子間で決めておくことはとても大切です。その際、ポイントとなるのは「子ども主体で考える」ということです。

子どもが幼い場合、本人の守れる力と親自身の守らせることができる力などを考えながら、親が主体的に決めることも多いでしょう。

しかし、いわゆる思春期にさしかかると、子どもは友だちづきあいを通して道徳意識や規範意識をつくり変えていきます。

ですから、この年齢の子どもに親が一方的に決めた約束事を守らせようとしても、ほとんどうまくいきません。

では、どうするか。まずは「これなら守れそうだ」という約束事を子ども自身が考えることから始めます。

親はそれを追認し、「こうしてみたら?」とアドバイスする程度の関わりにとどめる。そして、子どもが約束事を守れたらきちんと評価する。

こうしたプロセスを経て約束事を取り決めていくことが望ましいですし、子どもの道徳意識の発達に沿ったかかわり方でもあると考えています。

つまり、親が子どもに守らせたいことを約束事にするのではなく、子ども発で考え、それが実現可能かどうかをいっしょに考えるアドバイザーになる。これがゲームの約束事を決めるうえでの「親にできること」です。

その際、コツがあります。子どもが遊んでいるゲームはどんなものか、親がきちんと把握しておくことです。

たとえば、さきほど例にあげた「スプラトゥーン2」というゲームはワンプレイの始まりと終わりが明確なので区切りがわかりやすいんです。

しかし、そういうゲームばかりではありませんから、「1日1時間」というような時間制限を安直に設けることは、じつはあまり意味がないんです。

また、「子どもがやっているゲームのよいところを3つ考えてください」という話を私はよくします。

自分が好きなものを嫌っている人と約束事の話し合いなんて子どももしたくないでしょうから、子どもが好きなものに興味を持って近づく、これが大切です。

児童精神科医・関正樹さん
児童精神科医・関正樹さん
不登校新聞

――一方でゲームが持つ有用性については?

ゲームのよいところは、大きく4つあると考えています。

1つ目は「ゲーム上手はヒーローである」ということ。ゲームが上手な子は彼らの世界で一目置かれます。それ自体が友人関係などにおけるストレスから自分を守る保護因子になるわけです。

2つ目は「チャレンジへの耐性がつく」ということ。ゲームによっては試行錯誤を何度もくり返さないと先に進めないものもありますので、ゲームを通じて身につく力だと思います。

また「ゲームは子ども世界の共通言語である」ということ、これが3つ目です。逆に言えば、ゲームをまったくやらずに子どもの世界を生きていくというのは、現実問題として非常に難しいんです。

最後に「離れた友だちといっしょに遊べる」ということ。コロナ禍のステイホームにおいて、ゲームがその機能を果たしていたのは、子どものメンタルヘルスから考えると非常に大きな意味があったと私は考えています。

最近はオンラインゲームをする子どもも増えていますので、もう少し話をすると、「見ず知らずの人とオンラインゲームでつながることはよいのか?」と心配されている親も多いと思います。

不登校の子どものなかには「学校に居場所がない」と感じている子がいます。そんな彼らがオンラインゲームに居場所を求めるということも少なくありません。

同じゲームが好きという共通項を持つ人どうしでゲームを楽しみ、文字や音声などのチャットを通じてコミュニケーションする。

そうしたやりとりのなかで、子どもの内側に少しずつ元気がたまっていくと、いずれオンラインゲームを「卒業」し、リアルの世界に戻っていきます。そういう子どもを私は何人も診察室から見送ってきました。

ゲームになじみがない親からすると、オンラインゲームに対する拒否感は少なからずあると思います。しかし、私の経験では、親がオンラインゲームに寛容であればあるほど、子どもの「卒業」が早いんです。

オンラインゲームには、子どもと現実世界をつなぐ中間の場所として機能している側面がある。これもゲームが持つ有用性のひとつだと私は考えています。

ゲーム障害?

――子どもの好きにさせていては「ゲーム障害」や「ゲーム依存症」になるのでは、と心配されている親の声もよく聞きます。

WHOが2019年に「ICD‐11」という国際疾病分類に「ゲーム障害」を正式認定したことや、今年4月に香川県で施行されたゲームの規制条例などもあいまって、心配されている親御さんはたしかにいらっしゃると思います。

「ゲーム障害」というのは、行動の嗜癖と言われる状態のことです。ゲームの開始・終了など時間のコントロールができなくなっている状態であり、かつゲームが生活の中心になっており、家庭や職場または学校などで問題が生じている状態が、ある程度長期間(基準は12カ月)続いている、それを「ゲーム障害」と診断しましょうというものです。

「うちの子はゲーム障害かも」と見なすということは、どこかふつうとはちがう異質なものとして理解するということです。

もちろん、そうした状況にある子どもがゼロだとは言いませんが、親が心配しているケースの大半は「今、ゲームに熱中せざるをえない理由」がきちんとあり、いずれは先ほどのように「卒業」していく健全なゲーマーだと思います。

――最後に、不登校の子どもとゲームをめぐって親は具体的にどんなことに気をつければいいのでしょうか?

「してはいけないこと」は3つあります。1つ目は「ゲームの約束事を親主体で決める」こと。2つ目は「学習成績と結びつけて語る」こと、先ほどお話した点です。 

3つ目は「ゲーム機本体やコントローラーを隠す」こと。そもそも、なぜ隠すのかといえば、ゲームに熱中している子どもの姿を親が見たくないからという場合が多いんです。

こうした親自身の感情的な行動に対しては、子どもも感情的になってしまうので、たいていうまくいきません。

また、親の目にふれないところで遊ぼうとするため、子どものようすを親も把握しづらくなってしまいます。

「気をつけること」もいくつかあります。子ども部屋に入って「こら正樹、いい加減にしなさい」と急に話しかけてはいけません。

子どもが音声チャットを使ってオンラインゲームをしている場合、親の一言がきっかけで個人情報が特定されてしまう、いわゆる「身バレ」のリスクが発生します。

また、課金の問題についても、子どもはその課金で何をしようとしているのかを把握していないと、約束事をつくれません。1回で済むのか、複数回に及ぶのか。その課金で何がしたいんだと問いかけることが重要です。

最後に、ゲームをめぐっては「ほかの趣味を見つけるように促したほうがよい」というアドバイスが散見されます。

ここでのポイントは「その提案が子どもの特性にあっているか」ということ。勝ち負けにとてもこだわる子どもに対し、ハイキングなどの余暇活動に誘ってもなかなか気乗りしないでしょう。

ゲームをさせないために、という義務感で余暇活動を促しても意味がないんです。くわえて、親もいっしょに楽しめるものが望ましいですね。

子どもといっしょに親も楽しめることってなんだろう。そういう視点で考えていくことが大切だと思います。

――ありがとうございました。

(聞き手・小熊広宣)

『おそいはやいひくいたかい107号~ゲームのやりすぎを心配するとき』(ジャパンマシニスト社)
『おそいはやいひくいたかい107号~ゲームのやりすぎを心配するとき』(ジャパンマシニスト社)
不登校新聞
『発達障害をめぐる世界の話をしよう~よくある99の質問と9つのコラム』(批評社)
『発達障害をめぐる世界の話をしよう~よくある99の質問と9つのコラム』(批評社)
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【プロフィール】

(せき・まさき)
1977年生まれ。児童精神科医。医療法人仁誠会大湫病院児童精神医療センターに勤務。主な共著に『発達障害をめぐる世界の話をしよう~よくある99の質問と9つのコラム』(批評社)、分担執筆に『おそいはやいひくいたかい107号 特集 ゲームのやりすぎを心配するとき』(ジャパンマシニスト社)などがある。

(2020年7月16日の「不登校新聞」掲載記事「ゲームに熱中する子に対して、してはいけない3つのタブー」より転載)

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