大阪の社会福祉法人が、インスタグラムを広報活動に取り入れたところ、ちょっと「映ばえる」状況が起き始めた。今やコミュニケーションツールの主流となったインスタグラム。人材不足に悩む福祉業界で救世主になる可能性を秘めている。
成果を挙げているのは、大阪府門真市に本部を置く社会福祉法人「晋栄福祉会」。大阪、兵庫、奈良で介護施設17カ所、保育施設24カ所を運営している。
福祉業界の人材不足は深刻だ。2018年11月の職業安定業務統計によると、有効求人倍率は介護サービス人材で4・3倍、保育士で3・2倍以上と高く、人材獲得競争は年々激しさを増している。
晋栄福祉会は、昨年から各施設のホームページの刷新に取り組んだ。表示をスマホ対応にし、ツイッターやインスタグラムなどのSNSを導入。就職フェアなどで興味を持ってくれた学生が、施設訪問をしなくても、動画などで手軽に職場の雰囲気を知る機会を増やすことを狙った。
8割がインスタチェック
成果は、各施設で現れた。今年7月1日にオープンした特別養護老人ホーム「神戸垂水ちどり」(神戸市)は、1年以上前から若手職員がインスタグラムに施設の建設工事の進捗や、共に働くことになる仲間のプロフィルを紹介した。
周辺の観光・グルメスポットなどの写真も含めて300件以上を投稿。その結果、介護福祉士などのオープニングスタッフ50人が短期間で集まった。新規採用者の約8割がインスタグラムをチェックし、3割がウェブサイト経由でエントリーしたという。
フォロワー1800人超
インスタグラムのフォロワー数を1年間で2000人近くに伸ばしたのは、幼保連携型認定こども園「東野田ちどり保育園」(大阪市)。江川永里子園長は昨年8月から1日も休まず投稿を続け、当初20人だったフォロワー数は1800人超になった。
投稿するのは、主に行事や園児の日常生活。保護者にとって、仕事の合間に子どもの写真を見られるインスタグラムは、貴重な「安心のお守り」だ。
アクセス数が多いのは、運動会の準備や遠足の下見、職員研修会、忘年会、結婚式…など。意外にも、保育士らの仕事のバックヤードだった。普段は見られない保育士の素顔を知ることで、親近感や信頼感が生まれている。
子どもにも人気
育児の場面での反響も、寄せられている。
「もっと子どもの写真を載せてもらえませんか」
ある時、「東野田ちどり」に1歳児を預けているお母さんからの連絡ノートにこう書き込んであった。「子どもが『自分の写真を見たい』とねだります。ぐずったときも、担任の先生の写真を見ると笑顔になります」とつづられていた。
一方で、プライバシーの保護には細心の注意を払っている。「子どもの写真は悪用されないように、期間を設けて削除しています」と江川園長は話した。
発信こそ力に
広報担当の岩佐俊英さんは「一緒に働く職員の雰囲気を写真や動画を通じて知ったことが、入職するかどうかの判断材料の一つになったのではないか」と話す。江川園長は「就活生や保護者だけでなく、他府県の保育関係者からも反響があった。多くの人とつながれるSNSの力を実感している」と評価している。
若い職員らは楽しんでインスタ投稿に協力している。スマホ世代の彼らにとって、写真や動画は「撮る」のも「撮られる」のもハードルが低い。SNSでの発信は「負担」ではなく「楽しみ」であり、多くのお金を掛けた宣伝より、はるかにリアルを生み出せるツールだ。投稿数が多ければ多いほど、そこから得られる情報は説得力を増し、働く世代に影響を広げる…それが新時代の福祉をひらく力になるのかもしれない。