「自分の身体を嫌いだと思っている子全員に、かわいいって言いたい!」
そう力強く語ったのは、写真家の花盛友里さんだ。
6月26日に刊行された写真集『NUIDEMITA 脱いでみた。2 』(ワニブックス)のテーマは「どんな人、どんな体型の人にも絶対に可愛いところがある」。Instagram経由で応募のあったモデルや一般女性など36名の下着姿・ヌードを撮影したこの写真集、被写体は先着順で決める、シミやシワ、たるみのレタッチはしないなど、“ありのままを写すこと”を徹底している。
確かに「ありのままの身体を好きになろう」というボディポジティブの考え方はとても素敵だ。
でもしかし、だ。こと自分に翻って考えると、シミやシワ、お腹のたるみはないほうがやっぱりうれしいし、自分の身体を好きになることはそう簡単なことではないとも思う。たとえば私の場合、どんなに痩せても胃下垂で出張ってしまう下腹部、浮いたあばら骨、毛深い身体、アトピー肌、原付バイクの事故でできてしまった腕のキズ……ボディポジティブに憧れつつ、「そうは言っても」とどこか斜に構えてしまうところもある。
どうしたら、自分の身体を本当に好きになることができるのだろう。
花盛さんに、本作への意気込みや制作の裏話を聞きながら、自分の身体を好きになる方法について教えてもらった。
「撮った写真をその場で見せて、『自分ってかわいい』を自分で認めてもらう」
「モデルではない、普通の女性を、もっとたくさん撮っていくことで、全員、つまり『みんな、かわいい』というメッセージが伝えられると思ったんです。だから、1作目ができあがったときにはすでに2作目を撮り始めていました」
『脱いでみた。2』の刊行経緯について、花盛さんはこう答えてくれた。実際に、女性たちの表情の明るさが前作以上に際立っていると感じた。
応募してくる女性たちの年齢は20歳から40歳前後と幅広く、学生、会社員、2児の親など多様だが、一般公募は先着順のため、撮影までは顔もプロフィールもわからない。前作以上に一般女性の割合が多く、「緊張してきました」と話す人がほとんどの中、1人あたり撮影時間たった40分という限られた時間で、これほどリラックスした表情を収めるのはプロとて何かしらの工夫が必要なのではないだろうか。
初対面の人の前で裸になっているのに、どうしてこんなに打ち解けた表情になれるのだろう。
「自然な表情を引き出すために、どんなことを意識されていますか」と素朴な疑問をぶつけてみると、意外な答えが返ってきた。
「私自身は写真を撮られるのが本当に嫌いだし、仕事以外ではけっこう人見知りで緊張しちゃって。だから、彼女たちがインターフォンを押してドアが開くまでの間の気持ちがすっごくよくわかるんですよ。人によってちょっとずつ話す内容を変えつつ、基本的には絶え間なく喋っています。『今日何食べたん?』とか『彼氏いんの?』とか聞いて、『そんな彼氏別れた方がいい、次行こ次!』って言いながら(笑)」
話を聞くだけでも、まるで親しい友達同士のようなフランクな雰囲気が伝わってくる。また、彼女たちに気分を上げてもらえるよう「このほくろと後れ毛の感じ、めちゃよくない?」などと、撮った写真を随時見せながら、具体的に、どんなに小さいことでも褒めるように意識しているそうだ。
「自分のコンプレックスについて『ここが嫌いだったんですよね』と話してくれる子に『そうなんだ。でも見て、これきれいじゃない?』と実際に写真を見てもらうことが大切だと思うんです。私がどれだけ言っても、自分の目で見て納得しないと自分の良さを認めることってできないと思うから」
また、被写体の公募を行う花盛さんのInstagramの投稿からも、彼女の人となりが伝わってくる。書籍を刊行することだけにとどまらず、撮影前から撮影までもが、花盛さんのメッセージを伝える工程のひとつになっていると感じた。
「他人の身体を褒めることは、自分の身体を好きになることでもある」
女性たちに向けられた花盛さんの言葉は力強く、嘘がないことが話していて伝わってくる。けれど、「痩せているほうが良い」「シミがないほうがきれい」といった価値観に支配された今の社会において、最初からそのような考え方を持つことができていたのだろうか。花盛さん自身も、同じマインドでいることができているのだろうか。
その答えは『脱いでみた。』刊行前、花盛さんの産休時にまで遡る。
出産後、育児でずっと家にこもっていることが苦痛だったという花盛さん。世の中の真ん中にある「主婦像」や「お母さん像」に引っ張られる感覚を打ち消すための打開策が『脱いでみた。』の企画だった。
「誰に何を強制されたわけでもないのに、どういうわけか世の中の“普通”を意識してしまっていて、このままじゃだめだという焦りが常にありました。そんなループから抜け出すために始まった企画でした」
作品制作が思うようにできないフラストレーションを打破するために立ち上げられた企画。しかし、実際に撮影を開始し、一般の女性たちと触れ合う中で、自分のルックスにコンプレックスを抱えている女性の多さに気づき始める。
「たとえばワイヤー入りのブラで胸を盛ることについても、それまでは何も気にしていなかったんですけど、『胸が小さくて嫌だな』と思っている部分に対して、ワイヤー入りのブラを着けることで胸を大きくして、それが素敵と言うのって何か違うなって。そのままのかたちでも絶対かわいいし、それを認めていかないといけないはずだし、そのままでいいやんって言うことが私の作品でできると思った」
そのとき初めて、「どんな人、どんな体型の人にも絶対に可愛いところがある」といった現在のテーマが立ち上がったのだ。
また、作品を通じて肯定されたのは被写体となった女性たちだけではない。花盛さん自身も、この企画に救われた女性のひとりでもある。
「私も妊娠中の自分の身体の変化が嫌で、受け入れられずにいたから、気持ちはわかるんですけど、自分の身体と似ているはずの他人の身体を見たら、すごく素敵に見えたことがあって。だから、みんなを褒めることって自分を褒めることにも繋がる感覚なんです。私自身も『脱いでみた。』の企画を撮っていく中ですっごく変わってきたから、写真を撮らせてくださった皆さんには本当に感謝しています」
「他人から見た自分は違うと気づくだけで、ほんの少し生きやすくなる」
花盛さんに写真を撮ってもらった女性たちと花盛さん、そして作品に触れた女性たちの間にはポジティブな循環が生まれている。私自身も写真集を通して前向きな気持ちのおすそ分けをしてもらった読者のひとりだが、それでも「自分の身体を好きになる」までの道のりはまだ遠い。
「変わりたいけど変われない人は、どうしたら良いと思いますか」と思い切って聞いてみると、花盛さんはこんな風に答えてくれた。
「どんなに人に褒めてもらっても最後の最後は自分で認められないとどうしようもないから、もしもすごく嫌いなところがあったら、それを少しでもよくするために『1日5分でも努力してみよう』という前向きな気持ちだけでも絶対に変わる。あとは、写真集を見て『この子もちょっと腕太いけど、かわいい。私と一緒だ』といった感じで、似ている人を見つけられたら自分を好きになれるんじゃないかな」
自分の一重まぶたがコンプレックスだったときも、同じく一重でかわいい俳優さんやモデルさんを知ったことで、自分のまぶたを好きになれたことがあった。身体についてもそんな感覚で、自分に似た身体を持つ人のかわいいところを見つけられたら、だんだんと自分を好きになれるのかもしれない。
また、「他人から見ている自分は、自分の思っている自分と違うことに気づくことも大切」とも話してくれた。
「撮影の仕事で、私が『これすごくかわいい!』と言った時、撮られている側の方と意見が食い違うことが結構あるんですよ。つまり、自分が思う「可愛い」と、人から見た「可愛い」は違う。だから、自分が良くないと思っていること自体は変えられなくても、『他人はそうは思ってないかも』と思えるかどうかで、だいぶ生きやすくなるんじゃないかな」
ありのままを肯定することができなければ、努力をすることは必要かもしれない。けれど、どんなに努力しても「完璧な身体」になることはできない中で、OKラインが際限なく吊り上げられていくのは、あまりに苦しい。ときに他人のまなざしに素直になることも、自己肯定感を高める方法のひとつと言えそうだ。
「『これでOK』というマインドを増やしたい」
それにしても、ありのままを受け入れるだけのことがどうしてこんなに難しいのだろうか。自己肯定感が低くなってしまう理由について、花盛さんは加工アプリの存在を挙げながらこう分析する。
「2017年に1作目を出してから2作目を出すまでの間にも、世の中はすごく変わりましたよね。3年前は目を大きくしたり、顎をシュッと細くしたりするアプリはここまでなかった気がします。加工アプリの顔に慣れてしまったら、鏡で見る自分の顔に落ち込むんじゃない?って思う。そうやって自分を否定しながら生きていくのはすごく悲しい」
ボディポジティブの考え方が浸透してきて、リアルサイズモデルを起用しようとする流れが強まる中、逆行するように増えていく加工アプリ。その落差の影響を直に受けるのは、とりわけ10代の若者なのではないか。
実際に、日本の10代の自己肯定感は世界的に見てもかなり低い。 ユニリーバのビューティーケアブランド「ダヴ」の調査によると、日本の10代の9割超が「容姿に自信がない」と答えていて、調査の対象となった14カ国のうち最も高い割合だった。「海外に行ったら周りの目を気にせず薄着ができると喜んでいる人が、日本で自信を持って生活できないのは悲しい」と花盛さんは肩を落とす。
しかし、憂いてばかりではない。「そのままで可愛いよ!と、どんどん言っていきたい」とも。
「『脱いでみた。』シリーズをライフワークにして、見た人が『(私も)そのままでいいんだ』と思えるマインドを世の中に増やしていきたい」
花盛さんのフィルターを通した、しかし、ありのままの他人の身体に触れることは、自分の身体を好きになるための小さな一歩になるかもしれない。
花盛友里(はなもり・ゆり)
フォトグラファー。1983年、大阪府生まれ。中学時代から写真の楽しさに目覚め、2009年よりフリーランスとして活動開始。女性誌や音楽誌、広告などで主にポートレートの撮影を手がける。『脱いでみた。』『寝起き女子』『寝起き男子』に続き、2020年6月に『NUIDEMITA 脱いでみた。2』を刊行。2014年に長男、2019年に次男を出産。