コロナ禍の声帯手術と膝の大怪我。LiLiCoが明かす“人生停滞期”の乗り越えかた

好評連載 第13回 LiLiCoの「もっとホンネで話そう。私たちのこと」
LiLiCoさん
LiLiCoさん
Yuko Kawashima

新型コロナウイルスの影響で、日常生活の変化を余儀なくされた2020年。未曾有の時代に人々の不安やストレスは増し、「コロナうつ」という言葉も生まれました。突然の訃報に言葉を失うこともあります。 

8月に声帯の手術と、膝の骨折を経験し、「人生の停滞期かも」と話すLiLiCoさん。それでも「私の毎日はハッピー」と表現します。

世間を騒がすイシューからプライベートの話題まで、LiLiCoさんがホンネで語り尽くす本連載。今回のテーマは「メンタルヘルス」です。 

LiLiCoさんは、日々どうメンタルヘルスを保っているのでしょうか。起きたことを受け入れプラスに捉える秘訣について聞きました。

「今、人生の停滞期かも。でもね」

Yuko Kawashima

「LiLiCoって、ハッピーに生きてる人間だよね!」

そう思われがちですが、私だってみんなと同じような不安や痛み、怒りを感じています。

今なんて、まさに人生の停滞期かも。

声帯を手術した翌日、大雨の中を転倒して右足の膝蓋骨を骨折。声帯はまだ100%元通りじゃないし、膝も完治まではほど遠い。正座ができるようになるまで、10カ月はかかると言われています。

日常生活を送るのさえ大変。買い物ひとつとっても、松葉杖で両手がふさがってリュックに入る量しか買えないから、家とスーパーを何往復もしなければいけないんです。

料理をするのも、トイレやお風呂に入るのも一苦労。寝ている間も激痛だし、そのせいか食欲がありません。仕事も制限せざるを得なくなっています。

Yuko Kawashima

毎日ブルーですよ。でも、起きたことは起きたこと。出かけなきゃよかったとは思いません。その理由のひとつは、誰にでも困難な時期はあることを知っているから。 

少女時代に読んだ雑誌には、憧れのスターたちがインタビューでつらい時代を乗り越えてきたことが書かれていました。

小さい頃、顔面麻痺と言語障害でいじめられていたシルベスター・スタローン。つらい子ども時代を過ごしながらも俳優を目指し、ポルノ俳優を経て、29歳のときにシナリオを書いた『ロッキー』で主演し、さらにアカデミー賞を受賞しています。

歌手のマドンナも複雑な家庭に生まれ、20歳で35ドルを握りしめてニューヨークへ行き、無名時代にはヌードモデルもしていたといいます。俳優のブラッド・ピットはエキストラ出身で、俳優の地位を確立したのは30代後半ですよね。

両親が離婚し、いじめに遭っていたスウェーデン時代。来日して芸能界に足を踏み入れてからの貧乏時代。マネージャーさんと車中生活を送っていたこともあったけど、私はずっとスターたちの歌や映画、エピソードに救われてきました。

自分だけが特別じゃないし、この経験もいつか自分の財産になる。そう信じてがんばってこれたんです。

メンタルヘルスを保つ秘訣

Yuko Kawashima

私が心の健康を保つためにしていることはひとつ。

自分から人生を楽しくすること。

何かひとついいことがあれば、その日は幸せなんです。いいことがなかったら、自分で作ればいい。

例えば、バラエティ番組のひな壇で、何も言えないまま収録が終わってしまったとき。恥ずかしいし、事務所に申し訳ないし、SNSで何か言われると思ったら放送日を教えたくないほど落ち込みます。

でも帰宅したら、シャンパンと生ハムを用意してみる。そして、面白い番組でも見ながら「おいしいな」って感じられたら、それだけで「今日はいいことがあった」と思うようにしているんです。

いい感情に目を向けることは、難しいけど大事。私も50年間、練習して、少しずつできるようになってきました。

Yuko Kawashima

道ばたにきれいな花が咲いていたとか、すれ違ったワンちゃんがかわいかったとか、そういう一瞬を意識していかないと、自分の心が死んでしまう。

下積み時代によく通った東名高速には、トンネルを抜けると一面の花畑が見えるところがありました。夜は、「10万円の夜景」と呼んでいた“まあまあの夜景”が見えたんです。

いいことがあった日は、そんな風景が特別に美しく映るんですよ。

当時はいいことがなかった日でも、「今日もこの景色が見られたからいいか」と考えるようにしていました。いつかこれを本に書けるんだろうな、とも。

あとは、自分がノッてるときを思い出して、その気持ちを持つのもおすすめです。 

そのときは、どんなことをしていたか、なぜノッてたのかを分析するんです。意外とシンプルな答えだったりする。私の場合、例えばひとつは”毎日玄関を水拭き”すること(笑)。わかったら、今からでもやりましょう〜!

イケてるおばあちゃんの教え

Yuko Kawashima

毎日を自分で楽しくしようと思えるのは、おばあちゃんの影響があるのかもしれない。

18歳で来日した私を受け入れ、かわいがってくれたおばあちゃん。ライブハウスを経営していた彼女は、すごく面白くてイケてる人でした。若い人たちにも好かれていて、みんなに「LiLiCoさんだけのものじゃねぇぞ、俺たちのおばあちゃんでもあるんだからな」って言われたなぁ。 

生前、おばあちゃんがよく話してくれたのは、例えばこんなこと。 

「もし結婚して義母が嫌な人だったら、顔を合わせているときは『はい、お義母さん』って言っておいて、振り向いて背中を向けたらベーって舌を出せばいいの。あなたは生きているし、どうせ向こうが先に死ぬから」

ちょっと笑っちゃいますよね。必ずその順番になるとも限らないでしょうけど、少なくともおばあちゃんはそう考えたからやって来れたんです。その姿がドライでカッコ良かった。

日本では我慢が美学とされるけれど

Yuko Kawashima

私の母は、自殺願望の強い人でした。後年は統合失調症を患って、たびたび「死にたい」と電話をかけてきました。最後まで私は彼女を理解できなかったけれど、他人にはわからないつらさがあったのだと思います。ひとりで海外生活をするのは本当に大変ですから。

我慢が美学とされる日本では、「自分が我慢すればいい」と考える人が多いですよね。

でも、不満や不安を我慢し続けていたら、人はいつか爆発します。自殺、離婚、大喧嘩……そこまで発展する前に、早い段階で口に出して1個ずつ精算していった方がいい。

私も我慢はしているけれど、言うべきことは言う。言えば話し合える。私が間違っていて改めることもあります。

日本では、「正しい」ことを学びます。だから上手くいかなくなると迷う、或いは止まってしまう。でも常にプランB、プランCが頭にあれば、その柔軟さが救いになります。

Yuko Kawashima

(ドラムヴォーカリストで女優の)シシド・カフカさんが雑誌「VOGUE」のインタビューで、私のことをこんなふうに語ってくれたの。 

客観的な視点で自分自身を理解し、納得して生きている人に知性を感じます。たとえ、今自分が置かれている状況がベストでなかったとしても、受け入れ、そこからどんなことができるかを考える。そんなふうに人生を楽しまれているのが、夏木マリさんとLiLiCoさん。かっこいいと思う先輩たちです。

これを読んで、「私ってそういう人かも!」って気付きました。そのときどきでアイデアを出せるのは、LiLiCoらしさであり、スウェーデン人らしさかもしれない。

どんなに生きていけないと思っても、明日また太陽は昇るんですよ。失敗しても、明日は別のことができる。

もし今、あなたがあまり良くない状況にいるならば、今日できたことを数えてみて。小さなことでもいい。それがあなたの人生を少しずつ幸せにしますから。

Yuko Kawashima

(取材・文:有馬ゆえ 写真:川しまゆうこ 編集:笹川かおり)

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