欧米を中心に、世界各地で新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。一部ではオーバーシュート(爆発的流行)を認めており、医療崩壊に直面している地域もあります。
どのようにすれば、この感染拡大を制御できるのでしょうか? そのことを考える足掛かりとして、この新興感染症を(おおむね)制御できている3つの国…中国と韓国、そして日本の取り組みを振り返ってみます。
「地域封鎖」によって流行を抑え込んだ中国
まず、中国。データの信頼性に疑念を示す人もいますが、中国が「地域封鎖」によって流行を抑え込めることを明らかにしたのは事実です。これは偉大な証明であり、武漢同様のアウトブレイクに直面している欧米諸国が、いま中国にならって地域封鎖を始めています。
ただ、中国ほどの厳格さは保てていないようなので、成功するかどうか、まさに固唾を飲んで見守っているところです。
徹底した「ローラー作戦」を実施した韓国
次に、韓国。徹底した「ローラー作戦」により住民への検査を実施し、陽性者を漏れなく隔離へとつなげました。
その結果、集団感染が多発していたにも関わらず、抑え込みに成功しつつあります。
1日で900人以上の新規感染者を確認した日もありましたが、最近は100人前後となっています。間違いなく韓国は、感染症との戦いにおけるモデルのひとつを示したと言えるでしょう。
日本独自の「クラスター対策」
そして日本。私たちは「クラスター対策」という独特の方法をとっています。すべての感染者を明らかにする戦略をとらず、イベント自粛や休校措置、外出自粛など、流行規模に応じて住民の協力を呼びかけました。
そして、クラスター(集団発生)を早期に発見し、その周辺については徹底して検査を実施し、次なるクラスターが発生しないように封じ込めるという戦略です。
さらに、発生したクラスターを丁寧に分析しながら、住民や事業者へと協力を呼びかける内容に活かしています。
複雑な戦略をとったわけですが、結果的には、欧米のようなオーバーシュートを認めることなく、現在(3月31日23時時点)まで感染をコントロールできています。
北海道では大きな流行に至るかと心配しましたが、クラスター対策を地道にやりながら、知事による「緊急事態宣言」を重ねたことが成果を発揮しました。流行早期であれば、地域封鎖によらずとも、住民や事業者の自主的な協力で抑え込めることを証明したのは、世界への重要なメッセージになったと思います。
そしていま、同じ取り組みを東京で行っており、これが成果を示すことになれば、日本がとってきた方法が巨大都市でも有効であることを示すことになるでしょう。
とはいえ、中国も、韓国も、そして日本も、いまだ危ない橋を渡っています。いずれの国も感受性者(免疫のない人)を多数抱えており、いったん収束させたとしても、オーバーシュートへの導火線がむき出しのままになっているからです。
とくに日本は、住民の自主的な協力によって抑え込んできたわけで、今後、気を緩めて大規模イベントなどを開催するようになれば、欧米のようにクラスターを多発させる事態に陥るかもしれません。
そして、それが一定の規模になってしまえば、もはや自主的な協力だけでは抑え込めなくなるでしょう。
そのとき、韓国に学んで「ローラー作戦」を選択することを否定はしません。ただし、これに従事する余裕など地域医療にないのです。私たちは、間違いなく重症者への対応に追われています。診療所もまた、病院の救急外来を避けてくる軽症患者への診療に追われていることでしょう。
韓国では軍隊を投入しました。日本では誰がやるのか…都道府県ごとに決断するのでしょう。ただし、マンパワーの確保だけでなく、トリアージの方針、軽症者の療養先の確保、有症者を集めるリスクを踏まえた感染対策などなど、しっかり検討してから決定いただければと思います。
「やったらいいんじゃないか」ということは誰でも思いつきます。大切なことは、実行可能なスキームへと組み上げることです。東日本大震災で支援に入った石巻市の避難所で、ある保健師が「トイレを掃除しろと言う人はたくさんいても、掃除をしてくれる人がいないんですよ」と嘆息していたことを思い出します。
日本でも法によって「地域封鎖」に準じた対応が可能に
さて…、日本において、どこかの地域がオーバーシュートに直面したとき、現実的に選択されるのは、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく対応となります。同法へ新型コロナウイルス感染症を含める改正案が成立して、3月14日に施行されたばかりです。
この法律では、首相が「緊急事態宣言」を行うことで、都道府県知事には、住民に対して外出しないよう要請できるようになるほか、多数者が利用する施設の使用停止、イベントの開催制限(ほぼ強制)といった権限が与えられます。欧米の一部地域で行われているほどではありませんが、日本でも「地域封鎖」に近いことが可能になるのです。
一定の強制力を働かせながら、かつ住民と事業者の協力のもと、2週間ぐらいじっと我慢していれば、ゆっくりと流行は沈静化へと向かう…ものと期待できます。その間、医療崩壊を防ぐための様々な手立てが打たれます。たとえば、余裕のある地域から医療従事者を派遣したり、重症患者を広域搬送で運び出したりする予定です。
オーバーシュートへの対応は、とにかく素早くやることが肝要です。1日遅れれば、沈静化に1週間はかかるでしょう。数日遅れれば、重症者が蓄積してゆき、集中治療の体制が追い付かなくなるかもしれません。都道府県知事による迅速な「地域封鎖」の判断がカギとなります。そして、住民の理解と協力…。
いつまで続ければ終わるのでしょうか?
感染者数も重症者数も減らしていける
私は、集団免疫を覚悟すべきだと考えています。
もちろん、他にもシナリオは多数あります。夏になれば流行が収束してくるかもしれませんし、そのタイミングで封じ込めに成功する可能性だってあります。革新的な治療薬が開発、発見されるかもしれませんし、ワクチンが思いのほか早く供給されるかもしれません。
ただ、これらのチャンスを手にできなかったとしても、R0 = 1.4〜2.5 との試算に基づき、日本に住んでいる人の 29〜60% が感染すれば収束に至ると理論上は考えられるのです。
なお、このR0とは、感染症に対する社会的なディフェンス能力による変数でもあります(実効再生産数)。つまり、日本人の衛生習慣や行動変容によって「どこまで下げられるか」を考えましょう。それにより、集団免疫に至る感染者数も変えていくことができます。
さらに、重症化しやすい高齢者や基礎疾患を有する方々を社会的に守っていくこと。数字を組み合わせて「致命率はいくつだから何人ぐらい死ぬ」みたいに一喜一憂するのではなく、地域ごとに、事業者ごとに、家庭ごとに、ハイリスク者を限られたリソースで支える方略を検討し、実行可能なスキームへと組み上げていきましょう。
皆で力を合わせ、知恵を重ねて、この難局を乗り切ることができたら、平和で団結した世界が訪れると私は信じています。
そして、私たち日本人は、超高齢社会に欠かせぬ大きな何かを手に入れるのではないかと…ただし、これはまだ、ずっと先の話。