ステージ4のがん。そんな私がずっと1人暮らしをする理由

がんになった後も、可能性は広がっている。

広林依子ブログの読者の皆様へ

広林依子は2017年9月5日に享年29歳で逝去しました。これまで広林の記事を楽しみにして下さっていた読者の方々へ訃報をご連絡しなければならないことを心苦しく感じています。

広林本人の意向により、生前にハフポストへ投稿する予定だった記事を順次、公開します。

広林の記事にあるように、彼女が行ってきた「生産活動」を皆様が憶えていてくれることは、彼女の生を延長させる事になると共に、供養となりますので、是非これまでの記事と併せて読んでいただきたいと思います。(くまちゃん

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デザイナーの広林依子と申します。私は現在29歳の、ごく普通の女性で、独身です。友達とカフェでワイワイ話したり、おしゃれを楽しんだり、ときには海外旅行に出かけたりしている普通の生活を送っています。他の人と違うのは、3年前の26歳のときに乳がんを宣告され、そのときすでに骨に転移しており、それからステージ4のがん患者人生を送っていることです。

このブログでは、デザイナーの私が考えた、【ステージ4のがん患者のライフデザイン】の1例を紹介していきます。今回は、私がずっと一人暮らしをする理由について書いてみます。

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・がんになっても、実家に帰らず一人で暮らす人は多い

「がんを宣告されたら、仕事も辞めて家族の元に戻って、一緒に闘病するものでしょ?」。そう言われたこともありますが、実はそうでもないのです。

若年性乳がんの患者会でヒアリングした結果、意外と一人暮らしを継続している人は多いことが分かりました。なかには、彼氏と同棲を継続し、その後結婚した人もいました。そして、仕事も辞めずに抗がん剤治療をしながら働いている人も沢山いました。みんなの話を聞くと、大事なのは"がんになる前と同じ生活をいかに続ける"こと。それが、がん治療におけるQOLの高さに関わっていると感じます。

私の場合は、転職活動のために仕事を辞めた後にがんが発覚してしまったので、金銭面でQOL(生活の質)が落ちてしまった失敗がありました。だけど、「がん患者としての自分ではなく、私自身をみてほしい。がん患者として扱ってほしくない。まだ26歳で人生をあきらめたくない」。そんな強い思いがありました。

一人暮らしを続けたい。家族にそんな想いを伝えたところ、最初は「実家に帰りなさい」と反対されました。ですが、通いたい病院からの距離や通院時間の短さなどのメリット、いつでも友人に会って気分転換できることなどを伝え、「この先長い人生が続く可能性を大切にして、とにかく自立したい」という強い気持ちを訴えたら、許してくれました。

・一人暮らしをしながら、働く"がん友"たち

周りの"がん友"たちも、仕事を続けながら、他のがん友やパートナーなどに時々助けてもらったりしながら、普通に一人暮らしを続けています。スキルを活かして家でおけいこ教室を開いている友人もいます。なかには、親には言わずに職場にだけ病気をオープンにして、仲間に配慮してもらいながらがん治療を一通り受けてしまった経営者の友人もいます。他にも、がんの経験を活かしてサービスを開発し起業した人もいます。

そんな一人暮らしのがん友たちに共通することは、やはり「一人で抱え込まず、適度に人を頼る」ことだと感じます。身近な信頼できる人に適度にサポートをお願いしている人が多いように思います。無理はせず、周りの助けを借りるなど工夫すれば、意外とがんになった後も以前と同じような生活が続けられるのです。

Haruki Takashima

・治療後も人生は続く、できる限り同じ暮らしを

そこまでして一人暮らしをしなくてもいいじゃないか。そう考える人もいるかもしれません。たしかに何もかも一度にやめて、実家に戻って療養生活を始めることは、当面は治療に専念できていいかもしれません。しかし、後にデメリットにもなることを知ってほしいです。

誰しもがんが発覚したときは、死の恐怖と向き合うでしょう。しかし現代は、がんですぐ死ぬ時代ではありません。仕事や一人暮らしをやめて、一通りがん治療を終えて、意外と人生が続くことに気づく方もいらっしゃいます。けれど、このタイミングで気づくよりも、できるかぎりがんになる前と同じ生活を継続することを最初から考えてみてほしいです。一度がん患者としての生活を始めてしまうと、そこから元の生活にもどるのはなかなか大変なことなのです。仕事を新しく探すのも大変です。がん患者の採用募集はハローワークでも取り扱われていますが、現実的にはまだまだ活発な雇用につながっているとは言えません。病気がわかっても仕事を退職するのではなく、休職出来るなら休職をすることをオススメします。

ステージ4のがん患者としてエンドレス治療をしている私は、病気とともに【自分の人生を生きる】ことの大切さがわかります。がんになる前と同じ生活を続けることは、精神面にも大きなメリットがあります。がんに生活を支配されず、しっかりと自分の生き方を持ってほしいです。

・がん治療しながら一人暮らし、私の毎日

実際に3年間、がん治療をしながら一人で暮らしていますが、ずっと体調が悪いわけではなく元気な時間も多いので、他の人よりウィッグを装着したり投薬や通院などちょっと時間や手間がかかる程度の生活を送ることができています。

朝は、こだわりの煎茶を淹れます。Instagramで世界旅行を楽しみ、本を読み、友人とカフェでわいわい他愛もない話をしたり、ときには美術館に足を運んだりします。一昨年は、友人と海外旅行に行きました。最近は大好きな着物で街歩きを楽しんでいます。金銭的には家族に援助してもらいながら、フリーのデザイナーとして依頼をいただいた仕事もしています。

・気になる医療費、知っておきたい「高額療養費制度」「障害年金」

医療費に関しては、「高額療養費制度」という制度があり、1カ月の医療費は限度額以上はかかることはないのです。たとえ十万円を超える高額の治療費がかかる月があったとしても、自己負担額は限度額までです。人によって限度額は違いますが、例えば国民健康保険の場合だと70歳未満の一般の方は8万100円になります。詳しくは、国民健康保険ガイド(リンク: http://www.kokuho.info/iryou-kougaku.htm )を参照ください。

がんになる前に生命保険に入っていなかったからといって、「もう駄目、お金が足りない」というわけではなく、一定以上の医療費はかからないのでどうか安心してください。入院費は別ですが、今のがんの標準治療は定期的な通院による治療なので、限度額以上の負担がかかることはほとんどないと考えてよいと思います。ファイナンシャルプランナーの中には、高額療養費制度があるので生命保険に入らなくても良いと言う人もいるくらいです。

あと、がん種や病状によって障害認定基準を上回る場合は、障害年金が受けられることもあります。(リンク:https://www.shougai-navi.com/intro/id000326.html )障害年金と聞くとがんでは給付されないように思いますが、がんでも対象になることがあります。国民年金か厚生年金に入っているかなどで条件も変わってきますが、一度確認してみることをオススメします。

・がんになった後も、可能性は広がっている

一人で家にいるときに、もし体調が悪くなったら、そのときは信頼できる友人や家族に頼れば良いのです。私は、普段から頼れる友人がいれば、必ずしも家族に頼る必要はないと思います。私の場合は、私なりのチームを作って適材適所で人を頼るようにして、本当に大変なときだけ家族を頼るようにしています

がんを経験した後も長い人生が続きます。例えば、若年性乳がんの治療を経て、妊娠・出産を考える女性も増えています。今は、若年性がん患者の妊孕性(妊娠のしやすさ)についても活発に研究されていますし、実際に子供を産んだがん経験者は沢山います。抗がん剤治療前に卵子の凍結保存を行い、治療後に妊活する夫婦もいます。がんになっても自分らしく生きている人たちは沢山いるのです。

がんになったら何もかも諦めなければ行けないわけではありません。その先にも人生は続きます。だから私は、今でも一人暮らしを続けています。これからも人生が続くと信じて、前向きに今を生きています。

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広林依子さんはこのブログを執筆後、東京でお母さんと一緒に暮らしました。そのエピソードは、マギーズ東京の発行する雑誌「HUG」で読むことができます。