雑誌「スポーツ・イラストレイテッド」は近年、画一的な美の価値観にとらわれない方法で、女性を描写しようとしている。
2016年には初のプラスサイズモデル、アシュリー・グラハムさんを起用。2019年にはハリマ・アデンさんがヒジャブを着て登場した。2020年には、トランスジェンダーを公表したモデルのヴァレンティーナ・サンパイオさんが表紙を飾った。
そして58年目を迎えた2022年の水着特集号で主役を務めたのは、帝王切開の傷跡が残るモデルのケリー・ヒューズさんだ。
ヒューズさんは、ビキニボトムを少し下げて、わずかに帝王切開の跡を見せている。
今回スポーツ・イラストレイテッドは、新しい広告キャンペーン「Pay With Change(変化にお金を払う)」の一環として妊娠・産後ブランド「フリーダ・ママ」とコラボ。帝王切開を経験した母親に光を当てた。
3年前に帝王切開で出産したヒューズさんは、モデルに選ばれた喜びと、傷跡に抱いてきた複雑な心境をInstagramにつづっている。
「モデルという職業に加え、回復がとても大変だったので、(帝王切開の)傷に対する不安で苦しみました。しかし、傷が持つ本当の力を感じた時に、受け入れられるようになりました」
傷跡に複雑な気持ちを抱くのはヒューズさんだけではない
世界保健機関(WHO)の調査によると、帝王切開による出産は世界的に増えており、出産の5人に1人以上(21%)を占める。アメリカでは、3分の1近くが帝王切開だ。
帝王切開が一般的な出産方法になっている一方で、経験者、特に経膣分娩を予定していた親たちの中には罪悪感を抱える人たちがいると報告されている。さらに「帝王切開は楽だ」という社会の誤解に苦しめられることもある。
心理療法士で身体イメージ専門家のカーラ・コーンさんによると、多くの人たちが、出産から数年経った後も傷について悩んでいる。
コーンさんは「スポーツ・イラストレイテッドの写真は、帝王切開の傷は恥じるものではないというメッセージを送る助けになるのでは」とハフポストUS版に話す。
産前・産後の不安と強迫性障害が専門の心理療法士、メリッサ・ワインバーグさんも、スポーツ・イラストレイテッド最新号を好意的に捉えている。
その一方で「もっとできることがあったのでは」とも話す。
「正しい方向への一歩だと思いますが、喜ばしいことばかりではありません。帝王切開以外の点で、この写真は達成不可能な美の基準を強化おり、産後の女性を含むほとんどの女性を、自分の体はダメなんだという気持ちにさせてしまう可能性があります」
また写真が「細身でシスジェンダーのブロンド白人女性」という画一的な美の価値観を踏襲している点も指摘する。
「これは、産後の体の新しいスタンダードなのでしょうか?帝王切開の傷以外に共通点のない女性たちが、自身の産後の体と比較して、落ち込むことはないでしょうか?」
ワインバーグさんはダイバーシティとインクルーシブさが必要だという点を強調しつつも、帝王切開にスポットライトを当てたことは評価している。
「写真を通して『帝王切開と傷跡は、そばかすのように一般的なもので、隠すのではなくむしろ祝うべき』というメッセージを男性を含む多くの人たちに感じてほしいと思います」
SNSに投稿された様々な声
実際に帝王切開を経験した人たちは、スポーツ・イラストレイテッドの写真をどう感じたのだろうか。
SNSには「自分と同じような傷が著名な雑誌に掲載されるのが嬉しい」という声や自分は縦切開だった」もしくは「傷の治癒がうまくいかなかったのでヒューズさんより傷が目立つ」など、さまざまな反応が投稿されている。
2009年と2012年に帝王切開をしたアーティストのアマンダ・キャマラダさんは、写真を見て嬉しい気持ちになったとツイートした。
その理由を「自分の傷が誇りに思えると感じました」「こういった有名な雑誌に掲載されたことには大きな意味がある」とハフポストUS版に語る。
さまざまな意見があるが、キャマラダさんは「写真が、帝王切開のスティグマを少しでも減らしてほしい」と感じている。
「世の中には、帝王切開は”出産のうちに入らない”という人たちもいるんです」「子どもを生んだ人が、出産方法で嫌な思いをさせられるべきではありません」
ハフポストUS版の記事を翻訳しました。