災害時の情報収集や連絡手段として命綱になるのが、スマートフォンだ。しかし、高齢者にとっては使い方がよくわからない、使いづらいという声も少なくない。そのひとつが、耳が遠い高齢者が電話やメールの着信音に気づきにくい点だ。
ルミナスアシストはメールや電話の着信があると音と光で知らせてくれるアクセサリー。バッグなどにつけておくことで、音が聞こえにくい高齢者でも光の点滅ですぐに気がつくことができる。専用アプリをインストールすることで、着信の種類別に色や音楽などをカスタマイズでき、メールか電話かなどを色で判断することも可能だ。
プロジェクトの発案者である伊澤諒太さん(30)は「ITの進化は人々の生活を便利にしてくれるすばらしいものですが、それがスタンダードになったときに、高齢者などITリテラシーについていけない人が置いてきぼりになってしまいがちという問題があります」と語る。
伊澤さんはAIやIoTに強みを持つ通信機器メーカー、株式会社ハタプロの代表。同社は伊澤さんが大学在学中に設立したベンチャー企業だ。ソフトウエア開発からスタートし、現在はハードウエアやデバイス開発まで、ソフト、ハードを網羅する会社へと成長している。
スマホの通知を光で知らせる機能が話題に
ルミナスアシストの原型は、同社が2017年3月に発売した「Luminous craft(ルミナスクラフト)」というiPhoneのアクセサリー。iPhoneから操作できるLEDジュエリーとして、2017年7月にNHKのテレビ番組で紹介されたところ、大きな反響があったという。
光と音を組み合わせてさまざまな演出が楽しめる商品だが、「その中にあるスマホの通知を光で知らせるという機能が注目を集めました。高齢者やそのご家族、耳の不自由な方からたくさんのお問い合わせをいただきました」と伊澤さん。
会社を設立当初から「社会の役に立つことを発信したい」という思っていたという伊澤さん。伊澤さんの両親は地元・栃木県で高齢者や障害者向けのグループホームやイベントを企画する福祉関係のNPOを運営している。また、家族に障がいを抱えた兄弟がいることもあり、子どもの頃から高齢者や障がい者と接する機会も多かった。
「普通に暮らしていると気づかないような小さなことでも、高齢者や障がい者にとってはハードルだったりします。そういう課題を解決することで高齢者や障がい者をサポートしたいという気持ちは、育った環境の影響もあって、自分の中ではごく自然なことでした。会社を経営するにあたって、何かを作って売って終わりではなく、社会的な還元をしたいという使命感をずっと感じていましたね」
そうはいっても、スタートアップから数年は会社を軌道に乗せることで精一杯。業績が安定し、企業としての地位を確立した今だからこそ、社会的な意義のあるものを世に出したいと行動を開始した。
そんなときにちょうど目に入ったのが、「防災」をテーマにしたANAのクリエイティブアワードだった。それをきっかけに、災害時にも高齢者や耳の不自由な人に役立つ機能に特化したルミナスアシストのアイデアを思いついたという。また、クラウドファウンディングへの参加は、製品化の資金調達目的だけでなく、世の中にルミナスアシストの存在をアピールする手段としても有効だと考えた。
プロジェクトは伊澤さんともう一人の社員の2名が中心となり、3カ月で形にした。
便利なスマホ社会から取り残される高齢者
「興味を持ってくださるのは、高齢者を抱えた家族の方が多いです。ルミナスクラフトでも、アプリ設定などはご家族がしてあげて、本人がすぐに使えるようにしてプレゼントするケースが多いですね」
また、ルミナスアシストには自治体が発行する「見守りQRコード」を貼れるようにと銀色の丸いパーツも加えた。見守りQRコードシールとは、認知症などで行方不明になった高齢者の早期発見・保護のために自治体などが支給しているもの。自治体によって取り組みが違うが、最近増えている取り組みにもかかわらず、まだまだ一般の認知度が低い。「ルミナスアシストと一緒に使えるようにすることで、利用者の安心感が増すうえ、見守りQRコードの認知度アップにも役立つ」と考えた。
普段から使っているからこそ、災害時にも使いこなせる
電池は、気づいたら電池切れで使えないというのを防ぐ充電式。ボタンを長押ししてランプを光らせることで、災害時、自分の居場所を知らせる防災ランプとしても利用できる。
「防災専用グッズはしまいこんでしまって、いざという時に使えなかったりします。ルミナスアシストは普段使いしながら、緊急時にも役立つのがポイント。毎日使っているからこそ、何かあったときにも使いこなせます」と伊澤さん。
クラウドファンディング成立後は、デバイスとアプリケーションを提供するだけでなく、ソフトのアップデートなどのサポートも充実させていく。さらに、利用者や伊澤さんたちの思いに共感する人たちとネットを通じたコミュニティも作っていきたいと考えている。
世の中に役立つものを発信していきたい
ハタプロでは、今春には「ZUKKU」というフクロウ型の小型ロボットを販売する予定。当面は店舗などの商用目的で展開するが、今年中には家庭用も販売したいという。
「一人暮らしの高齢者や子どものサポートロボットとしても使ってほしい。見守りや話し相手、ペット代わりとしてのニーズがあると考えています」
ルミナスアシストやZUKKUのように、困っている人に役立つものを社会に提案することが、伊澤さんが事業に邁進する原動力のひとつとなっている。また、「福祉にずっと関わってきた親にも自分のやっていることをよろこんでもらえているのが、親孝行になっているようで、個人的にはうれしいですね」と笑顔をみせてくれた。
ルミナスアシストがあることで、高齢者にとってのスマホがもっと身近で便利な存在になってくれるだろう。(工藤千秋)
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「あなたの日常に防災をプラスする」をテーマに、A-portとWonderFLYが協力してアイデア防災グッズ8件のクラウドファンディングを実施中。A-portの特設ページは、https://a-port.asahi.com/partners/wonderfly/。