ソーラーインパルス:文明の中心に燃える太陽を据えて

太陽光エネルギーだけで推進する特別な飛行機、ソーラーインパルスは、7月26日日本時間午前9時に40,000キロという世界一周飛行を達成した。

「これは人類にとって歴史的な瞬間である」潘基文国連事務総長は、ソーラーインパルスがアブダビに最終着陸する数時間前に行ったビデオ会議において、操縦士のベルトラン・ピカールにそう話しかけた。

それに対しピカールは「この着陸は次に起こることの始まりです」と答えた。太陽光エネルギーだけで推進するこの特別な飛行機は、7月26日日本時間午前9時に40,000キロという世界一周飛行を達成した。

欧州議会議長であるマルティン・シュルツは7月14日にピカールとのビデオ会議の中で、欧州連合において再生可能エネルギーへの過渡期を加速させるようさらなる努力を公約した。

文明の中心に太陽を据えよう!これはソーラーインパルスのメッセージだ。2世紀にわたり、技術文明は化石燃料エネルギーを中心に展開してきたが、現在人類はその発展の中心において、太陽光によってエネルギーを作り出す能力と知識を持っている。

もしコペルニクス革命が太陽系の中心に太陽を正確に置いたことにより事実的知識の誤りを正したのだとしたら、技術におけるソーラー革命道徳的判断における誤りを今正さなくてはならない。

この誤りは、環境や人々に対して与えられる被害の増加を受け入れながら、世界のエネルギーの80パーセントを供給するために石炭や燃料、ガスを燃やし続けるという決断の中に存在している。

当然ながら、前世紀において化石燃料のおかげで、かつてない世界人口の増加や人類の平均寿命の伸び、先進国の裕福な階級の人々の幸福の向上が可能となった。

けれども、気候の混乱や汚染の増加といった許容すべきでない環境の劣化や破壊だけでなく、化石燃料をめぐる血なまぐさい争い、化石燃料を採掘する国と地域における貧困化、気候変動による人口流入の飛躍的増加といった劇的な社会的影響があるという事実も我々は認識しなければならない。

こうした環境的、社会的な損害を考えると エネルギー倫理命法を含んだ太陽を中心に発展する「ソーラー文明」への過渡期は、人類にとって緊急の課題であると言える。

エネルギー倫理命法とは、おそらく誰よりもソーラー構想を実行した、実用的で明確なビジョンを持った政治家ヘルマン・シェーア (1944-2010)の最後の著書となった本のタイトルである。

1980年代、シェーアがソーラー革命に全力で取り組んでいた時、ジャンボジェット機と同じ翼長と200平方メートルの太陽光発電パネルが搭載された雄大なソーラーとんぼが、シェーアによって数十年もの間構想が立てられ、提唱され、2009年に設立されたIRENA(国際再生可能エネルギー機関)の本部からわずか数キロ先のアブダビに、わずかな音をたてながら着陸するとは、おそらくシェーアでさえ想像もつかなかっただろう。

Futureiscleanという奉仕プログラムを通し、このソーラー飛行機は人々に省エネや再生可能エネルギーへの転換について教育することを目的とした学校や何百もの構想を特に支援することを目指している。

コフィー・アナンミハイル・ゴルバチョフ、アヒム・シュタイナー国際連合環境計画(UNEP)事務局長、リチャード・ブランソンは、ソーラーインパルスの真の使命が科学技術発展よりもメッセージの伝達であることを証明する、この教育的プログラムの著名な首唱者たちなのである。

確かに、この飛行機を空に飛ばした科学技術は数年前から存在している。それ故、この飛行機の開発がもたらした「革新」とは、単なるそれらの技術を結びつけ、ほんの少し前までは不可能とみなされていたことを実現したことだ。

これはエネルギー変化に関する科学技術は全く不足してはいないが、政治的意欲と調整、経済力よりも公益を優先する真の意欲、そして特に個人と集団意識が欠如しているという私たちの地球を表す良い例えである。特に個人と集団意識が欠けている人々をその気にさせるためには、シンボルと画像はグラフや統計データよりもはるかに効果的である。

人々の心を打つことに関して、あらゆる数値的予測を立てるよりは話を伝えることの方がはるかに良い。いくつかの画像は同時に時代のアイコンや原動力となった。

たとえば、アポロ8号が月周回飛行中に撮影し「地球の出」と名付けられた70年代の地球写真以降、暗闇に浮かぶ小さくて淡い青色の大理石模様は 地球の脆弱性に対する新なる認識の象徴 となった。

忠実に地球を知るために、人類が月面着陸する必要があったのだろうか?「地球の出」の写真を撮影するためにいくら必要だったのだろうか?エッフェル塔の建設は1メートルあたりいくら費用がかかったのだろうか?ソーラーインパルスの旅はいくら費用がかかったのだろうか?

「1キロメートルあたり3000ドルが無駄遣いされた」とケチをつける者がいる。しかし、おそらくそうした者はお金は出入りするものだが、特定の夢というものは叶い、そして私たちに寄り添い続けるということを理解していないのだろう。

翻訳:トレンチャー奈津美

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