数々の世論調査の結果、民主党候補のヒラリー・クリントンがアメリカ大統領選で楽勝すると思われていたが、今となっては世論調査の予測モデルに問題があるのは明らかだ。現在データサイエンティストが大慌てでその原因を探っている一方、ソーシャルメディア分析サービスを提供する企業の多くは、彼らの方が上手く現実を把握できていたと共に、彼らはドナルド・トランプが選挙で勝つ可能性があるとずっと前からわかっていたと謳っている。
「主要ソーシャルメディア上での、両候補者の選挙活動をモニタリングしていたアナリストは、数カ月前から今回の選挙の結果を予測できていました。さらに彼らは、しきりに膨大な数の浮動層がトランプを支持しはじめていると話していました」とSocialbakersでソーシャルメディアアナリストを務めるPhil Rossは話す。
さらに彼は「ソーシャルメディアアナリストたちは、どの世論調査も投票前の実情を反映できていないと主張し続けてきました」と付け加える。
クリントン陣営は、トランプ陣営よりも多くのテレビ広告を打ち、各地で地方事務局を立ち上げたほか、意見が割れている州にはトランプ陣営よりも早くスタッフを送り込んでいた。一方トランプ陣営は、支持者にメッセージを届け、さらには支持層を拡大するにあたり、ソーシャルメディアを上手く活用していた。
また、トランプは”any press is good press(どんな評判であっても話題になるのは良いこと)”という古いことわざの通り、露出増加による恩恵も受けていたようだ。
10月7日にトランプの女性蔑視発言が明らかになり、投票結果への影響が心配されていたが、Socialbakersによれば、選挙日までの間に、この事件が他のどんな戦略よりもトランプの名前をソーシャルメディア上で広めるのに貢献していたことがわかっている。
また、調査会社の多くは、選挙期間中に、ソーシャルメディア上のトランプのメッセージに反応する浮動層の数が増加していることに気付いていた。
もちろん当時は、ソーシャルメディア上でのエンゲージメントが実際の投票に影響を与え、トランプが大統領になる可能性が出てくるなどということはわかっていなかった。結局、ソーシャルメディアユーザーの多くは、重要な問題に関して自ら声を挙げることは少なく、それがソーシャルメディアの批判の原因にもなっているのだ。
専門家は長い間、ソーシャルメディア上でのエンゲージメントは、せいぜい人々の関心を高めるくらいで、具体的な変化を生み出す力までは持っていないと考えていた。
最近の例で言えば、Facebook上で起きたダコダ・パイプラインに関するアームチェアー・アクティビズム(ソーシャルメディアなどインターネット上だけで行われる社会的・政治的活動)を専門家はバカにしていた。これは、Facebook上でStanding Rockにチェックインすれば、ノースダコタ州で抗議活動に参加している人を警察の捜査から守ることができる(本当は何の効果もない)と書かれたポストからはじまり、そのポストが急速に広まった結果、Standing Rockにチェックインした人の数は100万人を超えた。
つまり、選挙結果が出るまで、ソーシャルメディア上のライクやシェアがトランプ票につながるとは誰もわかっていなかったのだ。特に、世論調査の結果がその逆を示しているとすれば、なおさらだ。
エンゲージメント以外にも、SimplyMeasuredらによれば、投票日当日のトランプに対するソーシャルメディアユーザーの感情は、クリントンに対するものよりも肯定的だった。
選挙期間を通して見ても、トランプはクリントンと比べ、肯定的な感情を表す表現と共にソーシャルメディア上でメンションされることが多かった。一方クリントンは、10月後半から11月初めかけてその差を縮めたものの、投票日直前には再度トランプに対する肯定的な感情が高まりを見せた。
否定的な感情については、最終討論会までトランプがクリントンを上回っていたが、その後投票日が近づくにつれ両候補者の差は縮まっていった。
調査会社の4C Insightsも似たような動向に気付いていた。本日のThe Wall Street Journalにも引用された同社のレポートによれば、10月初めから11月7日までの間、FacebookとTwitter上ではクリントンよりもトランプの方が支持されていたのだ。また、トランプに対する意見のうち、肯定的なものが58%を占めていた一方で、クリントンに関する肯定的な意見の割合は48%だったと4C Insightsは話す。
最後に、Brandwatchの分析によれば、選挙日を含む選挙期間のほぼ全体を通して、Twitter上のメンション数でもトランプがクリントンを上回っていたことがわかっている。11月8日の投票開始から9日の深夜1:30(東海岸標準時)までに、トランプは490万回以上もTwitter上でメンションされていた一方、クリントンのメンション数は270万回程度だった。
しかし、ソーシャルメディア分析会社の中には、データを見たところでトランプの勝利は予測できなかったと考える企業も存在する。ソーシャルメディアの力に関して反対の意見を示しているCNETの記事の中で、調査会社のSpredfastは、投票日当日のソーシャルメディア上には対立する情報が多すぎて、選挙の結果を予測するのは不可能だったと語っている。
さらに、ソーシャルメディアでさえ、トランプ支持者の多くを把握できていなかった可能性がある。今回の選挙では、密かにトランプを支持していた人や、徐々にトランプ側に意見が傾いていった人が多く存在し、彼らはソーシャルメディア上でトランプ支持を明言していなかったかもしれないのだ。
少なくとも彼らの中には、トランプの勝利が見えてきた段階で、ソーシャルメディアに自分の意見を投稿しはじめた人がいたようだ。その証拠に、接戦州であるフロリダ州とオハイオ州でトランプが勝利をおさめた後に、トランプを支持する内容のツイートの数が急増したとSpredfastはCNETに伝えている。
この結果を受け、将来の選挙ではソーシャルメディアがもっと注目を集めるようになるかもしれないが、同時にソーシャルメディアも全てを予測できるわけではない。だからこそ私たちには世論調査が必要なのだ。次回はもっと正確な調査が行われることを願っている。
[原文へ]
(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)
【関連記事】
(2016年11月12日 TechCrunch日本版「ソーシャルメディアの情報が世論調査よりも正確にアメリカ大統領選の結果を予測していた」より転載)