2018年1月に中国で開催されたサッカーAFC U23選手権(アジアカップ23歳未満の部)では、ベトナム代表チームが準決勝に勝ち進み、都市、地方問わず国をあげての大盛り上がりを見せました。
決勝戦当日の土曜日、活動地である北部山岳地帯のライチャウ省から首都ハノイに戻る道中、スタッフやドライバーとともに、対ウズベキスタンの試合のパブリック・ビューイングに参加しました。
ベトナムチームは、接戦の末敗北し、惜しくも初優勝は逃してしまいましたが、チームの奮闘を称えるベトナムの人々の熱気は収まることはなく、試合翌日ハノイで行なわれたパレードでは、赤いTシャツを着た群衆が、大歓声で選手団の偉業を称えていました。国中が赤一色に染まり盛り上がりを見せたこの出来事は、ベトナム赴任から1年4カ月間経て垣間見たベトナム人の新たな一面でした。
少数民族はベトナム社会で活躍できるのか
大活躍したU23代表チームの中に、少数民族の貧困家庭出身のゴールキーパーとミッドフィルダーを務める兄弟がいます。彼らが育った省の中心部には、サッカー選手の若手育成のためのトレーニングセンターがあり、この兄弟も10代前半で親元を離れ入所しました。その後、同じ省内にあるプロのクラブチームのユース選手となりました。決勝戦からひと月以上経った今も、連日メディアに取り上げられているこの兄弟は、同じような境遇の貧しい少数民族を含め、多くの子どもや若者の憧れの的となっています。
しかし、一口に「少数民族の貧困家庭」といっても、その環境は千差万別です。プランが活動しているのは、少数民族が暮らす地域の中でも、とくに経済成長から取り残された貧しい地域。トレーニングセンターやクラブチームはありません。才能を伸ばす機会や関連する情報へのアクセスも限られています。
今年で2年目を迎える少数民族地域の幼稚園91園と小学校76校を対象としたプロジェクトでは、こうした地域で育つ子どもたちが、のびのびと学び将来の可能性を伸ばしていくことができるよう教育の質を高めるための支援を行なっています。
活動地では、パートナーの主体性が成功の鍵
プランは学校の先生や行政の人々を、「支援される人」として扱わず、一緒にプロジェクトを動かしていく「パートナー」として活動しています。たとえば、プロジェクトの年度始めにはワークショップを開き、教育現場の都合に合わせた日程で1年間の活動計画を立てます。活動の実施には、先生や行政の人々の協力が不可欠であるため、地域の事情に配慮した計画にプランの職員が合わせることが持続可能性の確保につながっています。
粘り強く地道な取り組みの必要性
ベトナムの少数民族は長きにわたり社会から疎外され、主要な民族に比べ成長・活躍の機会も限られるなど、人権に関わる深刻な問題に直面してきました。教育の質の改善といった社会の根深い問題に取り組んでいくことは根気のいる支援です。将来的には大きな成果をもたらす活動であるにも関わらず、解決が先送りされがちでもあります。遠くない将来子どもたちが、貧困や言葉の壁などの困難を乗り越え、主要民族の若者と同等に活躍できる環境となるよう、時間をかけた地道な支援を続けることが重要です。
いつの日かプランの活動地域からも、大舞台で活躍し国を盛り上げる若者が出てくることを願って今日も活動を続けます。
奥村真知子 (おくむらまちこ) プラン・インターナショナル プログラム部
1984年生まれ。仙台出身。2009年ロンドン大学東洋アフリカ学院にて人権法修士取得。卒業後、ロンドンで国際人権NGOインターンおよび教育系独立行政法人勤務。東日本大震災後は、日本のNGOスタッフとして宮城県気仙沼市および南三陸町で復興活動に取り組む。その後、フィリピンにて巨大台風被災者支援、ミャンマー南東部にて少数民族帰還民支援に従事。2016年からプラン・インターナショナルに勤務し、ベトナムハノイ駐在。