赤ちゃんのねんねスペースを整える上で、まず注意しなければいけないのは乳幼児突然死症候群(SIDS)や窒息などの事故予防です。
乳幼児突然死症候群は、元気な赤ちゃんが寝ている時などに突然亡くなってしまう、原因不明の病気です。
日本での発生頻度は6000-7000人に一人で、生後2か月から6か月の間に多いと言われています。
アメリカではうつぶせ寝が勧められていた時期もありましたが、1994年に仰向け寝推進キャンペーンが始まり、SIDSは激減しました。
それでも年間1600人程度が報告されています。日本でも発生頻度は低下してきていますが、平成27年の1年間にも96人の赤ちゃんがSIDSで亡くなりました(*1)。
SIDS予防のためには、どうしたら良いのでしょうか。
厚生労働省が勧めているのは、仰向けに寝かせること・できるだけ母乳で育てること・禁煙することです(*1)。
仰向け寝は既に常識になりつつあると思います。
そして仕組みは明らかになっていませんが、母乳で育っている赤ちゃんや、両親がタバコを吸わない赤ちゃんもSIDSになる割合が低いことがわかっているのです。
さらに、アメリカ小児学会が2016年に発表した最新のガイドラインでは、他にもいくつかのポイントが示されています(*2)。
なかでも議論が巻き起こっているのは、「親と同じ寝室で、別のベッドに寝かせる」というものです。添い寝はSIDSリスクが高いのでやめるように、というのです。
本当に添い寝は危険なのでしょうか?
1993〜1996年にイギリスで行われた研究では、SIDSで亡くなった325人の赤ちゃんと、1300人の健康な赤ちゃんが比較されました(*3)。
SIDS群では25%の赤ちゃんが同室別ベッド、39.4%の赤ちゃんが添い寝で寝ていましたが、コントロール群ではそれぞれ39%、28.7%でした。
しかし、添い寝でSIDSになった赤ちゃんは週齢が低く(中央値で8週)、SIDS群では添い寝をしていた家庭の90%以上で親が喫煙していました。
SIDS群の赤ちゃんの方が添い寝が多かったけれど、親が喫煙している割合も高く、添い寝だけが原因とは言えないという結果です。
また、1992〜1996年の間にヨーロッパの20の地域で行われた研究をまとめた論文では、745人のSIDSで亡くなった赤ちゃんと、2411人の健康な赤ちゃんが比較されています(*4)。
この研究では、妊娠中にタバコを吸っていなかった場合、赤ちゃんが生後8週以降は添い寝でもSIDSのリスクが高いとは言えないことがわかりました。
1987~2003年の間にヨーロッパやニュージーランドで行われた5つの研究をまとめて解析した論文では、1472人のSIDSで亡くなった赤ちゃんと、4679人の健康な赤ちゃんが比較されました(*5)。
赤ちゃんが15週未満なら、母乳または混合育児で、両親がタバコを吸わず、お酒も飲まない場合でもリスクが高いという結果でした。
これらの研究結果を見ると、生後3か月未満では、やはり添い寝のリスクは高いようです。
しかし、多くの家庭で添い寝をしている日本ではSIDSが非常に多いのかというと、そうではありません。添い寝文化のアジア諸国ではSIDSリスクが低いことがわかっています(*6)。
SIDS研究の多くは添い寝文化のない欧米のものです。いつも添い寝している赤ちゃんではなく、たまたま理由があって添い寝をした赤ちゃんのSIDSリスクが高いのではないか、という意見もあります。
日本のSIDS研究は数少なく、添い寝の有無について調べたものは今のところないようです。
添い寝にも母乳育児がしやすいなど多くのメリットがありますが、やり方には注意が必要です。
添い寝の場合には、少なくとも一緒に寝る親はアルコールやタバコ、睡眠薬の摂取はやめましょう。タバコを吸う親と赤ちゃんが添い寝すると、SIDSのリスクは非常に高くなることがわかっています。
加えて、布団やベッドを安全な環境に整えることが大切です。
ソファでの添い寝は非常に危険です。硬いマットレスや布団に寝かせ、シーツはしわができないようにぴったりと敷きます。一般的な大人用敷布団は柔らかすぎる物が多いので注意して下さい。
また、枕やブランケット、柔らかいおもちゃなどを置かないでください。赤ちゃんにはスリーパーを着せ、親も厚着をして枕・ブランケットなしで眠るのが安全です。
大人のベッドで寝ている場合は、転落にも注意が必要です。
この8月と9月にも、転落防止用ガードとマットレスに挟まれて赤ちゃんが死亡する事故が相次いで起きています(*7)。床にクッションを積む場合もありますが、落ちたときの窒息が心配です。
添い寝するなら、十分広いベッドで壁と母親の間に赤ちゃんを寝かせるか、硬いマットレスを床に置くのが良さそうです。
添い寝で安全な環境を作るのが難しいと感じる場合には、別の布団にする方法もあります。
寝相の良さに自信がある場合、親の布団の隣に赤ちゃんのマットレスを敷いて寝かせれば、リスクを多少軽減できるかもしれません。布団と布団の隙間などにはまり込まないよう注意してください。
また、ベビーベッドで寝かせる場合でも、注意が必要です。
枕やブランケット、柔らかいおもちゃはベッドに入れず、赤ちゃんにスリーパーを着せましょう。赤ちゃんがベッド柵に頭をぶつけるのを防ぐクッション(ベッドバンパー)や寝返り防止用クッションも、アメリカでは窒息事故が起きています。
一部の州では、メッシュでないベッドバンパーは販売禁止になっています(*8)。
家庭の状況によっては、完全に安全な環境を作るのが難しい場合もあると思います。どんなリスクがあるのかを知った上で、それぞれの家庭に合ったねんねスペース作りをしていってください。
2. Task Force On Sudden Infant Death S. SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016 Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment. Pediatrics. 2016;138(5).
3. Blair PS, Fleming PJ, Smith IJ, Platt MW, Young J, Nadin P, et al. Babies sleeping with parents: case-control study of factors influencing the risk of the sudden infant death syndrome. CESDI SUDI research group. BMJ. 1999;319(7223):1457-61.
4. Carpenter RG, Irgens LM, Blair PS, England PD, Fleming P, Huber J, et al. Sudden unexplained infant death in 20 regions in Europe: case control study. Lancet. 2004;363(9404):185-91.
5. Carpenter R, McGarvey C, Mitchell EA, Tappin DM, Vennemann MM, Smuk M, et al. Bed sharing when parents do not smoke: is there a risk of SIDS? An individual level analysis of five major case–control studies. BMJ open. 2013;3(5):e002299.
6. Davies DP, Gantley M. Ethnicity and the aetiology of sudden infant death syndrome. Arch Dis Child. 1994;70(4):349-53.
(2017年10月10日「MRIC by 医療ガバナンス」より転載)