「皮膚に貼るディスプレイ」フルカラー化に成功、大日本印刷と東大

繰り返しの伸び縮みに対応する超フレキシブルな電子回路基板を採用し、皮膚に直接貼り付けても人の動きを妨げません。
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東京大学・染谷隆夫博士の研究チームと大日本印刷は、皮膚に貼る「スキンディスプレイ」のフルカラー化に成功しました。

「スキンディスプレイ」は、薄型で伸縮自在なディスプレイと、駆動・通信回路および電源を一体化した表示デバイスです。

特徴は、繰り返しの伸び縮みに対応する超フレキシブルな電子回路基板を採用したこと。一般的なフィルム基板でも曲げたり丸めたりできますが、繰り返しの伸び縮みには対応できませんでした。同チームは曲げ伸ばしても抵抗値が変わらない電極配線を可能とする「伸縮性ハイブリッド電子実装技術」を独自開発し、かつ曲げ伸ばしても断線しにくい工夫を盛り込むことで、皮膚の動きに追従して伸び縮みする電子回路基板を実現しています。

この電子回路基板を応用した「スキンディスプレイ」は2018年2月に単色版を発表していましたが、今回12 x 12個(画素数144)のフルカラーLEDを組み込むことでフルカラー化を実現。全体の厚みは約2mmで、約130%までの伸縮を繰り返しても電気的・機械的特性が損なわれません。皮膚に直接貼り付けても人の動きを妨げず、装着時の負担を大幅に軽減できます。

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 表示部の駆動電圧は3.7ボルトで、表示スピードは60Hz、最大消費電力は100ミリワットです。表示エリアの外周部に制御回路とバッテリーも搭載しており、手の甲に貼り付けたディスプレイに外部からBluetooth Low Energyで表示内容を制御できます。

また、配線材料に銅を採用しているため、一般的な電子部品製造プロセスを用いて製造が可能。量産性に優れた方法で製造ができるため、早期の実用化と将来の低コスト化も実現できます。

曲がるディスプレイはサムスンの折りたたみスマートフォン「Galaxy Fold」をはじめ、すでに様々な商用デバイスに搭載されはじめていますが、伸び縮みしたり、皮膚に貼り付けられるレベルの極薄ディスプレイは、研究開発段階の試作品が数件報告されているのみ。人の皮膚にフィットさせ、かつ人の動きに追従させた状態で、数百個のLEDが1画素の故障もなくフルカラー動画を表示できたのは世界初だといいます。

「スキンディスプレイ」の今後の応用例について、東京大学および大日本印刷の研究チームは次のように述べています。

『スキンディスプレイの通信・駆動回路、電源を一体化したことにより、スタンドアローンのコミュニケーションツールとして利用できます。例えば、遠く離れたところにいる人からの応援メッセージが、あたかも自分の身体の一部に灯るかのようにLEDの発光で表示できます。その結果、SNSやメールでのコミュニケーション以上に、相手のメッセージを受け手が身近に感じる効果が期待できます。これは、コロナ禍を経た今後のニューノーマルな社会において、対面コミュニケーションでは無意識下で成立していた非言語コミュニケーション要素の欠落を補う手段として期待できます。また、表示素子や各種センサーを利用するスキンエレクトロニクスでは、かさばるデバイスを身に着けなくても、皮膚に貼りつくデバイスで身体の動きや体調をセンシングできるため、コミュニケーションをとる相手と感覚情報を共有する新たな手段を提供できる可能性があります。今後、これらの体表面に近いところで表示するセンシングデバイスのコミュニケ―ションに与える効果について検証する研究も続けていきます。人に優しいスキンエレクトロニクスによって、スマートフォンやタブレット端末よりも情報へのアクセシビリティが大幅に向上し、子供から高齢者に至る全世代のQOL(Quality of Life)が向上されると期待されます。DNP(大日本印刷)は、間もなくスキンエレクトロニクスの実用化検証を開始します』

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