人口減少に伴い、「働き手不足」に悩む日本企業。外食産業もまた、例外ではない。
そんな中、店側が店員を減らしても営業できるIT技術を開発し、飲食店などに販売するベンチャー企業が注目を集めている。東京都にある「Showcase Gig」だ。
同社では、スマートフォンによる事前注文・事前決済サービスや、レジなどの店舗システムのデジタル化支援サービスを展開している。
テクノロジーによって人手不足を解消することは可能なのだろうか。同社の代表取締役社長・新田剛史さんに日本で「省人化」を実現する方法を聞いた。
■海外で進む「モバイルオーダー&ペイ」
--Showcase Gig社が提供している「事前注文・事前決済サービス」とは、どのようなサービスでしょうか?
お店に着く前にアプリから注文して、支払いはクレジットカードなどキャッシュレス決済を用いる。実店舗では商品を受け取るだけで済むというサービスです。
このようなサービスは「モバイルオーダー&ペイ」と呼ばれています。現在はコーヒーショップなどテイクアウト中心の飲食店で使われています。
--やはり「キャッシュレス」が重要ですか?
キャッシュレスは2018年にとても話題になりましたね。
でも、「キャッシュレス」という言葉がバズっているのは日本だけです。
--日本だけなのですか?
海外ではキャッシュレスどころか、既に大手チェーン店でモバイルオーダー&ペイの仕組みが導入されています。
例えばアメリカでは、スターバックスが2015年に、マクドナルドが2017年に導入しています。
--モバイルオーダー&ペイのメリットは何ですか?
消費者側のメリットは「レジで商品を待つ時間がなくなる」ということでしょう。お店に着いたら商品を受け取るだけですからね。
でも、それ以上に店舗側のメリットの方が大きいと思います。
--人件費の削減ですか?
そうですね、人件費の削減は大きいです。事前に注文と支払いをしていれば、注文を聞いたりレジ打ちをする人が必要なくなりますよね。さらに、アプリと連動することで、店舗にとって最も価値がある「購買データ」を取れるんです。
人件費を削減しながらデータの取得もできる。待ち時間が無くなってお客さんの利便性も上がる。
こうしたことから、海外でモバイルオーダー&ペイを導入している店舗が増えていることは合理的と言えるでしょう。
■日本が抱える「負債」
--アメリカの例が出ましたが、日本はどうでしょうか?
残念ながら、日本は諸外国と比べて5年は遅れていると思います。
--それはなぜでしょうか?
モバイルオーダー&ペイを実行するにはインターネットとの接続が大前提になります。
ネットを繋ぐなんて、今では「簡単なこと」と思われるかもしれませんが、既存の飲食店のシステムでは難しいんです。
--難しい?
実は、今の日本の飲食店のシステムは、そもそもインターネットに繋がっていないことが多いのです。
昔からのシステムなので、ネットを前提に作られていないんですね。
そういった既存システムをネットに対応させるだけで、莫大な時間とお金がかかります。当時は最先端だった日本のシステムが今では「負債」になっているんです。
--海外とは異なりますか?
アメリカはネットを生んだ国ですから感度が高く、インターネットへの対応が早かった。中国はそもそも、日本のような重厚長大なシステムは少ないので一足飛びでネットに接続しました。
そういう意味では、日本は既に遅れを取ってしまっています。
日本は、自嘲気味に自国を「ガラパゴス」と言っていた時代から、本当の「ガラパゴス」になってきているのかもしれません。
ーーということは、「キャッシュレス」にするだけは意味がない?
もちろん、現金を無くしてアプリで決済をすることは技術的に可能です。2018年は人手不足という文脈もあり、本当にキャッシュレスの機運が高まりました。
でも、そのアプリや取得した購買データを店舗側のシステムと連動させようとすれば、どのプレーヤーも結局、インターネットに接続されていない「既存システム」という高い壁に行き当たってしまいます。
個人店ならまだしも、この壁を超えなければ、大手チェーン店など従来のシステムを使用する多くの店舗に導入されることは難しいと思います。
■ネットを接続するために「4年かかった」
--Showcase Gig社は、どのように「壁」を超えるのですか?
我々は既存システムを提供している側の企業と提携する道を選びました。
例えば、店舗にあるレジの情報を統合する「POSシステム」市場のトップシェアを誇る東芝テックと提携しました。
POSとインターネットを繋げたシステムを共同で開発し、販売しています。構想から数えると、4年かかりましたよ。
--4年ですか。それほど、既存システムの「壁」は高いのですね。
でも、そこまでやらないと導入店舗が増えず、本当の意味での「省人化」が日本で実現することはありません。
逆に、インターネットに接続できるシステムがあれば、キャッシュレス決済アプリなどと連動させることは簡単で、実際にそのような依頼はたくさん届いています。
--導入店舗数は伸びていますか?
伸びています。大手外食チェーン店でも試験的に導入されています。店舗側の導入コストも、ようやく現実的な金額になってきました。
2019年以降、さらに伸びる見込みです。
■世界から一歩遅れたとしても、日本も「できている」状態にしたい
--この事業で新田さんは何を目指しているのですか?
大きい話をすると、本来到達できる地点まで、日本の消費生活を導けるといいなと考えています。
インターネットを使えばもっと便利にできることや、諸外国では当たり前のことでも、実際には日本で実施できていないことも多いと思います。
ですが、1人で全てを実現させることは不可能です。だからこそ、例えば東芝テックのようなインフラ企業など、レバレッジを一番効かせられるプレーヤーと組みます。
世界から一歩遅れたとしても日本を「できる」状態にしたい。もちろん、日本がリードしている分野もあると思っていますけどね。
--それは、何でしょうか?
アニメや食などの「コンテンツ」ですね
モバイルオーダーなど、実店舗のデジタル化は日本が遅れていると言いましたが、コンテンツを組み合わせることができれば、勝機があるかもしれません。
例えばですが、海外に進出している日本の外食チェーンって、現地でとても人気なお店もあります。そのようなお店に当社のモバイルオーダーシステムを導入して、セットで海外展開をする。そのお店に来る人は、味だけでなく、注文や決済などすべてを「日本流」として楽しむんです。
「食」というコンテンツにインフラサービスを組み合わせる。
ここまでの事業展開ができれば面白いと思います。