NHKドラマ「女子的生活」自分とは何か他者とは何かを鋭く問う、突出した秀作

それにしても志尊さんの快進撃がすさまじい。
KAZUHIRO NOGI via Getty Images

ドラマを見ていた人が思わずつぶやきました。

「どっちなの? わかんない」

私自身も、画面を観ながら何度も自問しました。

「この人男、だよね? それが女の役をやっているんだよね??」

不思議な感じ、そして一度は納得。また疑問を感じる......の繰り返し。細くてつるりとキレイな足だから女の子に違いない。でも、体が大きいからやっぱ男?アップになるとぱっちり目がカワイイ女の子。いや、声がちょっと違うような......?

混乱するドラマ。混乱させられるのが楽しいドラマ。振り回される快感。それが『女子的生活』(NHK金曜22時、全4回)の世界です。

主人公は「女子的な生活」に憧れ都会へ出てきた、ファストファッション通販会社に務める小川みき。見た目はスラリとした大柄美人。しかし秘密がある。心は女、身体は男。そして、女の子が好きという「トランスジェンダー」なのです。

なんともフクザツな設定。公共放送の「NHK」で、みんながテレビを観ている「金曜午後10時」というメジャーな時間に放送するドラマとしては、かなり異色でぶっ飛んでいる、と言えるでしょう。

説明より何より、みきの姿が雄弁に物語る。ぱっちりとつぶらな瞳、肉厚な唇はキュート。すらっと伸びたキレイな足にゆるふわセミロングの髪、フェミニンな雰囲気のファッション。

みきの性別は男。しかし、格好は女。でも、「女のふりをしている」のではない。女装、つまり「女の子風に外見を装っている」のでもない。

言ってみれば「みき」という生き物そのもの。声の出し方、手先、体のよじり方。スカートの裾を扱うしぐさ。一つ一つの所作が「まねごと」や「映し」を超えて血が通っている。そこが何よりも不思議で、新鮮で、興味深い点です。思わず見入ってしまうこの作品の魅力です。

複雑な主人公・みきに見事になり切っているのが志尊淳さん。映画『帝一の國』等で注目され、今最ものっているイケメン俳優の一人です。

「表情の作り方、所作、歩き方、体型の維持、肌のケアも入念に行い、女性として生きるということに徹しました。男性として無自覚に生きてきたこれまでの自分にとっては想像以上に困難な作業でした」(NHK公式ホームページ)と志尊さんは「みき」を演じることについて語っています。

「(役作り)の過程は、内に秘めている女性性を探すという作業でもあり、自分とは何か他者とは何かを考えるまでに至りました。今までアタマでしか分かろうとしていなかったことが、実感として分かったことは大きかったです」(同)

志尊さんはきっと、外見を女に似せること以上に、自分の内に秘めている女性の断片に出会い、深い何かを発見したのでしょう。

誰もいない夜の街で、みきは将来についてつぶやく。

「お手本になる人もいない。わからないことしかない」

みきが提示しているのは、男でも女でもなくゲイでもレズでもなく、どこにも所属していない「宙ぶらりんの状態」。そのみずみずしさと苦しさです。宙ぶらりんだからこそ自由であり、不安。でも、諦めて無難な道は選びたくない。

LGBT・マイノリティを描き、文学に通じる「存在の不安」、人にとって普遍的なテーマをきっちり芯に据え「存在の不安」に深く触れていく、だから見応えがある。

役者・志尊さんの自然体の演技が功を奏し、「LGBTとは」「性的少数者の人権とは」などという解説調・説教調でなく、共生教育ドラマでもない、秀逸な仕上がりとなっています。

それにしても志尊さんの快進撃がすさまじい。『女子的生活』以外にも1月スタートの話題のドラマに登場。『トドメの接吻』(日テレ系日曜22時30分)ではなんと、髪を赤く染め歌舞伎町のホストに変身。「先輩になつくカワイイ子分」といった役柄でトランスジェンダーのみきとは違うもう一つの姿を見せています。

別々の志尊さんが同時に見られる今シーズンのドラマ。見比べてその違いを味わうのも、役者鑑賞の冥利に尽きるのではないでしょうか。

                                            (初出「NEWSポストセブン」2018.01.13

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