「板挟み」状態の女性が多い?資生堂DE&Iラボの研究結果から見えてきた「ジェンダー不平等」の原因

会社のジェンダー不平等はどこにある?女性管理職比率40%を達成した資生堂がDE&Iをさらに加速させるため、「資生堂DE&Iラボ」を設立。その背景と狙いについて、グループマネージャーの山田美和さんに話を聞いた。

企業に変革をもたらすDEI経営の第一歩は、リーダー層に女性を増やすことだ。しかし、政府目標である女性管理職比率30%を達成したのは、日本の大手企業の中でもおよそ3%に過ぎない(TOPIX500構成銘柄対象、2023年10月パーソル総研調べ)。

その数少ない企業の一つが資生堂だ。女性管理職比率40%以上を達成、女性が活躍する企業として、長年、日本でも名が知られてきた。

その資生堂は、科学的な知見を元にさらにジェンダー平等を進めようと「資生堂DE&Iラボ」を設立。2024年10月までに発表された研究成果では、社内に残るジェンダー不平等の要因をあぶり出し、改善アプローチも探り当てている。

「研究結果を見て、自分もジェンダーバイアスを持っていたことがわかりました」

そう語るのは、資生堂での20年以上の人事領域キャリアを活かし、現在は「資生堂DE&Iラボ」のグループマネージャーを務める山田美和さん。資生堂DE&Iラボの設立背景と狙い、研究結果から見えてきた「ジェンダー不平等のありか」を聞いた。

山田美和さん:株式会社資生堂 DE&I戦略推進部イノベーションG グループマネージャー。新卒で資生堂に入社後、主に事業部門で販売企画やHRを担当。直近では2015年から人事部門のHRビジネスパートナーを務め、2023年からはDE&I戦略推進部にてDE&Iラボの立ち上げ運営に携わっている。
山田美和さん:株式会社資生堂 DE&I戦略推進部イノベーションG グループマネージャー。新卒で資生堂に入社後、主に事業部門で販売企画やHRを担当。直近では2015年から人事部門のHRビジネスパートナーを務め、2023年からはDE&I戦略推進部にてDE&Iラボの立ち上げ運営に携わっている。
株式会社資生堂

徹底したエビデンスで「インクルージョン」環境を整える

DE&Iを重要な経営戦略の柱としている資生堂。今回、なぜ「ラボ」を発足させることになったのだろうか。山田さんは以下のように語る。

「ダイバーシティが『多様な人材で組織を構成すること』ならば、インクルージョンは『多様性が進んだその先で多様なメンバーが能力を発揮できる環境をつくること』です。女性活躍をはじめとするDE&Iの推進は日本の企業・社会の成長のポテンシャルでもあります。それが組織に与える影響について、具体的で納得度の高いエビデンスを実証することで、日本社会全体でより優先度の高い取り組みにしたいという考えから、「資生堂 DE&I ラボ」が発足しました。

最近は企業の「エンゲージメント」を数値化し、高めようとする取り組みも一般的ですよね。研究データのひとつに「エンゲージメント調査スコア」がありますが、実は、多様性がある組織よりも、同質性が高い組織の方が居心地が良く、社員のエンゲージメントが高くなる傾向が見られます。同じ価値観の集団で阿吽(あうん)の呼吸で仕事ができるので、上司は説明責任をあまり求められませんし、社員の帰属意識も高まりやすいからだと言われています。

しかし、今、企業は変わらなくてはいけない時期です。今後、人口減少が加速し、より人材獲得競争が激化していく中、どれだけ能力のある人が入社したとしても、画一的な企業文化はその人の『働きにくさ』の要因になり早期離職につながります。居心地の良い同質性の高い組織であることは企業成長においてリスクにもなり得るのです。やはり、多様な人材が本当の意味で活躍できる組織にしなければいけない。

そのため、説得力のあるエビデンスをもって可視化し、多様な人材がいる組織が持つメリットをきちんと言語化することが、とても大切です」

女性管理職40%以上の資生堂にも、バイアスは残っている 

株式会社資生堂

資生堂DE&Iラボが初めに重要テーマとして設定したのが、「ジェンダー平等」だ。先進企業として走り続けてきた資生堂の知見や強みを生かし、多様性の先にあるインクルージョンの環境整備に何が必要かを考える。

調査結果において、山田さんは「印象に残っているのは、多くの女性が女性へのジェンダーバイアスを持っていたことです」と話す。

「管理職を含め、女性の多い資生堂でさえ『女性は家庭、男性は仕事』『女性はリーダーに向いていない』などの、バイアスを持ちながら『板挟み』状態で働いている女性が多いことがわかりました。このような偏見は社会や企業の中で無意識のうちに蓄積されるものなので、科学的知見に基づいて『そうでもないみたいだよ』と、一人一人の偏見を緩和していかなくてはいけません。調査の前、私は比較的年齢層が高い男性にジェンダーのバイアスは高く出るのではないかと思っていたのですが、研究ではそれに一致する結果は見られず、自分の持っていた偏見にもハッとしました」

今後、資生堂DE&Iラボでは、DE&Iの本質である「組織における構造的な差別を緩和すること」に寄与するため、インクルージョンの好事例を社内の組織と連携して明らかにしていくことを予定しているという。

「例えば『上司は部下との1on1コミュニケーションを週にどれくらい取ることが望ましいのか』などの細かなことも定量化していきたいですね。ジェンダーのみならず、どんな属性や個性や価値観の人たちでもパフォーマンスを十分に発揮できる環境づくりに必要なプロセスを、ストーリーを持って実証する。それが資生堂DE&Iラボのミッションです」

イベント開催!社内に隠れたジェンダー不平等を一緒に考えませんか?

ハフポスト日本版と朝日新聞が、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)をテーマに立ち上げた社会変革プロジェクト「未来を創るDEI」。

第2回「未来を創る DEI」ラウンドテーブルを、11月15日(金)にWeWork アイスバーグ(東京都渋谷区)で開催します。

未来を創るDEI・ラウンドテーブル
未来を創るDEI・ラウンドテーブル
ハフポスト日本版

プロジェクト初年度のメインテーマは「女性活躍推進」。今回のラウンドテーブルでは、資生堂DE&Iラボの狙いや研究結果、各社が参考にできそうな情報について、担当者の山田美和さんと、共同研究者の東京大学教授の山口慎太郎さんにお話を伺います。

その後、参加者の皆さん同士でのディスカッション・ワークを通じて、「自社のジェンダー不平等を発見するには?」「改善するための手順は?」などを考えます。

会社や業界の垣根を超えたネットワーキングで皆さんにとってのメンターシップを見つける機会としていただき、社会全体のDEIを推進し、成長の機運を広げていくことができたらと考えています。

※ 終了後には、簡単な懇親会も予定しています。 

このような方におすすめ

・DEI部署のご担当者
・人事ご担当者
・DEIの浸透した社会の実現に興味がある、すべてのビジネスパーソン

応募はこちらから
https://forms.gle/d2h3PqWHAupLycRT6

◾️イベント概要
会社のジェンダー不平等はどこにある?資生堂DE&Iラボの研究を元に、自社をチェックする【ラウンドテーブル】

【日 時】2024年11月15日(金)14時30分~17時予定 ※14時開場
     14時30分~15時30分:トークセッション
     15時30分~16時30分:参加者同士のディスカッション、発表
     16時30分~17時:ネットワーキング
【会 場】WeWork アイスバーグ(リアル参加のみとなります)
     東京都渋谷区神宮前 6-12-18
【参加費】無料
【登壇者】株式会社資生堂 DE&I 戦略推進部 イノベーションG グループマネージャー 山田美和さん
     東京大学大学院経済学研究科 教授 山口慎太郎さん
                  ハフポスト日本版 編集長 泉谷由梨子(モデレーター)

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