「 ーーーー 行きたくないかも。」
いつも通りの時間に起きて、いつも通りの準備をして、ドアノブに手をかけたとき、ふと思った。
いつもと何も変わらない月曜日。だけどなぜか、ドアノブが重たく感じる。
「きっと、気のせい。たぶん、大丈夫。会社に行きさえすれば、きっと楽しくなるから。がんばれ、自分。」
小さな違和感に蓋をして、力いっぱいドアノブをひねる。
なんで、頑張れないんだろう。
当たり前に行けていたはずなのに、日に日に、"会社に行くための"エネルギーが必要になった。会社に行く時間は、毎日少しずつ遅くなる。
営業職なのに、毎週のアポイントの数はどんどん減った。みんなが営業に行き、閑散としたフロアに一人取り残され、焦りや不安は大きくなるばかり。
とにかく行動くらいはしないと、と頭では思いつつ、重たい腰はあがらないまま、なんとなく1日が終わる。
——— 頑張れない。だけど休めない。
とにかく手を動かしていないと、もう一生みんなに追いつけない気がして、もう二度と戻ってこれない気がして、無駄な作業に没頭する。
何より、「環境や人のせいじゃない。むしろ言い訳ができないくらい、その全てに恵まれている」その現実が一番辛かった。
会社や環境のせいじゃなく、これは自分自身の問題なんだという事実を、自分が一番理解していたから。
できない自分と向き合えない
自分とした約束が守れない。周りとした約束をすぐに破ってしまう。
やるべきことは明確にあるはずなのに、足が動かない。そんなに焦るほどの仕事量じゃなくても、なぜだか時間と気持ちがパツパツになる。
なにがそんなに嫌なのか、分からない。なんでできないのか、分からない。とにかく会社に行きたくなくて、とにかく仕事がうまくいかない。
そんな状況でも、わたしはいつだって、「本気でやったらもっとできるのに」 「実力はこんなもんじゃないのに」 って自分に言い聞かせていた。
本気でやれないのが自分の本気だし、実力を出せないのが自分の実力。
わたしはその現実を受け止められなかった。だから、「もっとやる気を出せば、もっと本気になれば、絶対変われる」って、ずっと思い込んでいた。
現実を受け入れて、「今がわたしの本気で、わたしの実力なのに、うまくいっていないのはなんでなんだろう。じゃあ何ができてないんだろう。」って考えられずに、ずっと答えのないところをぐるぐると一人で迷い込んでいた。
全部、やる気がないからだ
「やる気がないから」「モチベーションが分からないから」「甘えてるから」って、自分の気持ちに目がいって、ひたすら自分を攻めて。
気持ちのせいだと決めつけて、シャットダウンしてしまうのは案外簡単で、気持ちのせいだからと諦めるのは、すごく楽だった。
だけどそうやって考えることをストップしてしまうと、見えなくなるものがある。
物事がうまくいかないときは 、気持ちと行動、どちらも考える。
本当は、頑張ろうとしている気持ちは誰よりもあって、わたしはそこに向かって一生懸命突き進んでいた。だけど、気持ちばかりが前のめりになりすぎて、行動がついてこれなくなっていた。
やるべきことの全体像ははっきりとわかっていても、それを行動ベースに落とし込めていない。「あれやらないと」だけが漠然と焦りやプレッシャーとしてのしかかってきて、いつもまとわりついてくる。
実際にやるべきことを文字に落とし込んでみたり、落とし込んだ行動に優先順位をつけたり、整理ができていないまま。
わたしの口癖は、「ちゃんとやりたい」「整理したい」。完璧主義で、頑張りたい気持ちが強いからこそ、言われたことにすぐ飛びかかれない。不器用だから、すぐに頭がパンクする。
ひとつ分からなくなると、すぐ整理したくなって、行動がストップする。行動量が減ると、「自分はできていない」「やる気がない」と自分を攻めて、自信をなくして、更に動けなくなる。
不器用なわたしの、働き方
今は、月に1度、1週間に1度、"ちゃんと整理する時間"を作っている。そこで頭の中を分解して、整理する。
周りの人からしたら、無駄で非効率に思うかもしれない。「考えるよりまずは行動!」っていう人からしたら、「なんて頭が悪いの?」と言われるかもしれない。
たしかに、すぐに行動に移せて、量で示せる人は、とてつもなく強い。とくにまだ何もできない新人時代は、大きな武器になる。吸収スピードも、結果を残すのも、わたしとは比べものにならないほど早い。
痛いほど、苦しいほど、わたしはそれを知っている。
だけど、わたしには真似できなかった。
真似しようとしても、これまでやったことがないから、どこに進んでいいか分からず、すぐに足が止まる。足が止まると、「行動量」を指標においているからこそ、苦しくなる。
自らどんどん動いていける人を見ると、とてつもなく焦るし、情けなくなるし、不安にもなる。自分はこのままでいいのかなって。本当に大丈夫なのかなって。
だけど自分には自分の得意なことがあって、強みがある。まずはそこを固めて土台を作りつつ、ゆくゆくは自分の苦手な部分にも挑戦できるようになれたらいいなあと思う。
悩むんじゃなくて、考えること。人は考えて答えが見えなくなると考えるのを放棄し、悩むことで考えているふりをする生き物です。
一番苦しかったとき、会社の先輩から言われた言葉。今ならこの言葉の意味がよくわかる。
もう一度、がんばってみたい
一度、何かが少しでもうまくいかなくなると、 全部リセットして、ゼロから始めたくなる。全部投げ出して、「また一から頑張ろう」って言いたくもなる。
もう一度リセットできたら、"ちゃんと"できる気がする。
でももし今踏ん張って、うまくいかない状況に向き合いながらも立て直すことができたら、 本当はもう少し自分にとっても楽な生き方ができるんだろうなあ、とつくづく思う。
今逃げたことは、どこにいったとしても必ずまたどこかでぶつかる。 今乗り越えるか、 後回しにするのか、その違いだけなんだと思う。
「会社に行きたくない」
口癖のように言っていた新卒1年目。だけどそう言いながら毎日泣いていたのは、それでもやっぱり頑張りたいという、意思の現れだったんだと思う。
自分と向き合うのは、とてつもなく、痛い。現実を知った時、もうわたしは立ち直れないんじゃないかと思うほど、苦しい。
それでもきっとわたしは、目の前に立ちはだかる壁が見えたら、泣きながらでも、傷つきながらでも、結局最後はぶつかっていってしまう人だから。
もう少し、ダサく、かっこ悪くても、不器用な自分と一緒に、がんばってみたい。