LGBTをめぐる寄稿や企画が批判され、休刊を決めた新潮社の月刊誌「新潮45」。
企業や自治体にLGBTに関するコンサルティングを行うNPO法人「虹色ダイバーシティ」理事長の村木真紀さんは、新潮社は休刊だけでなくやるべきことがあると指摘する。
「あまりに軽い対応」と識者は指摘
今回の「新潮45」をめぐる動きについて、村木さんは、「自民党、新潮社、ともに、この件がスルーされなかったのはまず良かったと思います」と理解を示した。
一方で、「国会議員による特定の少数者への無理解とヘイト行為、加えて出版社が差別的言論に加担したという事実に対して、あまりにも軽い対応に感じます」と指摘する。
無理解による溝を埋めるためにも、「それぞれ(自民党と新潮社)、当事者団体としっかり時間をかけて対話する機会を設けて欲しいと思います」とコメントした。
また、LGBTをめぐる日本の法整備の状況について「日本は包括的な差別禁止や同性婚がない状況ですが、それは国際的にはすでに差別的国に分類されています」と現状を語った。
フジテレビは謝罪の上、当事者団体と対話している
2017年10月、フジテレビの「とんねるずのみなさんのおかげでした」30周年スペシャルで、石橋貴明が扮するキャラクター「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」が、ゲイを差別的に描いているなどと批判された。
このときフジテレビは、謝罪の上、当事者団体との意見交換会を開き、制作や事前考察のプロセスや再発防止の取り組みについて話し合っている。
今回の件をきっかけに、杉田氏や自民党、新潮社と当事者との対話の生まれることが、次の一歩なのかもしれない。
「新潮45」騒動とは?
あらためて、一連の騒動をふりかえっておきたい。
8月号に自民党の杉田水脈(みお)衆院議員の寄稿「『LGBT』支援の度が過ぎる」を掲載して大きな批判を浴び、10月号の特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」では、小川榮太郎氏の差別的な寄稿などでさらにその声が強まった。
発端は、杉田氏の「生産性がない」寄稿
「新潮45」8月号が7月18日に発売され、LGBTは「生産性がない」などとする杉田氏の寄稿に批判が寄せられた。「差別発言」に抗議し、杉田氏の議員辞職を求めるデモには約5000人が集まった。
8月に自民党が「LGBTに関するわが党の政策について」との声明を発表。「今回の杉田水脈議員の寄稿文に関しては、個人的な意見とは言え、問題への理解不足と関係者への配慮を欠いた表現があることも事実であり、本人には今後、十分に注意するよう指導したところです」とコメントした。
安倍首相は9月、杉田氏について「まだ若いですから、そういうことをしっかり注意しながら仕事していってもらいたい」と擁護する姿勢を示している。
現在、杉田氏本人からの謝罪や寄稿文の撤回はない。
「新潮45」が休刊になるまで
「新潮45」10月号の特集で、小川氏は、LGBTについて「性的指向」ではなく「性的嗜好」と表現。LGBTの権利と性犯罪者である痴漢の権利を同列に並べ、その権利を認めるべきではない立場を展開した。
特集を受けて、批判の声が上がるなか、新潮社と仕事をしてきた作家や翻訳家らが、執筆・翻訳の取りやめの意志を相次いで表明。新潮社の本を書棚から撤去する書店も現れた。
新潮社の社長は9月21日「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現」があったと認める声明を発表。
「謝罪がない」などと高まる批判の声を受けて、9月25日に「新潮45」の休刊を発表した。
「休刊のお知らせ」では、「会社として十分な編集体制を整備しないまま『新潮45』の刊行を続けてきたことに対して、深い反省の思いを込めて、このたび休刊を決断しました」とコメントした。