スポーツの視点からジェンダーを考えるイベントが9月14日、東京都渋谷区の「渋谷男女平等・ダイバーシティセンター」で開かれた。
登壇したのは、日本国内の現役アスリートとして唯一、同性愛をカミングアウトしている下山田志帆さんら。
大学を卒業後、サッカーのドイツ女子2部リーグでプレーし、7月から日本のスフィーダ世田谷に所属している。アスリートや当事者としての経験を踏まえて、カミングアウトの経緯や思いなどについて語った。
女性らしさを求められて苦しかった。
下山田さんによると、女子サッカー界では、女性と交際する女性のことを「メンズ」と表現する文化があり、幼いころから大人に混じって練習していたため、自然と同性愛に触れていた。
高校で女子校に進学すると、チームメイト同士が恋愛をしているのを目の当たりにして、「自分ごとになった」と振り返る。
「自分はなんとなく男性が好きではないと思っていたのが、『メンズ』なんだ、ストレートではないと理解しました」
ところが大学生になり、バイトなどでサッカー界の外にいる機会が増えると、安心感を与えてくれた『メンズ』文化が通用しないことに気づいた。
「女性らしさを求められて苦しい。今までだったら『メンズ』とふざけていればよかったのに、自分が自分らしくいられない時間が増えていきました」
そして大学1年の時、初めて他人に自分のセクシュアリティを打ち明けた。
「女子サッカー界では自分らしくいられるけど、社会に出た時に嘘をつきながら生きて行かないといけない。それで徐々にカミングアウトして、オープンにしました」
下山田さんはネット上やLGBTQアスリートの拠点「プライドハウス」の動画を通じて、社会に向けて自分のオープンにしたことを機に、多くのメディアに取り上げられた。周囲の人たちからは、ポジティブな反応が多かったという。
「女子サッカー界友達は『メンズ』と知っていたので『オープンにしたんだ』というぐらいでした。バイトや親戚には少し驚かれましたが『気づかなくてごめん』『言ってくれて嬉しい』と言ってくれました」
自分のことをオープンにしたことで、「安心感」を得ることができたという。
下山田さんが生活していたドイツでは、同性婚が認められている。そのため、LGBTの人たちに対しての捉え方が日本とは大きく異なる。
「LGBTの存在が当たり前で、特別視されている環境ではありません。日本でカミングアウトするときに、例えば『メンズなんだ』と言ったら『いつから気づいたの』と踏み込まれることがなくはない。ドイツですごく驚いたのは、チームメイトに『しのって、男と女どっちが好きなの?』と聞かれたこと。日本とは違うと思いました。『今彼女がいる』と言ったら、『へーそうなんだ』で終わった。異性愛者と同性愛者の恋愛に、区別や境目がないんですよね」
「アスリートのカミングアウトは大きな意味がある」
国内の現役スポーツ選手で、性的指向が異性愛ではないと社会に向けて打ち明けたのは、下山田さん以外にいないとみられる。引退後に打ち明けた元アスリートもいるが、数はごくわずか。
下山田さんは「一概にカミングアウトすることが、絶対にその人が楽になる選択肢とも思えない」と断った上で、アスリートのカミングアウトには大きな意味があると訴える。
「試合のピッチに立っている時は、自分のことをLGBTの人ではなくて、女子サッカー選手として見てもらえると思います。スポーツ選手は、LGBTの選手・アスリートであるということを副次的に見てもらえる場が必ずある。そこで一緒にプレーをしているチームメイトと一緒に本気で勝利のために頑張っている姿が、勇気やパワーを見ている人に与えることができます」
一方で、自分以外で、現役選手で例がないことへの歯がゆさも語る。
「カミングアウトしていないと可視化されず、社会的にみんな目の前に見えていない状態。何かしらパワーをおすそ分けする機会が少なくなってしまうのは、オリパラを前にみんなが前に進もうとしてるのに、一緒に加わっていけないような...」
また女性と比べて、男性スポーツ界はさらにカミングアウトがしづらい環境だという。男性アスリートの例は、日本国内ではないとみられる。
オリンピック・パラリンピックを機に、自分のセクシュアリティを打ち明けるアスリートは増えているが、アメリカ初のゲイを公表したオリンピック選手が誕生したのも、ごく最近の2018年平昌五輪だった。
下山田さんは、友人とのこんなやりとりを紹介する。
「元バレーボール選手のゲイの友人に、チームメイトと家族どちらに言いやすいかという話をしました。私ともう一人のサッカー選手は、即答でチームメイトと答えたのですが、彼は『親の方が何百倍もしやすくて、チームメイトなんて一生できないと思っていた』と。
理由を聞いたら、彼曰く、男性スポーツ界は、男性が集まると『男性であること』を強く求められる。男らしさの度合いで、立ち位置が変わってしまう。ゲイと言ったときに、自分自身のチーム内の立ち位置が一気に下がってしまう気がすると言われたんです。
集団として集まった時に、人間関係の作られ方がそもそも男女で違うと感じたし、如実に現れていました」
同性愛を公表しているアスリートとして、「カミングアウトすることの意味や、私にしか伝えられないことを伝えたい」と語る下山田さん。
当事者の人たちや、その周囲にいる人たちに向けて、こう呼びかける。
「カミングアウトが、自分を楽にできるかもしれない選択肢の一つというふうに持っておくことはすごく意味があると思うし、もたせてあげる周りの環境が必要になってくると思います」
パネルトークには、順天堂大学の女性スポーツ研究センター研究員・野口亜弥さんも登壇し、スポーツ界におけるセクシュアルマイノリティの現状などについて紹介した。
今回のイベント「渋谷からガラスの壁を怖そう!スポーツとジェンダーの平等」は9月22日にも開かれ、大学の准教授らを招いてジェンダー視点からスポーツや、女性アスリートのキャリアについて取り上げる。