要領が悪くクビに、身支度には4時間かかる…そんな2人がたどり着いたライフハック

職場で感じる生きづらさから楽になるための工夫が詰まった1冊『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』。自身も会社員時代まともに会議資料もつくれず、フリーライターの道を選んだという姫野桂さんが、著者である小鳥遊さんとF太さんのお二人に話を聞きました。
『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』の著者・F太さん(左)と小鳥遊さん(右)
『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』の著者・F太さん(左)と小鳥遊さん(右)
YOSHIKA SUZUKI/鈴木芳果

私は発達障害の特性があるため、多くの人が簡単にできることができなかったり、その二次障害として精神と体調が不安定になりがちである。

例えば、事務職会社員時代はまともに会議の資料も作れなかったし、暗黙のルールに気づかずに怒られたりした。その失敗から精神に不調をきたし、ヒステリー球(極度のストレスにより喉に何か詰まった感じが出る症状)が出ることもあった。

フリーランスとして働くことを選んだのは、そんな生きづらさの対策のためだ。しかし、それでもまだまだ苦手なことがあるので、できるだけそれらを回避して生きているが、相性の合わない人との仕事や、少し情報の足りない言い回しをされると失敗するのではないかと緊張してしまう。

場合によっては、あえて空気を読まずにストレートに情報の詳細を聞いたり(もちろんタイミング次第では相手に不快な思いをさせることもある)、何度も確認や下調べをしたりしている。しかし、自著にも書いた通り、少しの工夫で生きづらさから解放されることもある。

そうした工夫を、私は通称「#発達ハック」と呼んでいる。そして、この「#発達ハック」が詰め込まれた本が『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』(サンクチュアリ出版)だ。

そもそも職場で感じる生きづらさを紐解いていくと「要領が悪くて簡単な仕事をこなせない」という点にたどり着く。著者の小鳥遊(たかなし)さんとF太さんはどのようにしてこれらの「#発達ハック」にたどり着いたのか、話を聞いた。

「あれを、こうして」など抽象的な指示を言語化する

小鳥遊さん
小鳥遊さん
YOSHIKA SUZUKI/鈴木芳果

著者の1人、小鳥遊さんは都内で会社員として勤務する発達障害当事者だ。あまりにも仕事ができずにクビになったり、要領の悪さからうつや適応障害に陥り、休職をくり返した過去がある。もう1人の著者であるF太さんもまた、要領の悪さからアルバイトをたった3カ月でクビに。現在は会社を経営し、自分の苦手なことを回避しながら生活している。

こんな二人がどうやって生きやすくなったのか。

小鳥遊さんは「自分の苦手なことや弱みを裏返してみた」と語る。発達障害傾向のある人は「あれを、いい感じに、こうしといて」といった抽象的な指示に戸惑うことが少なくない。「あれって何?」「いい感じって何?」といった具合だ。だからこそ「あれって●●社との契約のことですよね?」や「いい感じって、うちに不利益なことがなるべくないように修正してということでよろしいですよね?」と具体的なところまで落としていくのだ。そうやって「すべて細かく言語化することに努めた」と小鳥遊さん。

確かに言語化すればコミュニケーションの齟齬が生じにくい。最近はメールやチャットなど口頭以外のコミュニケーションも多いが、そのほうが抽象的な言葉を自然と使わなくなり、指示が明確になりやすい。これらのツールも「要領が悪い」と思い込んでいる人のための救世主だと言えそうだ。

苦手なことを、あえてしない道を選ぶ

F太さん
F太さん
YOSHIKA SUZUKI/鈴木芳果

一方でF太さんの苦手なことは外出。経営している会社の社員はほとんど海外にいるため、在宅でパジャマのまま仕事をしているそうだ。

しかし、今回の取材のように外出を伴う用事ができると、身支度などの準備に4時間もかかってしまう。そこで、前日からスマホを充電しておくなど、外出するにあたり100個以上のチェックリストを作っているという。実はこの日も外出が久しぶりだったためベルトを忘れてしまったことから、次回からはチェックリストに「ベルトを準備する」も入れるとのことだった。

このようにF太さんにも普通の人が簡単にできることが難しい場合があるのだが、特に「人の目を気にしすぎる」ため、自分で自分を生きづらくしている面があるという。そこで、その価値観から解放されるために、むしろできないままでいいのではないかと、外出せずに済む仕事を選んだのだ。苦手ならそれをしないで生きていける方法もある。この方法で以前より劇的に生きやすくなったそうだ。

炎上しないためには否定的な表現を避ける

そんなF太さんはTwitterのフォロワー数が37万人を超えていて、小鳥遊さんもTwitterやブログでのアウトプットが重要だと語る。二人とも自身の失敗談をネット上にさらけ出し、それがプラスになっているというが、SNSには炎上リスクもある。気をつけていることはあるのだろうか。

YOSHIKA SUZUKI/鈴木芳果

小鳥遊さんは否定的な表現ではなく、肯定的な表現でのツイートを心がけているという。私もわりとTwitterに依存しているタイプなので、炎上まではないものの多くのリツイートや「いいね」をもらうことがある。私の炎上対策としては主語を大きくし過ぎない、エビデンスや実体験がない限り断定形にしない、一旦下書きに入れて時間を置いてからツイートするなどだ。

しかし最近、友人から「姫野さんはTwitterに飲まれている」と忠告を受けた。確かに、コロナ関連のニュースが飛び交うようになった今、そこから社会問題などにも首を突っ込んで自分の意見を発信するようなことがある。Twitterに飲まれているのかもしれない。いや、確実に飲まれている。

それに対して、F太さんは「Twitterで多くの情報を浴びるように吸収していると、脊髄反射で反応して、つい炎上しそうなことをツイートしそうになってしまうため、意識的に情報量をコントロールしている」という。私もミュート機能は活用しているが、自分にメンションが飛んできた際に気づかないデメリットがある。そんな時、F太さんは「このアカウントの表示回数を減らす」という設定にしているそうだ。仕事などの付き合いでフォローを外したりブロックできない場合の秘策だ。

そうやって表示回数を減らしてタイムラインに流れにくくすれば、情報の濁流に飲まれなくて済む。「細かいテクニックの積み重ねが生きやすさに繋がるのではないでしょうか」とF太さん。自分で情報量をコントロールすることも、この情報社会を健全に生き抜くためのライフハックだ。

居場所は1つだけでなく複数つくる

コロナ禍で、今まで以上に生きづらさを感じている人は多いだろう。そんな人はどうすればいいのかF太さんに聞くと、逆にチャンスだと意外な答えが返ってきた。

YOSHIKA SUZUKI/鈴木芳果

「コロナ感染拡大はすごくイレギュラーなことが起きたと受け止めていますが、9年前には東日本大震災がありました。そう考えると、約10年に1度はとんでもないことが起きると思ったんです。こうした未曾有の出来事は、その後に大きな変化を伴うので大変ではありますが、今回は世界が同じ状況のなか新しい環境を構築しつつある最中なので、一旦自分自身の棚卸しをしながら新しい生き方をつくることが大切なのではないかと思っています」

その上で、趣味の集まりやオンラインサロンなどのサードプレイスをつくることが必要だとF太さんは言う。

私もF太さん同様、居場所は3つ以上持っているといいと考えている。いくつかのコミュニティに属している方が物事を多方面から冷静に見ることができるからだ。F太さんも「居場所をいくつか持つことで自分の中のものさしが一つ増えてすごく楽になる」と言う。

現在、緊急事態宣言は解除されたものの「自粛要請」という、その行動が個人の責任に委ねられる厳しい状況の中、どう日常を過ごしていったらいいのか戸惑っている人もいることだろう。そのようなしんどさについて小鳥遊さんは「考えすぎてしまうしんどさがある」と語る。

例えば、出社すべきなのか、それともリモートでいいのか。F太さんも「マスクを外して顔を見せた方がいいのか、どの程度ソーシャルディスタンスを取るべきなのか」に迷うことがあるという。こうしたコロナ禍での新ルールは、状況を鑑みながら模索していかねばならないのだろう。

今回お二人に話を聞き、どのような状況においても生きづらさを少しでも減らすには、まずはSOSの声を上げることが大事で、その後に工夫や#発達ハックを取り入れるとうまくいく可能性が高いのだと実感した。どれも特別難しいものではなくシンプルな発想だ。

このコロナ禍でますます自己責任論を主張する強者の声が大きくなった気がする。しかし、そんな声に惑わされて自分を責める必要はない。物事がなかなかうまくいかず生きづらさを感じている人は、実は「要領が悪いと思い込んでいる」だけなのかもしれないのだから。

『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』(サンクチュアリ出版)
『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』(サンクチュアリ出版)
Amazon.co.jpより

要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑(サンクチュアリ出版)

著者のF太さんと小鳥遊さんが試行錯誤と数々の失敗を経てたどり着いた、会社に“居場所がなかった”僕らが仕事で結果を出せるようになったコツを紹介。

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