滋賀県大津市で、散歩中だった保育園児らの列に車が突っ込み、園児2人が亡くなる事故が起きた。
日本は、先進国の中でも「歩行者が死亡する交通事故」の件数が多い国だ。
事故現場となった交差点には、車の侵入を防ぐガードレールやポールは設置されていなかった。
警察庁科学警察研究所で交通事故の鑑定・分析をした伊藤安海さん(山梨大学大学院教授)は、歩行者が巻き込まれる事故を防ぐため、車止めとなるガードレールやポールなど防護柵の設置を進めていくべきだと話す。
ガードレールやポールがあれば、今回のような事故は防げたかもしれない
「ガードレールや、横断歩道の手前に車止めとなるポール(支柱)を設置すれば、車が歩道に侵入できなくなるので、今回のような事故は防げたかもしれません」
伊藤さんはそう指摘する。
今回の事故では、乗用車を運転していた新立文子容疑者が右折しようとしたところ、対向車線を直進してきた軽乗用車と衝突。はずみで軽乗用車が園児らの列に突っ込んだという。新立容疑者は「前をよく見ていなかった」と供述している。
交差点や交差点付近は、歩行者の死亡事故が多く発生する場所だ。今回の事故が起きた交差点には、歩道と車道の間に縁石があったが、ガードレールやポールは設置されていなかった。
「縁石は低速だと車は止まりますが、ある程度スピードがあれば乗り越えてしまいます。道路交通法では、縁石や段差で高さをつけることで『車道』と『歩道』が区別されていることになりますが、より確実に車が歩道に入らないようにするなら、ガードレールや車止めを設置した方が安全です」
「今回のような事故が起きるとドライバーに非難が集中しがちですが、1本、2本のポールが設置されていれば、もしかしたら人の命が助かったかもしれない。そう考えると、費用対効果をみても、そこに対策を講じるべきではないかと思います」
滋賀県道路交通課の担当者は、ハフポスト日本版の取材に対し、「事故の原因や現場検証をふまえた上で、安全対策が必要かどうか検討していきたい」と話している。
歩行者が「後回し」になった日本の道路問題
日本は、アメリカやドイツ、イギリスなどの欧米諸国と比べると、歩行中や自転車乗車中の交通事故による死者数が多い。
「日本では、歩行者よりも車を優先した道路づくりがされてきた」。歩行者の死亡事故が多い原因について、伊藤さんはそう指摘する。
「日本は、いかに車が通りやすい環境を作り、そこに人間がうまく適応するか、という視点でまちづくりをしてきた。一方で欧米は、歩行者に優しい街を作り、そこに車がどう共存するか、という視点でまちづくりをしています」
「ヨーロッパは馬車文化で、大昔から時間をかけて『歩道』と『車道』を作ることが行われてきた、などの歴史的な背景もあります。日本は車輪文化が短く、歩道だった道路に車が走り出すようになり、今度は人間はどこを歩くんだ、ということになってしまった」
「1964年の東京オリンピック前に、急ピッチで道路を作ったことも大きく影響していると思います。“早く安く”道路を作ることで歩行者の安全が後回しになってしまった。国道ですら歩行者と自動車の分離ができていないような道路もあり、死亡事故も起きています」
歩行者の死亡事故、防ぐために道路整備を
伊藤さんは、事故が起きやすい交差点とその付近では、ガードレールや車止めのポールを設置することが効果的だと話す。
国は、自動運転の技術開発に力を入れている。しかし伊藤さんは、肝心の車が走る「道路の整備」については見落とされがちだと苦言を呈する。
「一般道で自動運転が普及できないと言われるのは、歩行者と自動車が入り乱れている道路があまりにも多いからです。前回のオリンピックから50年余りが経ち、道路整備をするならむしろ今はいいタイミングで、ほんのちょっと安全対策を講じていくだけで大幅に交通死亡事故は減っていくと思います」
「2020年の東京オリンピックを前に、自動運転の技術は進んだけれど、肝心の道路は整備されていないということにはならないでほしいと思います」