自分たちで未来を作らないと存在しないっていう、人類史上はじめての時代に差し掛かっている。
SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)エグゼクティブディレクター・野村幸雄さんは、私たち一人ひとりの「問い」を通じて未来を作ることの重要性を語った。
気候変動、新型コロナウィルスのパンデミック、ウクライナ危機――さまざまな課題が複雑に絡み合う。この不確かな時代において、より良い未来を作っていくために必要な視点とは?
9月11日、SHIBUYA QWSとハフポスト日本版により共同開催されたトークイベント『問いが作る未来』を取材した。
「渋谷から世界へ問いかける可能性の交差点」をコンセプトとする、共創施設SHIBUYA QWS。渋谷スクランブルスクエア15階のフロア全面を使った空間には、多様な人々が集い、日々「問い」を通じて新たな社会価値が生み出されている。
この「未来を作る」営みへの思いが架け橋となり、SHIBUYA QWSとハフポスト日本版によるコラボレーションが実現した。
今年、設立10周年を迎えたハフポスト日本版では、特集「未来を作る自分になりたい」を展開。その一環として、SHIBUYA QWSのプロジェクトを取材した連載を掲載している。
そして、コラボレーションの集大成として、9月11日にSHIBUYA QWSエグゼクティブディレクター・野村幸雄さんとハフポスト編集長・泉谷由梨子によるトークイベントが開催された。
本記事では、イベントで語られた「なぜ今、『未来を作る仕事』が必要なのか」そして「『問い』を通じて、どのように未来を作っていくのか」について紹介したい。
経営層と若手社員では、「未来」に対する危機感が違う
ハフポスト日本版の特集「未来を作る自分になりたい」では記事だけでなく、SDGsに取り組む企業と連携したワークショップなど、さまざまなコンテンツを提供している。
そのなかで泉谷編集長は、新たな社会価値を生み出せない企業のジレンマを感じたという。
「食を通じて循環型社会の実現を目指そうとしているある食品メーカーの担当者に話を聞きました。そこで聞いたのが、『リスクを取らせてもらえない』という悩み」
大手メーカーとして、すでに安定した収益を得ている企業が新たなチャレンジをするのにはリスクが伴う。たとえば、環境負荷を減らすことができる新製品を企画したとしても、「採算が合うか」「健康への影響は」などのフィードバックが来ることも多い。とくに若手社員にとって、短期的なコストやリスクを理由にチャレンジさせてもらうことは至難の業だ。
「誰もが生み出したいと思っているけれど、生み出せないジレンマを感じている」
そうしたジレンマの背景として、日本には「過剰にリスクを恐れる社会的風土」があると野村さんは指摘。
経営層と若手社員では、「未来」に対する危機感が違うという。経営層は残り数年を無事にやり過ごせば引退できるが、若手社員からしたら、会社を成長させなければ未来がない。そうした温度差から、チャレンジとリスクに対する考え方にも大きな差が生まれてくるのでは、と話す。
また、四半期決算をベースとした短期志向の株主資本主義による影響も見逃せないという。
「リスクを冒せないことで、結果的に前例踏襲型になり、なかなか新しいものが生まれてこない」
多様な「問い」の交わりが、社会に風穴を開ける
こうした閉塞感のある社会に風穴を開けるには、なにが必要なのか? 野村さんは「イノベーションを生むためには、新たなビジネスの形が求められる」という。
「今までの日本はトップダウン経営が主流で、上から指示されたタスクを粛々と捌くような働き方が多かったのでは。だけど、これからは『個』が重視されるようになると強く感じています」
泉谷編集長も同意し、人的資本経営やパーパス経営など、経営トレンドも「人」に移行していると指摘。そのうえで、社内でも「人材の流動性」を作ることがイノベーションのカギだという。
「新規事業開発を成功させるには、あえて畑違いの人をチームに入れることが大事。今までの事業の延長線上で考えていては、なかなか新規事業は生まれない」
さらに野村さんは「組織の新陳代謝を高めることで課題を見つけられ、アイデアを生むことができる」と話す。また、そのためには新しい視点で「問い」を発していい、と思わせる心理的安全性を確保することも重要だという。
つまり、人材の流動性を高めることで、人材の多様性も高まる。そして、多様な「問い」を通じて「視座」を交わらせることで、イノベーションを生みやすい素地がつくられる、ということだ。こうしたビジネスや組織の新しいあり方をSHIBUYA QWSでは模索している。
「SHIBUYA QWSでは、手段として『問い』を、状態として『多様性』を重視しています」
実際にSHIBUYA QWSには、スタートアップの起業家から、大企業の社員、地方自治体の職員、大学教員、学生、アーティストまで。まさに多種多様な人々が一つの空間に集っている。
「大企業の社員は広い視野を持っていますが、向いている方向はみんな同じだったりします。そうした状態では視座が交わらず、新たなアイデアが生まれづらい。
だから風穴を開けるためには、組織から一歩外に出て、多様な人々と出会える場に行くことが大事です。いろんな人の知恵を借りにくるという意味では、SHIBUYA QWSは面白い場だと思います」
「未来」を自分で作らないと、存在しない時代
またSHIBUYA QWSでは、イノベーションを生む仕掛けとして、ユニークなKPIを設けている。
「私たちは『ムーブメントを起こす』ことをKPIとして設定しています」と話す野村さんに対し、泉谷編集長は「一般的なインキュベーション施設とは違う理念を持つSHIBUYA QWSらしい」とコメント。
このKPIの背景には、「社会にインパクトを与えるものは、一過性の流行り廃りではなく、永く持続していくもの」だというSHIBUYA QWSの考えがあるという。言い換えると、100年後に遡ってみたときに社会が変容する起点になった「兆し」をムーブメントと捉え、その「兆し」を作ることをKPIにしているのだ。
「大きなインパクトを社会に与えようとすると、どうしても時間がかかる。しかし、そうした事業こそ社会を良くすると思っている。だからこそ、長期的な視点で、社会にインパクトを与える事業を応援するためにKPIに工夫を凝らしたのです」
実際にSHIBUYA QWSでは、どのようなプロジェクトが立ち上がっているのだろう? イベントでは事例として、福祉交通の検索・予約支援サービスを開発するmairuが紹介された。
mairuは「誰もが行きたい場所へ移動できたらどんな世界になる?」という問いを立て、車椅子やストレッチャーを必要とする人にも、移動する機会を届けることを目指し活動するチーム。メンバー全員が大学生ながら、QWSステージにて最優秀賞を受賞した。
また、トヨタ・モビリティ基金から活動資金の提供を受けたり、SHIBUYA QWSの紹介で出会った地方自治体と連携し実証実験を進めたり、積極的に活動をおこなっているそう。
泉谷編集長はmairuの活動について「大学生のスタートアップが、自治体に話を通して連携するにはハードルがある。そこをSHIBUYA QWSが人脈を活かしてサポートし、実証実験に至ったのですね」とコメント。
SHIBUYA QWSではこれまで、200を超える多種多様なプロジェクトが活動してきた。その一つひとつに対して、定期的にヒアリングをおこない、事業内容に適した人を紹介するなどの支援をおこなっているという。
SHIBUYA QWSは社会にインパクトを与えるプロジェクトを支援することで、どのような未来を作りたいのか? 野村さんは次のように語る。
「未来を自分で作らないと存在しないっていう、人類史上はじめての時代に差し掛かっている。わかりやすい例でいうと、気候変動。今止めなければ、地球と人類の未来ががなくなってしまうかもしれない。この大きな潮目に生きる私たちの責任として、短期的なリターンだけを求めるだけではなく、長期的な社会の存続に貢献すべきなのではないでしょうか」
SHIBUYA QWSの情報はこちら。
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