約3年間の休業を経て、11月22日にグランドオープンした渋谷PARCO(パルコ)。オープン数日間の取扱高は年間目標の200億円を上回るペースで、好調なスタートを切った。
テナントのラインナップは多種多様だ。1階からフロアを上がるごとにテイストが変わり、雑多な雰囲気がおもしろい。数多ある商業施設とは一線を画していた。
渋谷カルチャーの中心地として、新生渋谷PARCOはどんな発信をしていくのか? 今回のオープンを指揮した同社の常務執行役・泉水隆(せんすい たかし)さんに聞いた。
「商店街」のようなごちゃ混ぜな空間
新生渋谷PARCOのコンセプトは、「世界へ発信する唯一無二の”次世代型商業施設”」。
ファッション、アート&カルチャー、エンタテインメント、フード、テクノロジーの5つのジャンルをミックスし、個性的なテナントを揃えた。
泉水さんは、「非常に濃いラインナップができた。なぜそこにその店があるのか、という理由を1店舗ずつ細かく話せるほどのこだわりが詰まっている」と語る。
店舗数が最も多いファッション分野では、モード系、ストリート系が充実しているが、日本人デザイナーのブランドに焦点を当てていることが特徴的だ。泉水さんによると、「ユニークな東京ファッションを凝縮し、世界に発信する」という思いを込めたという。
GUCCI(グッチ)やLOEWE(ロエベ)などのラグジュアリーブランドだけではなく、COMME des GARCONS(コム デ ギャルソン)出身のデザイナー・阿部潤一さんが立ち上げたkolor(カラー)、海外で高い評価を受ける森永邦彦さんのANREALAGE(アンリアレイジ)など、日本人デザイナーによるブランドが数多く出店している。
また、SNIDEL(スナイデル)やFRAY I.D(フレイ アイディー)など若い女性に定番のブランドや、Angelic Pretty(アンジェリック プリティ)などロリータ系のブランドもある。
テナントを構成するにあたって参考にしたのは、「商店街」のイメージだ。予定調和になることを避けるため、マーケティングも行なっていないという。
「オープンにあたって色々なビルや街を見て回ったんですが、面白いなと強く感じたのは、新宿のゴールデン街やニュー新橋ビル、中野のブロードウェイ、高円寺の路面のゾーンでした。一体なぜ面白いのか?と考えた時に、自然発生的に出来上がっていたものだからこそ圧倒的に面白いのではないか、と思ったんです。さまざまな店が混在する、『商店街』のイメージですよね。
今の消費者は一つのマーケティングでくくれないですから、とにかく自分たちが発見した面白いものと思うものを入れていこう、と感じたんです」
マイノリティーへの配慮も
渋谷PARCOは、年齢層や性別、属性などでターゲットを絞っていない。
ファッション分野ではメンズ、レディスどちらも扱うブランドが多数を占め、メンズとレディスでフロアを区別することもしていない。
ターゲットの一つとして掲げている「ジェンダーレス」という言葉が現すように、性別に関係なく買い物を楽しめるレイアウトになっていた。
渋谷区はいち早くパートナーシップ制度を導入するなど、ダイバーシティへの取り組みにも積極的だ。
渋谷PARCOの館内には、多機能トイレとは別に、2フロア(地下1階・6階)に「Personal room(パーソナルルーム)」と称したトイレが設置された。広々とした清潔感のある個室トイレで、性別を問わずに利用ができる。
TOTOとLGBT総合研究所の調査では、トランスジェンダーの人は多機能トイレや男女共用トイレの利用意向が高く、「トイレに入る際の周囲の視線」にストレスを感じる傾向があることがわかっている。
近年は「オールジェンダー」と表示するケースも増えているが、名称を「パーソナルルーム」にすることで、利用することがカミングアウトに繋がらないように配慮したという。
泉水さんは、「LGBTQの方にも優しい施設であれるよう、様々な工夫をしていきたい」とも話す。
再開発が進む渋谷で「セゾンカルチャーの復権」を
1973年にオープンした渋谷PARCOは開店以来、ファッションにとどまらず、演劇、音楽、映画など文化芸術の発信にも貢献してきた。
新生渋谷PARCOでも、そのDNAは受け継いでいるという。2020年1月には、観客席を増やした「PARCO劇場」が開場する予定だ。
「カルチャー面では、セゾンカルチャーの復権を目指していきたい」と泉水さんは語る。1階には、1980〜90年代にカルチャーシーンを牽引したレコードショップ「WAVE」もオープンした。
「かつてのパルコは、セゾングループの堤清二さんの影響を強く受け、先鋭的に時代を作っていきました。それが、時代の変化とともに様々な競合が出てきて、休業前はオープン当初ほどの輝きがなくなっていたと感じます」
渋谷駅周辺では現在、「100年に1度」と言われる再開発が進んでいる。渋谷PARCOがオープンした11月には、47階建ての大規模複合施設「渋谷スクランブルスクエア」もオープンした。
街全体が動き出している中で、パルコはどんな価値観を発信していくのだろうか。
「渋谷はいろいろなことを発信できる街だと思っています。開発が進む中で、本来持っているポテンシャルを発揮できる機会がまた出てきているのではないか、と感じています。
渋谷のカルチャーをリードする...とたくさんの方に言っていただけるんですが、我々のスタンスは非常にニッチなところにあります。やっぱり王道ではないし、マスではないですから。(笑)リードするというよりも、東京ファッションや渋谷カルチャーをかき回す存在、刺激を与えていく存在でありたいですし、それがパルコとして求められているものではないかと思います」
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催にあわせて、さまざまな施策も計画中だという。渋谷PARCOの躍進に大きく期待したい。