東京都・渋谷区にある渋谷教育学園・渋谷中学高等学校で12月13日、LGBTQの人たちについて知るためのワークショップが開かれた。
ワークショップを企画したのは、同校に通う高校2年生の杉本絢香さんと遠藤可奈子さんだ。
二人は同級生らがLGBTQの人たちを「普通じゃないよね」と言うのを耳にして違和感を感じたという。
それは、正しい知識がないから生まれる偏見ではないだろうか、と思ったという遠藤さんと杉本さん。
同じ学校に通う、中学・高校生と一緒に、LGBTQの人たちについて学ぶワークショップを設けた。
知って理解しようとすることが大事
ワークショップには、同校に通う中学1年〜高校2年生までの約30人の学生たちが参加した。
遠藤さんと杉本さんは、「LGBTQのことを考えるときに、“普通”という言葉が出てきて、普通という概念とはどういうものなのかということを考えられさせることがある」と説明。
「普通じゃない、不自然だ、ホモがやばいといった言葉が、いじめや職場でのパワハラに繋がっている」と、“普通”の決めつけが、LGBTQの人たちの生きづらさを生み出しているのではないかと訴えた。
ワークショップには渋谷区の長谷部健区長と女子サッカークラブ「スフィーダ世田谷FC」所属の下山田志帆選手もゲストとして参加した。
長谷部区長は、2015年に渋谷区でスタートした「同性パートナーシップ制度」の制定に大きく関わり、渋谷をLGBTQの人たちが暮らしやすい街にするための活動に力を入れてきた。
しかし長谷部氏自身も、高校生の時まではLGBTQの人についての知識がなく、「(ゲイやトランスジェンダーのような)男の子がいたら、言葉で傷つけていたかもしれない」と明かす。
LGBTQの人たちへの考え方が変わったのは、20歳の時にアメリカに旅行した時だったという。旅先で同性愛者の人たちに声をかけられたり、男性同士が手をつないで歩いているのを目にしたりして、自分の知らない世界があるということに気が付いた。
日本で社会人になった後も、LGBTQの当事者と知り合い一緒に働く機会があった。自分の身近にはいないと思っていたLGBTQの人たちは、よく周りを見たらすぐそばにいることを知ったという。
そういった経験から「もしLGBTQの人たちについての知識がなかったら、まずは彼らのことを知り、そして理解しようとすることが大切だ」と話す。
違いを力に変える社会にしたい
下山田選手は、性の多様性が受け入れられていない日本のスポーツ界で、生きづらさを感じているアスリートがいることを語った。
下山田選手は、生まれついた体の性別は女性で、好きになる相手も女性。よく「LGBTのどれなんですか」と聞かれるが、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーのどれにも、100%当てはまるものはないと感じている。
自分の心の性は、「今はどちらかというと男性寄りだけど、女性に寄ることもある」と説明する。
「自分をどこかのセクシュアリティに当てはめなければいけないという気持ちが強くて悩んだ時もあったんですけれど、今は性が揺れ動いているのも自分だなと受けとめて生活しています」と話す。
下山田選手が2017年から約2年間プレーしていたドイツは、同性同士の結婚が認められている国。LGBTQの人だけに限らず「みんな違うところがある」と一人一人が理解していて生きやすかったという。
一方、日本のスポーツ界では「男らしさ」「女らしさ」を求める風潮が強く、自分らしくいられない不安や恐怖を抱えているLGBTQのアスリートが多いと下山田選手は話す。
「日本ではみんながチームとして同じ方向を向くことで強くなれる、という空気感が強く『違いを力に変える』ということが、今のスポーツ界はできてないなと思います」
ディスカッション
話を聞いて、学生たちはどんなことを感じたのか。身近にある問題点や、自分たちにできる解決策を、ディスカッション形式で考えた。
若い彼らが、身近にある問題として挙げたのは、無意識に使っている言葉や服装など、日常の中に潜む差別や生きづらさだ。
身近にある問題
・ホモ、ゲイなどのフレーズが、悪口やからかいの意図で使われていることがある
・「女子力高い」「力仕事は男」「男は泣かない」という日常会話で使われている言葉が、無意識に差別をしている
・男女別にわかれている制服など、男性はこういう服を着る、女性はこういう服を着るという空気感が、特にトランスジェンダーの人たちにとって生きづらい世の中にしているのではないか
そして、その問題を変えていくためにできることとして、多くのグループが答えたのが「教育を通して変えること」だ。
幼い頃から体に違和感を感じたり、「男の子らしさ」「女の子らしさ」を苦しく感じたりする子供もいるので、幼稚園や保育園からLGBTQのことを教えるのが大事だと指摘する声もあった。
解決策としてできること
・LGBTQについて教え、考えさせるような授業を義務教育の段階から組み込む
・童話や絵本に、LGBTQをテーマにした内容のものを増やす
・トイレの表記を、男性は青で女性は赤で色分けしない
・固定概念にとらわれないように、自分の言動に気をつける
一人一人から変化は始まるのかも
遠藤さんと杉本さんは「当事者や活躍している人たちの話を聞くことで、ネットで調べたことだけではわからないことを知ることができた」と話す。
ふたりの「普通じゃない」という言葉への違和感からスタートした今回のワークショップ。参加者を募った時には、誰も来なかったらどうしようと心配していたが、「ここまでたくさん来てくれると思わなかった、嬉しい」と、喜びの表情を浮かべる。
「来てくれた人の心に何か引っかかることがあって、これから意識しようと考えたり、何か新しいことを学べたのであれば、この企画は成功したのかなって思います」
今後はワークショップを、校内だけではなく学校以外の場所にも広げていきたいと考えている。