殻が無くてもヒヨコやウズラは誕生する――。千葉県立生浜高校の生物部と教諭が発表した成果が、国内外から注目を集めています。
千葉県立生浜高校生物部の田原豊先生(中央)と部員。手にするのはウズラのひなと割った卵を入れたカップ=千葉市の県立生浜高校、猪野元健撮影
去年11月、干支特集の企画で千葉市にある生浜高校の生物室を訪ねると、卵の空き箱が山積みになっていました。ここで生物部の生徒が料理をするように卵を割り、保温庫で孵化までの成長を観察しています。
担当の田原豊先生は、約40年にわたる研究で殻無しのニワトリの卵の孵化に成功しました。透明の容器を使った孵化は、世界で初めてだそうです。「くじけそうなときはいつも生徒に励まされて研究を続けられた」と感慨深そうに話します。
殻無し卵の孵化の実験は、まず卵をプラスチックカップの上に敷いた食品用ラップに落とします。ニワトリの卵の場合、保温庫に入れて3日も経つと、肉眼で赤い血管網が広がっていくのが確認できます。心臓の鼓動や脚が観察できるようになり、体を羽毛がおおうと、肺呼吸が始まります。孵化前にピヨピヨと鳴き声が聞こえ、21日目にヒヨコが誕生します。
研究に使われる卵はスーパーで一般的には販売されていない有精卵です。おすとめすを飼育して受精した卵で、温めれば孵化する可能性があります。殻無しでの孵化は難しく、生徒と田原先生はさまざまな工夫をこらしました。
例えば、通気性が高い素材のラップを選び抜き、カップには加湿用の水を入れています。保温庫に入れて17日目、ラップの中では不足してしまう酸素を注入することで順調に生育するといいます。
生物部の男子生徒(3年)は「育ててきた卵が孵化するのは感動の一言ですが、成功しなかった場合は言葉を失うくらいに悲しいです。実験を通じて、ご飯を食べるときは命をいただいていると実感するようになりました」と話します。孵化させたウズラを家で大切に育てている部員もいるそうです。
この実験は2012年に成功しました。去年5月にNHKのテレビ番組で紹介されたことをきっかけに国内外から問い合わせが殺到。年末までに日本やアメリカ、オランダ、アルゼンチンなどの大学やマスコミから研究への質問や取材が40回以上あったといいます。
田原先生によると、実験の成果は大きく分けて二つのことに役立てられます。一つは生物の教育です。孵化の技術と有精卵や保温庫などがあれば、ヒヨコへと成長していく「発生」を生で観察できます。
もう一つは大学や研究機関での研究です。例えば、卵に特定の遺伝子を入れることでどのように変化するのかを簡単に観察できます。その成果は人の薬の開発や健康にもつながるそうです。
田原先生は「もっと簡単にできる方法を確立して、他の学校にも広めていきたい」と話します。
小学生向けの日刊紙「朝日小学生新聞」と中高生向けの週刊紙「朝日中高生新聞」2017年
1月1日付に掲載した記事を再構成しました。媒体について詳しくはジュニア朝日のウェブサイト(https://asagaku.com/)へ。
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