戦争中の元首に「必勝」と書かれたしゃもじを贈呈するのは是か非か。日本の国会で一風変わった論戦が繰り広げられた。
■ゼレンスキー大統領に贈呈。「必勝というのはあまりに不適切では?」と野党議員が質問
岸田文雄首相は3月21日にウクライナの首都キーウを訪問して、ゼレンスキー大統領と会談した。その際、岸田首相の地元である広島名物の「必勝しゃもじ」と、「宮島お砂焼き」の折り鶴型のランプを贈呈した。産経新聞によると、しゃもじは50センチ大で、「必勝」の文字と「岸田文雄」が入っているという。
松野博一官房長官が23日の記者会見で、「ロシアによるウクライナ侵略に立ち向かうゼレンスキー大統領への激励と平和を祈念する思いを伝達するため」と選定理由を説明していた。
これに関して、立憲民主党の石垣のりこ参院議員が3月24日の参院予算委員会で疑問を呈した。「日本がやるべきはいかに和平を行うかであって、必勝というのはあまりに不適切では?」と岸田首相に質問した。
岸田首相は「地元の名産について、その意味を私から申し上げることは控えます」とした上で、「ウクライナの方々は祖国や自由を守るために戦っておられます。こうした努力に対して、我々は敬意を表したいと思います」と回答した。
■日露戦争などがきっかけ。必勝しゃもじの由来は?
中国新聞などによると、しゃもじは宮島(廿日市市)の特産品。「敵を召し捕る(飯取る)」との意味から広島県内で験担ぎにも使われているという。同地のしゃもじ販売店では「必勝」以外にも「商売繁盛」「家内安全」などの文字が書かれたしゃもじを扱っている。
「ひろしま文化大百科」によると、日清・日露戦争時に、全国から召集された兵士が広島の宇品港から出征する際、厳島神社に無事な帰還を祈願した。
その際に「敵をめしとる」という言葉に掛けてしゃもじを奉納し、故郷への土産物として持ち帰ったことから、全国的に知られるようになったという。
■ウクライナ政府側の反応は不明だが、現地では肯定的な評価も
今回のしゃもじ贈呈に関するウクライナ政府側の反応は、今のところ不明だ。在日ウクライナ大使館は「必勝!」とのメッセージを添えて産経新聞の報道をシェアしたのが見つかる程度だ。
ただ、ウクライナ国営「ウクルインフォルム通信」の平野高志記者は、必勝しゃもじの贈呈に関する解説記事をウクライナ語で掲載したことを公式Twitteで明かした。「とても面白い!」「象徴的!」「ありがとう!」などの肯定的な感想が出ているという。
■石垣議員と岸田首相の一問一答
石垣議員:総理がウクライナを訪問した際にゼレンスキー大統領への贈答品として、広島の名産「しゃもじ」。必勝の文字が入った「しゃもじ」をゼレンスキー大統領に差し上げたということなんですが、これは事実でしょうか?
岸田首相:外交の慣例として、地元の名産のお土産を持っていく。こうしたことを、よくやります。今回、地元の名産であるしゃもじをお土産として使ったということを、承知しております。
石垣議員:必勝と書かれているのは、選挙とかスポーツ競技ではありませんので、日本がやるべきはやはり平和をいかに……。和平を行うかであって、必勝というのは、あまりも不適切ではないかと思うんですが、その点いかがでしょうか?
岸田首相:地元の名産について、その意味を私から申し上げることは控えますが、いずれにせよ、ウクライナの方々は祖国や自由を守るために戦っておられます。こうした努力に対して、我々は敬意を表したいと思いますし、我が国としてウクライナ支援をしっかり行っていきたいと考えております。
石垣議員:今、本当に多くの方が亡くなっている戦場に行って、いくら名産というのはあるかもしれませんが「必勝」と書かれたしゃもじをお渡しするのは、私は非常に不適切だという風に申し上げます。