新聞労連、民放労連などで作る「日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)」が6月7日、「セクシュアルハラスメント被害と職場の対応に関するWEBアンケート」の結果を発表した。
「セクハラにあった経験がある人、見聞きしたことがある人」の6割以上が会社の相談窓口などに相談・通報しなかった(できなかった)ことが明らかになった。
被害を訴えた結果、「隙があったのでは?」などと非難されたり、「信じてもらえず、賞与がカットされた」などの不利益をこうむったりしている例が寄せられ、被害を相談しにくい現状であることが見えてきた。
■「子ども生まないの?」などの「自己決定権に関わる質問」被害が最多
アンケートはネット上で行われた。回答数は1061人(女性815人、男性232人、その他14人)。回答者の仕事は様々だが、メディア関係が292人(27.5%)で最も多かった。調査期間は2019年4月15日から5月14日。
1061人のうち「セクハラにあった経験がある」は733人(69.1%)で、「(自分は受けていないが)職場で見聞きした」は123人(11.6%)いた。被害に「あった」「見聞きした」時期(複数回答)は、1年以内が41.5%。
女性に限ると、回答した全女性の82.9%にのぼる676人が被害にあっていた。男性は45人(19.4%)、その他では12人(85.7%)。
セクハラにあった人の被害内容(複数回答)は、「『結婚しないの?』『子ども生まないの?』などの自己決定権に関わる質問をされた」が48.0%(352人)で最も多かった。
「必要もないのに身体的接触(キス、抱きつく、肩もみ、胸をさわる等)をされた」が43.5%(319人)、「お酒を飲まされ、酔いつぶされて強制性交をされた」が15人(2.0%)、「強制性交をされた」も13人(1.8%)いた。
被害内容についての自由記述では、「女性にしては優秀(と言われた)」「派遣社員は『性欲処理要員』と言われた」などの差別的発言・扱いを受けているという回答のほか、容姿や私生活について言及された経験、「ホテルに誘われたのを断ったら殴られた」などの性的関係の強要・未遂などが出た。
■「調査もされず放置された」
セクハラにあった人・見聞きした人の中で、相談窓口などに相談・通報をした人は27.3%(234人)にとどまった。
そのうち、自身が被害にあった人(210人)では、相談・通報先で「不適切な対応」を受けたと感じている人が多く、「事情を話したが、調査もされず放置された」が84人いた(複数回答)。
「不適切処理で、きちんと解決しなかったケース」として、自由記述では下のような経験が寄せられた。
「『自慢ですか?』と責められた」
「よくあることで仕方がない、とされ抜本的改善はなし」
「加害者への厳重注意がなされたが、逆に加害者が無視等をしはじめた」
■相談しない理由「頻繁に被害にあうので無力感を感じる」
セクハラにあった人・見聞きした人(856人)の中で「相談・通報しようと思わなかったので、しなかった」が370人(43.2%)、「相談・通報したかったが、できなかった」が195人(22.8%)で、多くのケースが相談されていなかった。
被害にあったが相談しなかった人(322人)の理由(複数回答)は、「相談しても解決しないと思うから」が202人(21.0%)で最も多く、「仕事に支障が出るかもしれないから」が143人(14.8%)で続いた。
相談しなかった理由の自由記述では、セクハラを耐えざるを得ないと感じている被害者の無力感が透けた。
「場の空気を悪くしないために耐えた」
「頻繁に被害にあうので無力感を感じる」
「セクハラが文化の社風だから」
「世の中も社会も加害者もそういうもの、という判断」
■どういう相談窓口であるべきか
テレビ朝日記者が財務次官(当時)からセクハラ被害を受けた事件が明らかになってから1年あまり。
MICでは「メディア業界が足元で起きているセクハラに向き合ってこなかったために、被害を受けても泣き寝入りを強いるような社会をつくってしまっていたのではないか」という反省から今回の調査を行ったという。
アンケートの担当者は取材に対し、「今回の調査で、相談した人が実際にどういう不利益をこうむっているかも見えてきた。人事権を握っている人が加害者であるケースもあった。『相談窓口を作っている』という会社は多いが、どういう相談窓口であるべきか、アンケートを参考にして欲しい」と話す。
国際労働機関(ILO)は、職場における暴力やハラスメントをなくすための条約について議論している。MICはアンケート結果などから、日本も条約に賛成、批准することを求めている。MICでは、アンケート結果を6月10日に始まるILO総会に参加する労働組合や日本政府などに届けるとしている。