日本の歴代首相が4人もそろって、「原発ゼロ、再稼働反対」と叫んでいる。それでも現職の安倍晋三首相はさっぱり聴く耳をもたない。
4人というのは細川護熙、小泉純一郎、鳩山由紀夫、菅直人の元首相たちである。歯切れの悪かった野田佳彦氏でさえ、首相退任間際である2012年9月には、「2030年代原発ゼロ」を唱えるようになった。
さらに、社会党党首として1994年~95年に首相を経験した村山富市氏も、いまは原発ゼロ派である。だから、自民党から民主党、社会党まで、合計6人の元首相が党派を問わず、「脱原発」を主張している。世界にも例がない事態である。
それほど2011年3月の福島原発事故の衝撃と影響が巨大だった。不安はまだ根強い。しかし、安倍首相は、「原発はベースロード電源」と性懲りもなく原発推進を固持している。 「事故を経験した日本の原発は世界一安全だ」。トルコやアラブ首長国連邦へのセールトークである。
福島第一原発の問題については、「状況はコントロールされている」。それが、2013年9月にIOC総会でオリンピックを東京に誘致した安倍首相のアピールだった。
ところが実際は、メルトダウンした核燃料がどこまで落ちていったのかわからない。地下水が発生して、高濃度の放射性汚染水が、一日400トンもタンクにたまっている。タンクからの漏水が激しく、周辺の漁民に補償金を払って、汚染水の海洋投棄を認めさせようとしているほどだ。
市民の反対運動が強いため、昨年9月から1年近くも日本では50基すべての原発が止まっている。それでも電力不足に陥ってはいない。しかし安倍内閣はなんとか、全原発停止の状況を破ろうとしている。電力会社と日本経団連の要求を受けてのことである。
■ 逃げる道は一本だけ
再稼働の突破口に選ばれたのが、鹿児島県の川内原発である。九州の南端、東シナ海にむかって注ぐ、川内川河口のデルタ地帯に2基の原発が建っている。
この辺りは、かつて、なんども海底大噴火があった地域で、「巨大噴火は遠い未来の非現実的な絵空事ではなく、すぐにでも起きる可能性は十分」(守屋以智雄・金沢大学名誉教授)と火山学者が警告を発している。
いつも噴煙を吐いている活火山・桜島にも近く、もともと原発などつくれる地理的条件には、なかった地域なのだ。それでも、原子力規制委員会は7月16日、川内原発1、2号機が「運転再開」の規制基準に合格した、と発表した。
安倍内閣は、それを「安全宣言」とした。菅義偉官房長官は「これでほかの原発の再稼働もうまくいく」とまで言ってのけた。
福島第一原発事故の影響で全機が停止中の国内の原発の一つが、再び動き出すことが確実になった。
私は、薩摩川内市の担当課長に会って、原発事故時の避難計画について聴いた。「自家用車で逃げて下さい」「クルマのないひとは?」「バスが迎えに行きますから、それを待って下さい」
原発から逃げる道は一本しかない。全国どこでも、原発は交通不便な過疎地帯にあるのだ。「国に避難のシミュレーションをつくってもらうしかありません」と担当課長がいう。
国の原子力規制委員会は、避難計画についての審査はしない。県知事は、病人や老人などの「要援護者」の救済は「原発から5キロまで」という。「それ以上はできない」
5キロ圏内の住民には、甲状腺被曝(ひばく)を防ぐ「ヨウ素剤」を一斉配布した。しかし、3歳未満の子どもには、薬剤師が調合しなくてはならない。
川内原発の近くにいってみると、ユンボがクビを振り上げ、事故のときに指揮を執る「重要免震棟」の地盤を造成中だった。完成は来年秋。
事故が発生すると、原子炉格納容器の内圧が上がる。水蒸気爆発を逃がすフイルターつき「ベント」工事の見通しもない。
それでも、原子力規制委員会は、機器の適合検査は「適合」と判断した。
安倍首相は7月18日夜、福岡市内で九州電力会長ら九州の財界人と会食した。川内原発の早期再稼働を要請された首相は、「川内はなんとかしますよ」と応じたと伝えられている。
「いのちよりも経済」「科学的判断よりも政治的判断」、これが、原発に関する日本国政府の隠すことのない方針である。
(2014年9月3日AJWフォーラムより転載)