例年、梅雨の後半は災害級の大雨となることが多い時期で、今年も4日(土)の大雨で熊本県の球磨地方や芦北地方で浸水や土砂災害といった豪雨被害が相次ぎました。
振り返ると、今から二年前のちょうど今頃は、西日本から東海地方の広範囲で大雨被害がでた「平成30年7月豪雨」いわゆる「西日本豪雨」が発生した期間でもありました。
その際も問題となった「逃げ遅れ」。そこに至ってしまう心理や防ぐための心構えを取材してまとめました
平成最悪の豪雨災害
2018年7月、梅雨前線などの影響で西日本を中心に記録的豪雨に襲われ、270人を超える死者・行方不明者の被害が出ました。中でも岡山県倉敷市真備地区では川の堤防が決壊して51人が犠牲になりました。被害を防ぐことはできなかったのでしょうか。
住民は川の氾濫を予想していなかった
岡山県は災害を受けて、「平成30年7月豪雨災害検証委員会」を立ち上げ、住民アンケートを行いました。大きな被害を出した真備町の住人は「水害で避難しなければならない事態になると思っていましたか」という質問に、「近いうちに起きそうだと思っていた」という回答が9%に過ぎませんでした(回答3135人)。大半は「10年くらいの間に」「水害はたぶん起きない」などと思っていたのです。
岡山県の検証委員会の委員長を務めた河田惠昭教授(関西大学社会安全研究センター長)が語ります。
「倉敷市が住民に配布したハザードマップは、西日本豪雨の浸水域とほぼ合致していましたが、住民の大半は大雨で川が氾濫するかもしれないという心配をまったくしていませんでした。自分が経験しないことは“ひとごと”という風潮を変えるのは至難のワザです」
活用されなかった要支援者名簿
真備町で犠牲になった51人のうち46人が高齢者(65歳以上)で、かつ42人が要支援者でした。要支援者名簿は市町村が作成し、民生委員や自主防災組織に提供されることになっています。なぜ支援を受けられなかったのでしょうか。
「私は岡山県の検証をしたので、倉敷市のことは詳しくわかりませんが、要支援者名簿があっても活用されなかったのでしょう。真備地区は新興の住宅が多く、自主防災組織がなかったか、あっても機能していなかったと思われます」(河田センター長)
逃げ遅れてしまう理由
災害心理学で「正常性バイアス」という用語があります。被害が予想される状況でも、都合の悪い情報を無視したり、「自分は大丈夫」「まだ大丈夫」と過小評価して逃げおくれてしまうのです。浸水範囲を示す「ハザードマップ」を見ても、“ひとごと”と見過ごす人が多いでしょうが、“わがこと”として捉える人もいます。
「市町村は住民全体の防災・減災意識を高めようと努力しますが、自治体のリーダーなどだけでなく、まずは危機感を持っている賢い住民に理解してもらってから全体に輪を広げていくという戦略が必要でしょう。防災・減災の取り組みを住民レベルで災害文化として定着させていくことが大切なのです。新型コロナウイルスでは、無関心な人ほど罹患(りかん)しやすいのと同じです。自助努力なしでは防災・減災は実現しません」(河田センター長)
梅雨期の集中豪雨や台風などで川が増水して氾濫しやすい時期を「出水期(しゅっすいき)」といい、通常は6〜10月を指します。近年、出水期に、あなたの家が浸水しないと言い切れるでしょうか。まず、市町村が作成した「ハザードマップ」を確認しておく必要があります。
たとえ自分が住む場所で何十年も何もなかったという常識では通用しないと考え、自分の住んでいる場所について情報を集めて、心構えをしておくことが大切です。
特集番組
〜西日本豪雨から二年〜
YouTubeなどで視聴可能な生放送番組「ウェザーニュースLiVE」では、7/7(火)22:00〜23:00に西日本豪雨の特集コーナーをお送りします。
当時の豪雨被害状況をあらためて分析し、再び災害級の大雨が発生した際の対策、状況に応じた避難方法を徹底解説します。ぜひご覧ください。
【関連記事】