水族館のラッコはピーク時の122頭から12頭まで減っています。関東で飼育するのは1施設だけです。海外からの輸入が難しく、国内の繁殖もうまく進んでいません。
ラッコは主に水中で生活しますが、アクアワールド茨城県大洗水族館の「カンナ」は陸でゆっくりするのが好きだそうです=茨城県大洗町、猪野元健撮影
関東地方でラッコを唯一見られるのが、めすの「カンナ」(13歳)がいる茨城県大洗町のアクアワールド茨城県大洗水族館です。飼育係の大須賀陽子さんは「人気動物ですが、最近は生で見るのが初めてという人が増えています」と話します。
カンナは体長140センチ、体重20キロほど。1日にイカやサケ、貝、甘エビなどの海の幸を約4キロたいらげます。体重の20%ほどの量です。気まぐれな性格のせいか、おいしそうに口に運んでいたえさを突然、食べるのをやめることもあるそうです。
関東では、去年3月にサンシャイン水族館(東京)のラッコが繁殖のために引っ越し、今年4月に横浜・八景島シーパラダイス(神奈川)のラッコが死んだため、カンナが最後の1頭になりました。大須賀さんは目の悪いカンナに目薬をさし、おなかの調子が悪いときはえさの中に薬を入れるなどして大切に世話しています。
「ラッコは前足を手のように使ってえさを器用に食べ、毛づくろいをする姿が人のしぐさにも似ていてかわいいですよ。多くの人に生で見てもらいたいです」
水面で仰向けになるカンナ=アクアワールド茨城県大洗水族館提供
イベントで、イカやサケなどが入った丸い氷の「ケーキ」をもらったカンナ=アクアワールド茨城県大洗水族館提供
目が悪いカンナの目薬と整腸剤はどちらも人用です=猪野元健撮影
日本動物園水族館協会によると、日本に初めてラッコがやってきたのは1982年の伊豆・三津シーパラダイス(静岡)です。84年に鳥羽水族館(三重)で赤ちゃんが生まれ、その愛くるしい姿から人気になりました。しかし、94年の28施設122頭をピークに、現在は8施設12頭まで減っています。
日本のラッコの繁殖計画をまとめている鳥羽水族館の飼育係、石原良浩さんは、ラッコの減少について複数の原因を説明します。野生のラッコの保護のため、アメリカからは98年、ロシアからは2003年を最後に輸入されていません。水族館で世代を重ねるうちに野生の本能がうすれたのか、交尾に消極的になりました。高齢化が進み、繁殖が難しい15歳以上が半数になりました。
国内のラッコを守りたいと、水族館同士でラッコを貸し借りして、相性の良さそうなペアをつくり、繁殖ができる環境を整えています。輸入が難しくなっていた野生のラッコは保護により数が増え、アメリカがヨーロッパの水族館に輸出する例も出てきたそうです。
石原さんは「数は減りましたが、ラッコが水族館からすぐにいなくなるわけではありません。国内で一番若いラッコが5歳で、繁殖の期待ができます。輸入できるときもくるかもしれません。子どもたちには、ラッコの姿を通じて、その生態に興味を持ったり生き物を大切にしようと感じたりしてほしい」と話します。
【ラッコを展示している施設】
▽アクアワールド茨城県大洗水族館(茨城)
▽新潟市水族館マリンピア日本海(新潟)
▽のとじま水族館(石川)
▽鳥羽水族館(三重)
▽海遊館(大阪)
▽神戸市立須磨海浜水族園(兵庫)
▽アドベンチャーワールド(和歌山)
▽マリンワールド海の中道(福岡)
【ラッコ】イタチ科最大の哺乳類。北海道の先住民族「アイヌ民族」の言葉。アメリカやロシアなどの北太平洋の浅い沿岸に生息し、北海道の海で目撃されることもあります。ラッコの高品質な毛皮を目的とした乱獲などにより、20世紀初めには絶滅寸前になり、捕獲や取引の制限が行われています。国際自然保護連合の絶滅危惧種に指定されています。