SDGs(持続可能な開発目標)とは?
SDGs(エスディージーズ)とは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称です。2030年までに世界が達成する目標として、2015年9月の国連サミットで採択されました。17の目標・169のターゲット(具体目標)から構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」を理念として掲げています。
SDGsの前身は、2015年を達成期限としていた「MDGs(ミレニアム開発目標)」です。MDGsは一定の効果があったものの未達成の項目も多く、それらはSDGsへと引き継がれました。MDGsが「極度の貧困と飢餓の撲滅」や「幼児死亡率の引き下げ」など先進国による開発途上国の支援を中心とする内容だったのに対し、SDGsは先進国と開発途上国が一丸となって達成すべき目標で構成されているのが特徴です。
SDGsの17の目標
ここからは実際に、SDGsの17の目標について詳しく見ていきましょう。貧困や飢餓といった問題から、ジェンダー、働きがいやまちづくり、気候変動など、多岐にわたる課題が挙げられているのが分かります。
こうして17個を眺めていると一見それぞれがバラバラの目標に思えますが、実は大きく、①「自然環境」に関わるもの、②「社会」に関わるもの、③「経済」に関わるもの、と3つの項目に分けられるのに気付くでしょうか。たとえば、目標13「 気候変動に具体的な対策を」ならば「自然環境」に関わる目標ですし、目標11「 住み続けられるまちづくりを」は「社会」に関わる目標です。
そうした3つの項目からSDGsを捉えた有名な図があります。それが、スウェーデンのストックホルム・レジリエンス・センター元所長ヨハン・ロックストローム氏が提唱した「SDGsウェディングケーキモデル」です。見た目がウェディングケーキに似ていることから、そう呼ばれています。ここではこの図を使って、17の目標を解説していきます。
それでは、「SDGsウェディングケーキモデル」を眺めてみて下さい。
まず、ケーキの一番下の層「自然環境」が一番厚く広くなっているのが分かります。その上に「社会」「経済」の層が順々に乗り、最後に目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」が3層を縦に貫くように頂点に乗っています。
なぜ3層に分かれているのか。そして、なぜ目標17がケーキの頂点にあるのか。実は、そこにSDGsを理解する上で、重要なポイントがあります。
「自然環境」が一番下にあるのは、その上に乗っている「社会」や「経済」が、「自然環境」なしに成り立たないことを意味します。海や陸の豊かさ、そして清潔な水がなければ、そもそも貧困や飢餓は解決しませんし、教育やジェンダーの平等を実現することもできません。「社会」の上に「経済」があるのも、同様の意味です。たとえば、医療が受けられず、健康が維持できない社会では、働きがいや技術革新などを追求することもできません。つまり、それぞれの目標は決してバラバラではなく、互いに密接に関わっているのです。
そして、これら全ての目標を実現していくためには、1人の力では到底及びません。国連などの国際機関や行政、企業、NGO、市民など、様々な組織や人々が互いに「パートナーシップ」を組んで、一緒に取り組んでいく必要があります。目標17が、3層を貫くようにケーキの頂点に存在しているのには、そんな意味があるのです。
「自然環境」に関わる目標
【目標6】安全な水とトイレを世界中に
すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
【目標13】気候変動に具体的な対策を
気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
【目標14】海の豊かさを守ろう
持続可能な開発のために、海洋・海洋資源を 保全し、持続可能な形で利用する
【目標15】 陸の豊かさも守ろう
陸域生態系の保護、回復、持続可能な利 用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠 化への対処ならびに土地の劣化の阻止・ 回復及び生物多様性の損失を阻止する
「社会」に関わる目標
【目標1】貧困をなくそう
あらゆる場所あらゆる形態の貧困を終わらせる【目標2】飢餓をゼロに
飢餓を終わらせ、食料安全保障 及び栄養の改善を実現し、持続可能な農業を促進する【目標3】すべての人に健康と福祉を
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する【目標4】質の高い教育をみんなに
すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する【目標5】ジェンダー平等を実現しよう
ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の エンパワーメントを行う
【目標7】エネルギーをみんなに そしてクリーンに
すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的なエネルギーへの アクセスを確保する
【目標11】住み続けられるまちづくりを
包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で 持続可能な都市及び人間居住を実現する
【目標16】平和と公正を全ての人に
持続可能な開発のための平和で包摂的な社会 を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提 供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
「経済」に関わる目標
【目標8】働きがいも経済成長も
包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての 人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある 人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
【目標9】産業と技術革新の基盤をつくろう
強靭(レジリエント)なインフラ構築、 包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
【目標10】人や国の不平等をなくそう
国内及び各国家間の不平等を是正する
【目標12】つくる責任つかう責任
持続可能な消費生産形態を確保する
全ての目標に包括的に関わる目標
【目標17】 パートナーシップで目標を達成しよう
持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
SDGsの169のターゲットとは?
17の目標をより具体的にしたものが169のターゲットです。
17の目標が「ビジョン」のようなものであるのに対し、ターゲットには達成を目指す年や数値を含む、より具体的な到達点が描かれています。なかには、達成年を2020年などのように2030年以外に定めたものもあります。
ターゲットは、17の各目標に対して5から10程度設定されており、合計すると169となります。(169のターゲットの詳細はこちら)
なぜSDGsは注目されているのか?
政府、企業、一人一人の行動を変えるSDGs
気候危機による自然災害、生態系の破壊、貧富の差の広がり、テロリズム、国境を越える感染症……。グローバル化の負の面が深刻さを増す中、SDGsは、こうした危機を乗り越えるための世界共通の行動計画として注目を集めています。
かつて環境対策はコストで、「企業の利益を減らす」と考えられてきました。こうした「環境vs経済」の図式をも、SDGsは乗り越えようとしています。環境保全だけでなく経済成長の大切さを明確にうたったことから、企業が環境や社会のサステナビリティに本気で取り組むためのきっかけとなりました。
また、SDGsの目標は日常生活に身近なものが多く、一人一人が具体的なアクションを起こすことができます。例えば、買い物をするときに、環境や社会に配慮した商品を購入する「エシカル消費」の考え方が浸透し始めています。
SDGsは、政府、企業、そして私たちの行動を変えつつあるのです。
差し迫る人類の危機
気候変動や生態系の破壊をくい止めることができなければ、人が生きていく基盤である農林水産業が立ちゆかなくなってしまいます。食料状況が悪化し、価格が高騰してしまえば、特に開発途上国や女性など社会的に弱い立場の人たちの暮らしや健康に大きな悪影響をおよぼす恐れがあります。飢餓に苦しむ人がさらに増え、不平等さが広がってゆけば、テロリズムの温床にもなりかねません。
企業もまた、SDGsに取り組まなければ、未来にわたって生き残ることはできないでしょう。環境に配慮せず、また生産現場での児童労働や強制労働をなくせないような企業は、消費者や投資家から見放されてしまうからです。ちなみに環境や社会に配慮した企業に投資をすることを「ESG投資」と言います。詳細は後述しています。
労働環境の面でも、過度な残業やパワハラが横行しているような企業には、優秀な人材が集まらず、成長は持続できません。そもそも多くの企業活動は自然資源に依存しています。例えば、水不足が深刻化すれば、生産過程で水を大量に使うファッション業界自体が立ちゆかなくなってしまいます。
つながりを重視する「リンケージ思考」が鍵
SDGsは課題間のつながりに着目する「リンケージ思考」によって、持続可能な世界の実現を目指しています。
例えば、真夏日に部屋で冷房をかけ、ペットボトルの水を飲んだとします。熱中症は防げますが、空気を冷やすために二酸化炭素は排出され、ペットボトルをごみとして燃やすことで温暖化の原因となります。暑さから健康を守るための行為が、気候危機を助長してしまう構造が横たわっています。まさに「あちらを立てればこちらが立たず」がごとく、人類が抱える課題は相互に関係し合っているのです。
逆に言えば、リンケージ思考によって希望を見いだすこともできます。ある課題に取り組むことが、連鎖的に他の問題の解決につながることがあるからです。SDGsが掲げる目標は、すべてが相互に結びついています。環境を保全すれば経済の持続性は高まるし、公平で質の高い教育が産業のイノベーションや雇用確保につながっていくのです。
SDGsとポスト・コロナ
新型コロナウイルスの感染拡大によって、人の移動や経済活動が縮小し、大気汚染が改善されたとの報告が各国で相次ぎました。
例えば、温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量が一時的に減りました。中国ではPM2.5の減少によって大気汚染に起因する死者が減ったとされています。ただ、そうした影響は限定的で、大気汚染は経済回復とともに元に戻りつつあります。
コロナ禍によって、休校となり、子どもたちは学ぶ場を失いました。使い捨てマスクは廃棄物を増やし、取引先の休業によって出荷できなくなった農作物が廃棄される問題も起きました。経済活動の縮小は、企業倒産や失業、貧困の問題にもつながっています。感染への恐怖や偏見から、感染者や医療従事者への差別も起きました。
こうしたコロナ禍が引き起こした様々な問題は、まさにSDGsが解決しようとする課題と重なります。
一方、コロナ禍を克服するため、ワクチンや治療薬の研究開発が進んでいます。また、日本でもデジタル化に積極的に挑戦する機運が生まれており、リモートワークは人々の働き方を大きく変えました。菅政権はデジタルと脱炭素を次の成長の原動力と位置づけており、今後のイノベーションが期待されます。
SDGsバッジの意味とは?
スーツにSDGsバッジをつけた人をよく見かけませんか?2016〜17年頃、政府や経団連がSDGsに言及し推奨し始めたのもあり、企業の経営陣にもSDGsが知られるようになりました。そこで、「まずはSDGsの認知度を高めよう」とSDGsバッジを付ける人が増えていったのです。例えば日本証券業協会は、加盟証券会社の役職員一人一人にSDGsバッジを支給し、付けることを推奨したといいます。
SDGsバッジは、国連が販売している正規品の他、民間企業が製造したものもあります。
国連の正規品は日本のページでは販売しておらず、国連本部のホームページから購入できます。
SDGsバッジを付けることで、SDGsへ意識を向けていることをアピールしたり、SDGsを知らない人に興味を持ってもらうきっかけになるかもしれません。SDGsバッジをつける時のルールなどはありませんが、SDGsバッジを付けるだけで満足し、実際に取り組んでいない場合には、「SDGsウォッシュ(上辺だけの取り組み)」だと批判されてしまうこともあります。SDGsバッジをつけるだけでなく、自身の行動や所属する企業や団体のアクションにも目を向けてみてください。
世界ではSDGsはどう捉えられている?
世界はSDGsを無視できなくなった
人類共通の目標として掲げられたSDGsは、今や世界の潮流となっています。環境や人権を軽視する政府の政策や企業活動には、国際NGOなど世界各国の様々なステークホルダーから批判の目が向けられています。
特に、政府、企業、私たち一人一人に待ったなしの課題として突きつけられているのが気候危機です。国際社会はカーボンニュートラル(脱炭素)に向けて動き出しています。
加速する脱炭素社会への流れ 米中の動きは?
2015年、温暖化を防ぐための国際ルール「パリ協定」が採択されました。産業革命前からの気温上昇を、できれば1.5度に抑えることを目標に掲げます。そのために今世紀後半に世界全体で、温室効果ガスの排出量を実質でゼロにする「カーボンニュートラル」の実現をうたっています。各国は削減目標をつくり、達成に向けた対策をとっています。
一方、アメリカのトランプ前大統領は「協定はアメリカを他国より常に不利な立場に置く」と離脱を表明しました。
トランプ前大統領の方針は脱炭素化に水を差すものでしたが、大きな流れは変わりませんでした。電気自動車(EV)の普及を図ろうと、2030年までにガソリン車の新車販売を停止する目標を掲げる国が増えています。
もともと温暖化の取り組みに熱心だったEUの対策は加速しています。コロナ禍からの経済立て直しに使う「復興基金」(約95兆円)の30%を温暖化対策にあてる考えです。フランスやドイツなどでは石炭火力を全廃する計画もあります。
人権問題を抱える中国も、脱炭素については、習近平(シーチンピン)国家主席が「30年までに、中国の内総生産(GDP)の単位あたりの二酸化炭素排出量を2005年より65%以上減らす」と発言しています。
トランプ政権のもと、温暖化対策に後ろ向きの姿勢を示していたアメリカですが、バイデン大統領が2021年1月20日に就任。パリ協定への復帰への大統領令に署名しました。バイデン大統領は「温暖化対策で世界を再びリードする」と語っており、SDGsはアメリカでも重要な政治課題となっています。
SDGsに動く欧米のグローバル企業
コーヒーチェーンを世界中で展開するアメリカのスターバックス。2018年に「世界の全店でプラスチック製ストローの提供を2020年までにやめる」と発表して話題となりました。海洋プラスチック問題への対策です。
脱炭素の取り組みも急速に広がっています。事業で使う電力を100%再生可能エネルギーでまかなうことを目指す企業の国際ネットワーク「RE100」には、世界的な企業が参加しています。アップルは、2030年までにサプライチェーン(供給網)全体で再生エネ100%にする目標を掲げています。
このように欧米企業では、サステナビリティ経営が主流になりつつあります。
その大きなきっかけとなったのが、2008年に発生したリーマン・ショックだったと指摘されています。世界的な景気後退に見舞われる中、短期志向で利益を求めるだけでは、企業のサステナビリティが危機に陥るとの反省からでした。
かつては環境への対策をすると企業の利益を減らしかねないと捉えられていましたが、今や環境や社会への影響を考慮すると利益が増えるとの考え方が浸透しつつあるのです。
環境や社会、人権を重視しない企業には、銀行が融資せず、投資家も投資を避けるようになってきています。企業にとって資金が調達できなくなってしまえば、未来へつながる新規事業に挑みづらくなります。まさに、環境や社会のサステナビリティに企業が取り組むことは欠かせない状況となっているのです。
世界に影響を与える海外の若手活動家
2019年、当時16歳のスウェーデンの高校生のある発言が世界中で注目を集めました。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんです。
「あなた方は、お金の話や永遠の経済成長というおとぎ話ばかり。よくもそんなことを」「未来の世代はあなたたちを見ている。もしも裏切るなら、私たちは許さない」
ニューヨークで開かれた国連気候行動サミットでの演説で、世界各国の代表に地球温暖化対策を強く迫りました。この発言は、賛否を呼びながらも、若者のリアルな声として、多くの大人たちの胸を打ち、米タイム誌の「今年の人」に選ばれました。
トゥーンベリさんだけではありません。インドネシアでは、メラティ・ワイゼンさんが12歳でNGO「Bye Bye Plastic Bags」を妹と立ち上げ、バリ島でのプラスチック袋とストローの使用禁止を19年に実現しました。
地球のサステナビリティに危機感を抱くZ世代の試みが、各国の政策や企業活動に大きな影響を与えているのです。
日本の取り組みにはどんなものがある?
日本のSDGsランキングは17位
「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN)が発表した各国のSDGsの達成状況(2020年)は、日本は2019年の15位から17位(166カ国中)と順位を下げました。特に日本の課題とされたのが、「ジェンダー平等」「気候変動対策」「海洋資源の保護」「陸の生態系保護」「パートナーシップ」への取り組みでした。
特に、ジェンダー平等は日本が抱える喫緊の課題です。ジェンダーギャップ指数では、日本は153カ国中121位。衆院議員に女性が占める割合(2020年12月現在)は9.9%で、世界190カ国中167位。先進国では最下位となっています。
「環境先進国」から「環境後進国」に
日本は戦後の高度経済成長の影として、水俣病やイタイイタイ病などの深刻な公害を経験し、多くの人たちが健康被害に遭いました。そうした問題を規制強化や環境技術で克服し、「環境先進国」として世界から評価されました。
1997年には地球温暖化を防ぐための国際条約「京都議定書」の採択の場に。日本は「環境」というテーマについて、世界で存在感を発揮していました。
それから20年。日本は脱炭素化にかじを切った他国に大きく遅れることになってしまいます。
理由の一つが、原子力発電を「安全神話」の下で、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーとして推進し、自然エネルギーの普及に力を入れてこなかったことです。2011年に東京電力福島第一原発事故が発生。脱炭素対策として原発に依存する政府のもくろみは、崩れ去ってしまいました。
事故後、自然エネルギーの比率を増やす政策として、電気を高値で買い取る「固定価格買い取り制度」(FIT)が始まります。これは、太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーにより発電された電気を、国が定める価格で一定期間電気事業者が買い取ることを義務付ける制度です。一方、政府は原発について依存度を減らしていく方針ですが、重要な電力と位置づけています。
日本政府も本腰
脱炭素化やジェンダーなど課題が山積みの中、日本政府も目標達成に向けて、本腰を入れ始めています。
2016年には全閣僚からなる「SDGs推進本部」を設け、SDGs達成に向けたアクションプランを発表しています。
これまで日本政府は温室効果ガスの排出削減目標を「2050年までに80%」としてきましたが、菅首相は「2050年までに全体としてゼロとする」と宣言。2021年1月の施政方針演説で、環境政策を経済成長を生み出す鍵と位置づけ、「政府が環境投資で大胆な一歩を踏み出す」と語りました。
政府がまとめた「グリーン成長戦略」では、家庭、運輸、産業などのエネルギー利用をできるだけ電気でまかない、再生可能エネルギーの導入を加速させます。菅首相は2兆円の基金創設や最大10%の税額控除などで、最先端技術の開発や実用化を支援する考えも示しました。
今後、この戦略をもとに、各省庁の政策や、経済界の取り組みが進むことが期待されています。
地方自治体の取り組み
SDGs達成に向け、政府だけでなく、地方自治体の取り組みも重要になってきます。地方は高齢化、人口減少、交通アクセス、産業の停滞など、数多くの問題を抱えています。地方が衰退すれば、日本の未来は立ちゆきません。地方が持続可能な街づくりに取り組むことが、日本全体のサステナビリティにつながるのです。
政府も自治体の取り組みを促そうと、「SDGs未来都市」を選定しています。
選定都市の一つが、過疎化が進む北海道下川町。地域の豊かな森林からエネルギーをつくり、住民が暮らすための産業を生み出そうとしています。「植林→育成→伐採」を60年で一回りさせる「循環型森林経営」という手法をとり、森林バイオマスという再生可能エネルギーを導入しています。こうした取り組みが評価され、下川町は2017年の「第1回ジャパンSDGsアワード」で「内閣総理大臣賞」も受賞しています。
2019年に横浜市で開かれた「SDGs全国フォーラム」では、93自治体が「SDGs日本モデル」を宣言するなど、地方自治体がSDGsに取り組む機運が高まっています。
また、東京都は「ゼロエミッション東京戦略」で、二酸化炭素の排出量を50年までに実質ゼロとする計画を示しています。小池百合子知事は2020年末の都議会で、都内でのガソリン車の新車販売について、乗用車は2030年までにゼロにすることを目指すと語りました。
企業の取り組みが、なぜ大事なのか?
企業のステークホルダーの多様化
「企業が社会課題を解決する」と聞くと、本業の利益を一部使って行う社会貢献活動や、コストが増えて利益が減ることをイメージする人もいるのではないでしょうか。しかしSDGsの特徴は、社会課題を解決することと、経済成長を続けることを“両立”して進める点にあります。持続可能な社会のためには、企業もまた持続可能であることが必要だからです。
企業の旗振り役を担う経団連は、2016年5月に首相が本部長を務める「SDGs推進本部」が発足したことを受け、2017年11月に「企業行動憲章」を改定。「持続可能な経済成長と社会的課題の解決」を盛り込みました。2020年11月には、SDGsを企業経営に取り組むことを重視する新成長戦略を正式発表。SDGs達成年の2030年をターゲットに、企業が本業を通してSDGsを達成することを求めています。
また、企業がSDGsに取り組むべき理由として、ステークホルダー(関係者)の多様化が挙げられます。インターネットが発達し、株主、顧客、社員以外に、SNSユーザーや芸能人、海外の人なども企業の取り組みに目線を向けるようになりました。さらにZ世代や将来の社員など、未来のステークホルダーも企業を見つめています。
これらのステークホルダーは、それぞれの視野から、企業が社会課題にしっかり取り組んでいるかを見ています。多様なステークホルダーと良い関係を築くためには、SDGsのような包括的な目標に取り組む必要があるのです。
今やビジネスとも切り離せないSDGs。
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企業の取り組み事例①積水化学工業
積水化学は、毎年ダボス会議で発表される「世界で最も持続可能性のある企業100社」で、日本企業最高位となる12位(2020年)にランクインしています。グループビジョンとして「地球環境の向上」および「世界のひとびとのくらしの向上」を掲げており、SDGsが策定される以前から、事業を通して社会課題の解決に取り組んでいる企業です。
2020年には「ESG経営を中心においた革新と創造をする」と宣言。大きく2つの側面からSDGsの目標達成に向けて取り組んでいます。
①社会課題を解決し、かつ高収益な製品「サステナビリティ貢献製品」の売上を拡大すること
②製品を作る際の環境負荷を減らすこと
①の「サステナビリティ貢献製品」とは、“お客様の使用段階で、社会課題解決への貢献度が高い製品”を独自の指標と第三者機関の監修のもと選定したものです。課題解決を持続していくために、持続性評価や収益性における戦略的な枠組みでの取り組みも始動しています。2021年1月時点で約160製品を「サステナビリティ貢献製品」と定めています。
「サステナビリティ貢献製品」の売上が上がれば、社会課題を解決する製品が社会に広まり、また事業としても持続可能性が高まると考え、2022年度には8000億円を売り上げることを目標に掲げています。
また、将来の有望な「サステナビリティ貢献製品」候補として「BR(バイオリファイナリー)」の技術を確立し、事業化に取り組んでいます。BRは、ごみをエタノールに変換する技術。このエタノールから、プラスチック等これまで石油から作られていた製品を作ることができます。そのプラスチック等がごみになった後も、またエタノールに変換し、利用することができる…そんなサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を目指した取り組みです。2021年度末から1/10スケールのプラントを稼働させて実証事業を行い、2025年に本格的な事業化を目指しているとのことです。
一方、製品を作るにあたって、環境に負荷がかかることも事実です。積水化学では、②製品を作る際の環境負荷を減らすことにも取り組んでいます。また、環境や人権に十分に配慮している調達先から原材料を調達する、二酸化炭素の排出量や水の使用量を削減、廃棄物量や土地利用面積を抑えるなど、サプライチェーン全体でSDGsに取り組んでいます。
企業の取り組み事例②トヨタ自動車
自動車業界は、Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)、いわゆる「CASE」と呼ばれる技術革新が進んでいます。「企業版SDGs調査2020」で消費者からSDGsへの取り組みが最も高く評価されたトヨタ自動車は、「自動車メーカー」から「モビリティに関わるあらゆるサービスを提供する「モビリティカンパニー」への変革を目指しています。その変革の中で、地球も経済も持続可能にすることを目指すSDGsへの取り組みに積極的な姿勢を表しています。実際、2020年には豊田章男社長自ら「SDGsに本気で取り組む」と宣言しました。
具体的な取り組み事例として、2020年に発表された実証都市「Woven City」が挙げられます。「Woven City」は、未来のモビリティサービスと都市のプラットフォームを一緒に企画することで、新しいビジネスの創出や社会課題解決につなげていこうという発想から生まれたものです。ファミリー層、高齢者をはじめ発明家も住む街で、技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く回すことで、持続可能な新たな街を作り上げていくことを目指しています。
環境面では、「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げ、6つのチャレンジごとに数値目標を設定し取り組みを推進しています。
またトヨタは、「自分以外の誰かのために考え、行動できる人材」を育てることがSDGsに本気で取り組むことだと考えており、移動に困っている人にソリューションを届ける取り組みも行っています。例えば「車椅子でバスに乗る時、車椅子の固定に非常に時間がかかる」という声に対し、日本自動車工業会を巻き込み、トヨタの福祉車両「ウェルキャブ」だけでなく、バスも含めたトヨタ車以外も、簡単に固定ができる様に車椅子の規格化に取り組んでいます。
このように、トヨタは社会課題を解決することで世界中の人に「幸せを量産」することが、SDGsへの貢献につながると考え、さまざまな取り組みを進めています。
世界の投資家から注目を集めるESG投資とは?
ESG(イー・エス・ジー)投資とは
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3分野に対する取り組みを考慮しつつ、利益を追求する投資手法を指します。環境負荷が低い製品開発をしている企業の株を買ったり、対人地雷・クラスター弾など武器製造をする企業を投資対象から外したりする取り組みなどがその一例です。売上高や利益といった従来の財務指標からは見えにくいリスクを排除でき、企業の長期的な成長を評価できるという考え方のもと、企業の投資価値を測る新しい評価基準として注目を集めています。
ESG投資は現在、長期的な資産運用をする年金基金や保険会社などの機関投資家を中心に、世界中で急速に拡大しています。国際組織「世界持続可能投資連合」(GSIA)によると、2018年の世界のESG投資額は約3400兆円と、2016年比で34%増加。世界全体の運用資産の3分の1がESG投資で運用されるまでになっています。日本におけるESG投資の割合は、2018年で約18%。2016年の約3%から急速に伸びました。
ESGと混同しやすい言葉にSDGs(持続可能な開発目標)があります。両者の違いは、SDGsが2030年に向けての国際社会共通の「目標」であるのに対して、ESGはその目標を達成するための「手段」である点です。
一例をあげてみましょう。世界では、使い捨てのプラスチックが海を汚染する「海洋プラスチック問題」が深刻です。この課題を解決するために設定された目標が、「SDGs」の目標14「海の豊かさを守ろう」です。この目標にアプローチするために、飲料メーカーがペットボトル容器を廃止し、環境負荷が低い紙製の容器を導入するとしましょう。これが、企業の「ESG」への取り組みということになります。そして、こうしたESGへの取り組みを評価し、その企業に投資することを「ESG投資」と呼びます。
年金基金GPIFとESG投資
ESG投資が関心を集めるようになったきっかけは、国際連合が2006年、投資家が取るべき行動として「責任投資原則(PRI、Principles for Responsible Investment)」を打ち出し、ESGの観点から投資をするよう提唱したことです。こうした呼びかけに、年金基金や運用会社などの機関投資家が賛同。欧米を中心にESG投資が広がっていきました。2015年の国連サミットで提唱された「SDGs(持続可能な開発目標)」や2016年に発効したパリ協定も追い風となり、PRIへの署名機関数は2020年8月時点で3000を超えています。
日本では、約170兆の公的年金の積立金を運用する世界最大の年金基金「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」が2015年にPRIに署名し、2017年にESG投資に参入。これに伴って、国内企業がESG債を発行する動きが拡大しました。
運用会社や生命保険など国内の機関投資家もESG投資を加速しています。生命保険最大手の日本生命は、2021年から約70兆円の全資産をESG評価の対象とすると発表しました。
ESG投資は一見すると、投資に関わっていない個人には遠い話にも思えるかもしれません。しかし、実は私たちの年金や保険金もESG投資で運用されているなど、身近な存在でもあるのです。
加速する化石燃料関連企業への投資撤退
ESG投資の手法の一つとして、「ダイベストメント(投資撤退)」があります。インベストメント(投資)の対義語であることからも分かるように、すでに投資をしている特定の企業や業種から株や債券、投資信託などの資産を引き揚げ、投資対象から除外する手法を指します。
近年、気候危機を背景に、ESGを重視する欧米の機関投資家の間で加速しているのが、二酸化炭素排出量が多い化石燃料業界からのダイベストメントです。投資対象から外す方針を示すことで、企業に変革を促す狙いがあります。
環境NGOの350.orgによると、化石燃料などからダイベストメントを表明した世界の都市や大学、年金基金などは2021年1月時点で1308団体で、運用資産は14.5兆ドル(約1500兆円)を超えています。その推移も著しく、2014年の500億ドル、16年5兆ドルへと急激に伸びています。
たとえば、世界2位の運用資産を持つノルウェー政府年金基金は2015年、石炭関連事業から収入の30%以上を得ている69企業からのダイベストメントを決定。この中には、石炭火力発電を行っている北海道電力、中国電力など日本の電力会社も複数含まれていました。
多額の資金を運用する機関投資家からダイベストメントの対象とされれば、株価への影響が避けられません。加速するダイベストメントの動きは、企業にとって大きな圧力となっています。
一方で、ダイベストメントには否定的な意見もあります。ESG面で課題を抱える企業には対話を通じて改善を促す必要がありますが、ダイベストメントはその前提となる企業との利害関係を解消してしまうからです。そのため、ESG課題を持つ企業をかえって放置してしまうことになるのでは、という批判がされているのです。日本の「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」もこうした考えのもと、ダイベストメントには踏み込んでいません。
ブラウン企業の「グリーン」への“移行”を支援するESG投資
ダイベストメントとは対照的なアプローチで、企業の脱炭素化を後押しするESG投資の動きもあります。
その1つが「トランジションボンド(移行債)」への投資です。
トランジションボンドとは、化石燃料に依存する企業が、脱炭素に移行するための事業に資金を充てる目的で発行する債券です。
トランジションボンドに似たものとして、調達した資金の使い道を、空気や水・土の汚染除去や再生可能エネルギーなど、環境分野への取り組みにしぼった債券「グリーンボンド(環境債)」があります。しかし、電力や鉄鋼、化学など温室効果ガスの排出量が多い産業は、そもそもグリーンポンドの発行が難しいのが課題でした。そうした企業の脱炭素化を支援するために登場したのが、トランジションボンドです。
これまでは企業を、温室効果ガス排出量の少ない「グリーン企業」か、排出量の多い「ブラウン企業」かの二元論で分類し、「グリーン企業」にだけ投資をするという傾向がありました。しかし、脱炭素社会の実現には「ブラウン企業」のグリーン化が不可欠です。そのため最近では、トランジションボンドが注目を浴びているように、「温室効果ガス排出削減の改善幅や移行の観点をも踏まえて評価すべき」という指摘も高まっています。
グリーンボンドとトランジションボンドの運用に関しては、国際資本市場協会(ICMA)が2020年、ガイドラインを公表。これまで「どのような企業や事業を“グリーン”と認定すべきか」など発行要件が曖昧で論争が高まっていましたが、ルール整備が浸透を後押しすることが期待されています。
持続可能な未来のために、私たちができることは?
SDGsは「誰一人取り残さない」世界を目指しています。言い換えれば、個人も企業も政府も、みんなが当事者です。17個の目標のうち、どれか1つだけ達成できれば良い、というものではありません。もし達成できなかった目標が1つあれば、その裏で失われていく命があり、地球の未来が脅かされるということです。そのタイムリミットは刻一刻と迫り、世界各国、各企業が顔色を変えて取り組んでいる、その高まり続ける危機感を、あなたも感じる必要があります。
「あちらが立てばこちらが立たず」の社会課題解決と経済成長を両立させることは、簡単なことではありません。一個人や一企業だけで全てに取り組むのは難しく、現実味を感じない人もいるかもしれません。
しかし、SDGsの17番目の目標を思い出してください。SDGsを達成する鍵は、「パートナーシップ」です。一個人や一企業でできない部分は、それが得意な人や企業とパートナーシップを組んで取り組むことで初めて、誰一人取り残さない世界が実現できます。
まずは世の中で起こっていることをSDGsを通して見ることから始めてみてはいかがでしょうか?「100年に一度の豪雨」のニュースがあれば、それは気候危機が原因かもしれない。豪雨で避難した先で女性やLGBT当事者、障がいを持つ人など、社会的に弱い人が困っているかもしれない。家が流され貧困に陥る人もいる。SDGsを通して考えてみると、多くの社会課題が繋がって見えると思います。
自分の生活の中でできること、自分の仕事を通してできることもまた、様々な社会課題と繋がっています。ぜひSDGsを通して考えてみてください。
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お役立ち外部リンク
資料やデータ探しに役立つ国際機関や行政のリンクを紹介します
・持続可能な開発目標(SDGs)推進本部ホームページ 首相官邸が発信するSDGsに関する情報がまとめられています。
・JAPAN SDGs Action Platform 外務省がまとめている、SDGsに関する様々な情報。
・経団連SDGs特設サイト 経団連が推進するSDGsに関するサイト。企業事例等も掲載されています。
・Tier Classification for Global SDG Indicators 17の目標の下にある169のターゲットを達成するための、232の指標の一覧とTier1から3の分類(国連Statistic Division)