ルッキズム(外見による差別)や女性蔑視的な表現によって広告の炎上が相次いでいる。一方で、広告によって人々の意識が変わり、SDGsの推進、社会課題の解決に力を発揮することもある。
SDGs達成のために「広告にできること」はなんだろう。コンテンツデリバリー企業 popIn株式会社 西舘亜希子さんと、SDGsの日本語コピーを開発した株式会社博報堂 井口雄大さんと共に考える。
SDGs、言葉は知っているけど…行動を促すためには、何が必要?
━━広く浸透しつつあるSDGs。お二人は、どんな変化を感じていますか?
西舘:企業は、環境にやさしい包装材や紙ストローを使ったり、食品ロスに関する対策を施したり、それぞれの強みや特性を生かしながら、事業を通して取り組んでいます。
私自身、メディアや広告の情報を通して、商品の認証マークが以前より目に留まるようになったり、人権侵害につながっていないか考えたりするようになりました。
井口:様々な角度からSDGsが取り上げられるようになり、生活者の意識も変わりつつありますね。「持続可能な素材や手法で作られた」という付加価値で、商品やサービスを選ぶ人も増えていると思います。
西舘:そうですね。そうした変化もある中で、SDGsは、きれいごとだ、とっつきにくいといった声を耳にすることも。
また、広告主もSDGsの取り組みを発信したいけれど、生活者とどのようにコミュニケーションをとっていくべきか、押し付けにならない情報としての伝え方はどうしたらいいか、戸惑っている印象があります。
井口:人間も動物なので、湯気の立った料理や冷えた飲み物の映像によって五感を刺激され、おいしい物を味わった体験を思い起こして、購入を決めます。そういった五感に訴えかける広告に比べ、SDGsは、世界が目指すべきゴールとテーマを提示しているという意味で抽象的なとこもありますよね。みんなが取り組んでみたいと思えるように補助線を引く必要があると思います。
西舘:より多くの人がSDGsに興味関心を持ち、行動していくためには、どのようなアプローチが効果的なのでしょうか。
井口:消費者が「面白そう」といった知的好奇心や「社会に対して良いことをしている」という満足感など、ポジティブな感覚を持ってもらう仕掛けを作っていくことが大事だと考えています。
例えばある飲料メーカーでは、ペットボトルのラベルをはがして可愛くアレンジする方法を紹介していました。こうした仕掛けを通じて、ラベル剥がしが意外と簡単であることを知ってもらうことで、ラベルを剥がして分別することのハードルを下げる効果があったと思います。
想像力の欠如が、誰かを傷つける。SDGsのゴールと真逆の広告も。
━━SDGsの取り組みや企業のパーパスブランディング(社会的存在意義)の発信が増える一方で、分断を助長する表現やステレオタイプな広告が度々炎上しています。
西舘:ルッキズムやジェンダー規範に縛られ、SDGsの目指す多様性とは逆行した広告が多く見られますよね。また、広告の内容や届け方、社会への影響に無頓着なこともしばしば。
広告業界の意識をアップデートしていくためには、何が必要かを考えて、行動していかなければと危機感を感じています。
━━偏見や差別を助長する広告が作られてしまう背景には、何があると思いますか。
西舘:アイデアの新奇さや目を引く表現に引きずられ、それによって傷つく人がいるという想像力が欠けてしまっていると思います。また、デジタル広告に関して言えば、過激な表現ほどクリック数が伸び、収益に結びつきやすくなる可能性が高いという構造も原因の一つだと思います。
井口:過激な見出しを付け、PV数を伸ばそうとするデジタルメディアの姿勢にも共通していますね。PV数が伸びれば広告収入も増える。
西舘:そういった構造以外にも、SDGsの記事に差別的な表現を含む広告が表示されるなど、情報と広告がちぐはぐになってしまう傾向があります。
━━ちぐはぐさを解消するためには、どうしたら良いのでしょうか?
西舘:例えば環境に配慮した商品の広告と、関連性の高い情報が載った記事をセットで掲載するなどして、生活者により効果的に自然に情報を届ける必要があります。このプロセスに関しては、コンテンツデリバリー企業だからこそ、情報を届けるという本来の使い方を見失わなければ、できることは多いと思います
革命は起きない。日々の歩みが未来の「常識に」
━━SDGsの達成には、一人ひとりの意識することも大切ですが、自分ごと化しづらい面も。
井口:開発途上国の中には経済力が弱く、環境問題への対策まで手が回らず、開発を優先して汚染を招く活動を政策的に後押ししてしまっているような状況もあります。一方で先進国の人々は、海の向こうの飢餓や貧困を「自分ごと」として捉えづらく、また自分とのつながりも見えづらい。先進国と途上国、企業と生活者など、さまざまな面で分断があります。
先進国の生活者が企業の作った製品を購入すると「風が吹けば桶屋が儲かる」のように途上国の何かが良くなるという仕掛けをもっと作れれば、企業や途上国とのつながりを感じ取れるかもしれません。
━━ポジティブな仕掛けや広告が企業と消費者に“つながり”をもたらしてくれますね。お二人は、どんな社会を実現していきたいですか。
井口:SDGsの17個のゴールを初めて見たとき、自分が子供の頃から、世界が抱える課題は、全然進んでいないという印象を受けたものです。しかし、コピーを考える中で、話を聞いたり、調べたりすると、変わっていないように見えて少しずつ前に進んでいることを知りました。
突然、革命が起きて、世界が変わることはありませんよね。みんなの日々の取り組みが、世界を少しずつ前に進めていく。微力ながらその一端を担っていきたいと思っています。
西舘:ある友人が、SDGsを学んだ小学生の娘さんに「世界のみんなが決めた目標なのに、どうしてやらないの?」と聞かれたそうです。
当社もシンプルに「一緒に協力をさせてください!」と、パートナーに働きかけ、広告の健全化とサステナブルな仕組みを作りたい。それが私たちなりの「つくる責任、とどける責任」(※1)の果たし方だと考えています。
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popIn 株式会社は、創業以来『価値あるコンテンツを届ける』をミッションに世界中にプロダクトを展開しています。
2021年5月には、企業の社会的責任を果たすため、自社のコンテンツ型ネイティブアドプラットフォームから誇大広告や差別的広告配信の停止を発表。品質管理室の設置や広告審査に関し、外部パートナーと連携するなど、自社プロダクトのアップデートを進めています。
また、SDGs関連の広告を記事にマッチングさせ、興味関心層へ届けるプロダクトをローンチ。メディア支援の一環として、サステナブル・ラボ株式会社と連携し、SDGsの達成度合いが高いメディアへの広告収益率を高めるスコアリングシステムも構築しています。
同社が目指すのは、価値あるコンテンツを届け、より持続可能な世界を実現すること。
SDGs達成のため、生活者、企業、クリエイター、メディアとのパートナーシップをより強固に、社会および広告における課題の解決を目指します。
(執筆:有馬 知子 企画・編集:川越 麻未)