学校からプールを撤去し、外の市営・民間プールを使う学校が増えている。高度成長期に作られたプールの老朽化が進むなか、外の資源を有効に使うことで、コストのメリットや指導の質を上げるのが狙いだ。
学校のプールの授業は、6月中旬ごろから授業が始まり、10時間前後をプールに当てていることが多い。ただ、多くの学校のプールは屋外型で、梅雨の時期にぶつかることも多く、予定通りに授業ができないことも少なくなかった。
千葉県佐倉市では、34ある市立小中学校のうち、佐倉と西志津の小学校ですでに民間のスイミングスクールを体育の授業に使っている。2校のプールが老朽し、改修費のコストもかかることから、スイミングスクールで授業をする方法を採用した。
この2校で改修を重ねながら自前のプールを使う場合とスイミングスクールで水泳の授業をした場合の経費(試算)を比べると、30年間でおよそ9000万円が浮く計算だという。2校のプールは撤去され、その跡地は運動用のゴムグラウンドとして子供たちの遊びや運動で使われている。
授業になると、子供たちは送迎バスに乗ってスイミングスクールへ。クラス担任の教諭とスイミングスクールの専任インストラクターが一緒になり、子供たちに泳ぎ方を教えている。市教育委員会によると、「天候に左右されなくなった」と、子どもや保護者から好評だという。「担任のほか、専門のインストラクターにも指導を受けられるので充実した授業になっている」と、市教委の担当者は話す。
ほかの学校も老朽化は進む。佐倉市資産管理経営室によると、自前のプールを持つ残りの32校も平均約36年の築年数を経ている。外の資源でプールの授業ができないだろうか。そう考えた市は今、市内にある2カ所の市営屋外プールを屋内型に改修し、そこで水泳の授業をする構想を立てている。
いまある学校プールを改修した方が安いのか、市営プールを改修したほうが安いのかを調べるために、同室は6月から調査する業者の募集を始めた。
小中学校でプールを全廃しているところもある。神奈川県海老名市は、2011年度ですべての小中学校のプールを全廃し、代わりに市内に3カ所ある公共屋内プールを使っている。学校のプールは順次取り壊してきたが、杉本小学校のプールは地域住民の要望を受けて「柏ふれあいつり堀」として再利用されている。
2011年、海老名市長あての手紙で、公共プールでの授業が「体育の授業というより遊びの時間になっている」という批判もあったが、次のように説明している。
・天候に左右されず、計画通りに実施できること。
・施設管理、安全管理上の負担が軽減されること。
・補助指導員、安全監視委員が配置されていること
――などのメリットがあり、何よりも児童生徒の安全を第一に考えている。
老朽化したプールを更新する場合、プール1カ所の工事費が約1.5億円。ほかに水道法で定められた受水槽の清掃や簡易水道の検査などの維持管理費がかかる。
学校のプール廃止の背景には、道路や橋、建物など、自治体が高度成長期に整備してきた様々な施設が老朽化を迎えているという事情がある。高度成長期、施設を各校にそろえるべきだという考え方が主流だったが、維持管理の費用が重くのしかかっている今、行き詰まりを迎えている。
学校施設の耐震化にめどがつき、文部科学省も老朽化対策の手引きを作るなど、重点が老朽化対策に移ってきた。そんななか、代替施設として、学校外の施設を活用するのは当然の流れとも言える。
コスト面で言えば、例えば、屋内型の市民プールがある場合、スケジュールの調整や交通手段のめどがつけば、1年中使える。自前のプールを維持するより遥かに安い。
指導面でも利点がある。水泳指導の最大の問題点は、危険性が高いことだ。新聞報道によると、日本スポーツ振興センターの統計で、2015年度までの18年間でプールの飛び込みが原因とされる事故が31件発生しているという。
リスクを減らすには、専門性の高いインストラクターが必要だが、その配置まで手が回らなかった。施設の外部化は、この問題を克服するチャンスでもある。そもそも、いざというときに溺れないための水泳がしっかりできるよう教えることが公教育の役割であり、自前の施設まで用意してオリンピック選手を育成する役割は学校にはない。
茨城県牛久市立ひたち野うしく小学校は、学校施設の端に屋内プールを作り、NPOがプールの管理や指導をしている。授業以外は市民にも開放しており、理にかなっている公共施設の利用方法の一つだと思う。