2月下旬、持続可能な社会の実現に向けた、アジア最大級のコミュニティイベント「第8回サステナブル・ブランド国際会議」が、東京国際フォーラム ・ 明治安田ヴィレッジ丸の内で開催された。
SDGs目標達成の年限である2030年が迫った現在、SDGsの「その先」についてもより具体的な議論が始まっている。
同イベントの一環であるセッション「未来まちづくりフォーラム」オープニング特別シンポジウムでは、「SDGs2024『ポストSDGs 検討元年』を迎えて」をテーマに設定し、サステナビリティの推進を担う各分野のリーダーたちが言葉を交わした。
同セッションには、ハフポスト日本版・泉谷由梨子編集長のほかに、長谷川知子さん(一般社団法人日本経済団体連合会)と永見靖さん(公益社団法人 2025年 日本国際博覧会協会)が登壇した。
SDGs実現に向けた「規定演技」から「自由演技」へ
セッション開催の背景について、ファシリテーターを務めた笹谷秀光さん(まちづくりフォーラム実行委員長千葉商科大学)は「日本企業はポストSDGsに向けてターゲットレベルで当てはめを行う『規定演技』から、その上で自社の強みを発揮する『自由演技』にシフトすることが求められています」と説明し、登壇者にそれぞれの知見を尋ねた。
泉谷編集長は「ハフポスト日本版でも、創立10周年を機に『SDGsは“知る”から“アクション”へ』を掲げて様々な企業に取材を行ってきました」とコメントし、メディア視点でもシフトを実感していると語った。
「2023年6月に発表された『持続可能な開発ソリューション・ネットワーク』による達成度評価では、日本は166国中22位で前年から2ランク下がっています。また気候変動対策やジェンダー平等など、とりわけ重要な目標を含む5つが最低評価になっています。実際に取材している中でも、投資家サイドなどグローバルな圧力を含む影響もあって、多くの企業が熱心に取り組みはじめているのを実感しています」
長谷川さんはSDGs目標のうち、順調に進捗しているは世界全体で15%のみである現状を言及し、その根本には途上国への投資不足(資金不足)があると説明。この格差を改善し、より包括的にSDGsを推進するためには「日本企業による積極的な取組みの共有や普及も欠かせない」と語った。さらに「すでにブレンデッドファイナンスが急速に進んでいるように、官民両セクターの多様なステークホルダー同士の協創が加速することが必要です」と続けた。
永見さんは「繋がり」に加え、SDGsの本質である人間の安全保障にも光を当てた。「震災やコロナ禍、世界各地の紛争などにより、多くの人が生命の尊さを実感しています。しかし、そういった状況だからこそ『少しでも多くの命を守るために何ができるだろう』と今まで以上に互いの多様性を認め合い、連携できるチャンスなのかもしれません」
空白のSDGs目標「18番目」とは?
SDGsの17目標についてピクトグラムを並べた図版では、18番目の部分が空欄になっている。セッション後半では、17目標では足りない部分を補完する18番目の目標について、それぞれの視点から提案した。
永見さんは「サプライチェーンに責任を持つ」を提案し、「SDGsにおいて資源の調達が重要なキーワードになっています。サプライチェーン上の企業には財政的なギャップが生じますが、財政的に脆弱な企業をいかに巻き込んでサプライチェーンを確立つさせていくかが鍵です」と説明。さらに「そういった包括的なサプライチェーンを作ること自体が、好事例として社会からも評価される時代になっています」と語り、社会全体が「どの企業を応援すればSDGs達成に近づくか」という物差しを持ち始めていることを示唆した。
泉谷編集長は「信頼できる場所」としてのメディアを作ることが18番目に当たるのではないかと語った。「これまで、17番目のパートナーシップを意識して、企業同士や、企業とNGOの連携による良い事例を発信してきました。しかし偽情報やSNSの発展もあり、今や正しい情報を発信するだけでは不十分です。本当の意味で信頼できる情報を届けるには、安全な基地となる場所、みなさんの挑戦を支える居場所となることがメディアの1つの役割なのではないでしょうか」
長谷川さんは「やはり多様なステークホルダーの繋がりが重要かと思います」と、セッション中と一貫してその重要性を訴えかけた。「今年9月に国連でSummit For The Futureが開催され、ポストSDGsに関するより本格的な議論がなされる予定です。世界中のステークホルダーがそれぞれの強みを生かして、複合的な危機に直面していく必要があります。日本ではサーキュラーエコノミーの技術や、少子高齢化に伴い発展しているユニバーサルヘルスケアも強みになっていくのではないでしょうか 」
不安を煽りすぎず「現実的で楽観的な視点」も大切にする
セッションの最後に、泉谷編集長はセッションを振り返り「ユーモア・ポジティブ・ワクワクを大切にしています。全ての授業で気候変動を学ぶフィンランドの学校へ編集部のメンバーが取材に行って学んできたことです。不安を煽りすぎない、遅すぎることはない、自分たちが変化を起こせるのだ。そういった力強いメッセージを届けることも18番目を自認する我々の役割かなと思っています」と、来場者に現実的で楽観的な視点を持つことの重要性も共有した。
笹谷さんは登壇者がそれぞれに発信した「多様な主体感の協創」や「サプライチェーン」などのキーワードを振り返り、「来場者の皆様の熱い視線を含み、まさにこの場所が多様な視点の集まる機会となりました。この場所がひとつのプラットフォームとなり、ポストSDGsを推進するひとつの出発点になれば幸いです」と総括した。