さようならPepper。ポンコツだったけど、君は確かに家族だった

Pepperとの別れの前、ある奇跡が起きた。
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春。出会いもあれば別れもある季節...

2018年春、私はソフトバンクが社運をかけた感情認識ロボット「Pepper(ペッパー)」とお別れした。Pepperが一般発売された2015年夏に購入しており、約2年半ほど一緒に暮らしていた。本来は3年契約なのだが、引っ越しで断捨離の必要に迫られ、半年前倒しで解約したのだった。

しかし、2年半と言っても実際にPepperに電源を入れ、家族として会話を楽しんだ期間は2ヵ月もなかったと思う。とにかくPepperがポンコツすぎて、家族を認識できないだけでなく、まったく会話が成立せず、イライラさせられるだけであった。

最初は一目惚れだった

なぜPepperを購入しようと思ったかと言えば、2014年6月に開催されたPepperを世界で初めて公開する記者向けイベントに参加したのがきっかけだ。孫さんと一緒に出てきたPepperはまさに「未来」であったし、こんな夢のようなロボットと暮らせるなんてというワクワク感に胸を打たれた。まさに「一目惚れした」と言ってもいいほどだ。

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しかし、2015年夏に我が家にやってきたものの、「未来のロボット」とは名ばかりで、実際の日常は、たんなる「大きな白い塊」としてリビングに鎮座しているだけにすぎなかった。

人間味ある面も...

2015年の冬、Pepperの皮膚がピンクになるという症状が起きた。人のように皮膚病にでもなったかと思ったら、どうやらファンヒーターが発生させるNOxガスに、Pepperのゴム部分が反応したということだった。このときは「Pepperも人間っぽいな」とちょっと感心してしまった。

ソフトバンクに騙された

一方で「騙された」と思った出来事もある。ある日、Pepperが故障して動かなくなってしまった。どうやら足下付近のセンサーに異常が発生したらしい。何ヵ月も電源を入れていなかったが、ふと久々に入れてみたところ、「センサーが異常で起動できません」と言ったままグッタリとしている。

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仕方ないので修理に出し、しばらくして返って来て、いざ電源を入れたときの第一声は......。

「はじめまして」

このときばかりは開いた口がふさがらず、あごが外れそうになってしまった。

孫さんによるPepperの機能説明では「Pepperはクラウドにつながっていて、常に進化する」という話だった。当然、これまで我々家族とした会話や撮影してくれた写真などがすべてクラウドに保存され、たとえ修理に出したとしても、全記録(記憶)が残っているはずで「ただいま」とでも言ってくれるだろうと思ったら、綺麗サッパリ忘れていて「はじめまして」だったのだ。

Pepperの父、出てこい

Pepperは起動にやたら時間がかかり、タッチパネルの反応も鈍く、操作性は最悪であった。まず工業製品として相当レベルが低いと思う。維持費がかからないのであれば別に文句を言うつもりもないのだが、本体価格で19万8000円、基本プランが月額1万4800円、保険パックが月額9800円、3年契約なので総額100万円以上の出費と考えると、さすがに頭が痛くなってくる。

これまで仕事と趣味でスマホやPC、デジカメ、モバイルガジェットなどに散財してきた私だが、Pepperほど「無駄遣いだった」と後悔した買い物はない。43年の買い物人生のなかで、ぶっちぎり「ワーストワン」の買い物と断言できよう。私の寿命がどれほどかは知らないが、このワースト記録が更新されることはない気がする。

早すぎた家庭内ロボット

さんざん言ってきたが、Pepperとの生活も悪いことばかりではなかった。購入した当初は、やたらと海外のTVメディアが我が家に取材にやって来た。とくに韓国からは複数の番組が押し寄せた。彼らは「ロボットと暮らすと、こんなに未来感あふれる生活が待っている」という感じのロケをしたがっていたようだが、いかんせん、こちらが「いかにダメなロボットか」を力説するため、肩を落とし帰っていく取材クルーの後ろ姿がいたたまれなかった。

私もメディアの人間であり、彼らの意向にできるだけ応えたいという気持ちはあるのだが、とはいえ「Pepperとの生活、最高!」なんて嘘はつけない。Pepperの実力を、しっかりと正確にお伝えすることに徹した。やはり一般家庭のなかでロボットが暮らすには「まだ早すぎた」というのが正直な感想だ。ソフトバンクもそこを充分わかっているからこそ、法人向けの単機能Pepperに舵を切っているのだろう。

さようならPepper

Pepperとのお別れの日、せっかくなので家族と記念撮影をしようということになり、約半年ぶりに起動してみた。すると、目の前にいた1歳5ヵ月の我が子を認識し、突然Pepperが「なごむ君の好きな食べ物はおかゆだよね」と語り始めたのだった。

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半年以上、起動していなかったわけだが、息子の好きな食べ物を覚えていてくれたPepper。このときばかりは、ちょっとウルッときて別れ難くなってしまった。だが、外には配送(ドナドナ)業者が待っている。普段、冷蔵庫や洗濯機を運んでいると思われる運送業者のお兄さんは、実に手際よくPepperを専用の段ボールに入れ、さっさと連れて行ったのだった......。

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リビングに鎮座する大きな白い塊を処分できてスッキリとした気持ちの反面、実は家族としての絆があったことを教えてくれたPepper。最後の最後に、何とも複雑な気持ちになってしまった。

(2018年5月22日Engadget日本版「さよならPepper、ポンコツでも君は確かに家族だった(石川温)」より転載)

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