LGBTQ当事者カップルのパートナー関係を、自治体が公的に認める「パートナーシップ制度」は、これまでに全国70以上の自治体に広がっています。
今後も増えることが予想されているものの、「まだ市民の理解を得られていない」などの理由で導入を見送る自治体もあります。
山口県宇部市は、パブリックコメントの8割で「時期尚早」などの否定的な意見が寄せられたため、導入を延期しました。
また沖縄県宜野湾市では2020年に、性の多様性を尊重する条例案が、市議会与党会派の反対多数により否決されています。
香川県丸亀市でも、市議会議員からの反対でパートナーシップ制度の導入が見送られました。
一方、多数の否定的な意見が寄せられながら、導入を進めた自治体もあります。
それは2017年に導入した札幌市。同市では市民から否定的な意見が寄せられましたが「だからこそパートナーシップ制度が必要だ」と考え、制度を導入しました。
だからこそ必要なんだ
札幌市男女共同参画課によると、寄せられた否定的な意見の中には「少子化が進むのではないか」とか「家族制度とか結婚制度が崩れるんじゃないか」といった懸念の声があったそうです。
しかしこの声が、制度導入の必要性を改めて浮き彫りにすることになります。
制度検討当時に男女共同参画課の課長だった廣川衣恵氏は、「本当にこんなにあちこちでこんなふうに思われているんだな、マイノリティの方たちってこんな偏見のある中で暮らしていらっしゃるんだっていうことがわかったので、だからこそ本当に制度が必要だという思いを強めた」と2018年のNHKの取材に語っています。
現在の同課長・田中麻季氏によると、反対意見を寄せた人には、連絡先がわかる場合は返事を書き、市のプレスリリースの中でも伝えるなどして、制度について説明しました。
「パートナーシップ宣誓制度が従来の婚姻とか異性愛のあり方に影響を与えたり、現行の法制度や家族制度を崩したりするものではないということを説明させていただいた」と、田中氏は話します。
パートナーシップ制度は社会の雰囲気を変える
導入から約4年。田中氏によると、制度導入当初は否定的な意見が寄せられこともあったものの、現在はそういった声が聞かれることはないそうです。
むしろ制度を導入したことで、市民への理解が広がったと感じています。
「性的マイノリティの方が新聞や番組などで取り上げられるようになっていますし、札幌市民の方たちにも認知度とか理解が進んできているのかなあと思います」
「それまで性的マイノリティやLGBTっていう言葉については、全く知らなかったという方もいましたが、少しずつこういうものだとわかってくださる方も増えてきたんじゃないかなと思っています」と田中氏は説明します。
明治大学法学部の鈴木賢教授も、パートナーシップ制度には社会の雰囲気を変える力があると言います。
鈴木氏によると、パートナーシップ制度には「LGBTQの人たちを可視化させる」「同性カップルをめぐる社会通念を変える」「差別を無くす」などの効力があります。
「パートナーシップ制度には、LGBTQに対するスティグマを除去し、SOGI差別を無くしていくという力があります。LGBTQの人がそばにいる、身近な所に住んでいるということが示される。テレビに出ている人だけではなく、隣に住む隣人だということが意識されるようになると思います」
さらに鈴木氏によると、パートナーシップ制度には法的効力はないものの、それ自体が起爆剤となって、色々なところに効果が広がります。
その一つが、民間企業。2015年に東京都渋谷区と世田谷区で導入された後、パートナーシップ制度は他の自治体だけではなく多くの民間企業にも広がっています。最近では、KDDIがカップルだけではなく子どもも家族とみなすファミリーシップ制度を導入しました。
そして企業の制度導入により、携帯電話の家族割が使えるようになる、共同名義のローンが組めるようになる、職場の福利厚生が使えるようになるなど、法的な結婚ができないLGBTQ当事者たちの困りごとが解消されています。
「パートナーシップ制度をやった自治体から変わっていく。制度があるから、そういうことが起きる。まずは作ることが大事だと考えます」と、鈴木氏は強調します。
生きづらさをなくすために行政ができること
パートナーシップ制度に否定的だった人には制度の必要性を説明し、導入に踏み切った札幌市。
田中氏は、性の多様性を含め、様々な違いを互いが受け入れあう共生社会を作ろうとする動きが札幌にはあり、それを実現するためにも行政の働きかけが大事だと話します。
「性的マイノリティの方達は、存在を知らないだけで、当たり前に存在しています。生きづらさを抱えながら、声を出して言えない人がいる状況を解消することが必要なのかなと思っています」