クリスマスイブの夜、世界中の子どもたちにプレゼントを配ってくれるサンタクロース。なんてそんな親切なことをしてくれるのだろうか。歴史的な経緯を探ってみると、中にはちょっと怖いエピソードも見つかった。
■サンタのモデルは誰?
サンタクロースのモデルになったと言われる人物は、キリスト教の伝説的な聖人「聖ニコラウス」だ。生きていたとされる時代は3世紀のローマ帝国。現在はトルコ領となっているアナトリア半島南西部のミュラの町で司教を務めていたとされている。
その生涯には数々の伝説がある。ここでは、サンタクロースの原型ともいえる2つのエピソードを紹介しよう。
■隣人の家に金塊を投げ入れた伝説
13世紀にジェノヴァ市の大司教が聖人たちの生涯を記した『黄金伝説』には、聖ニコラウスが3人の娘を救ったというエピソードが記されている。
聖ニコラウスの近所に住む貧乏な家では、3人の娘に売春をさせて生計を立てようとしていた。それを知った聖ニコラウスは金塊を布に包み、夜ひそかに隣人の家の窓に金塊を投げ入れた。隣人は神に感謝し、その金で長女の結婚式を挙げた。その後も金塊が投げ込まれてることが相次ぎ、隣人は追跡してついに聖ニコラウスがやっていたことを知る。足にひざまずいて感謝しようとした隣人を聖ニコラウスは押しとどめて「自分が生きている間は誰にも言わないで欲しい」と頼んだ……。
この金塊を配るエピソードが元になって、聖ニコラウスが「子供たちにプレゼントを配る」という設定が生まれたという説がある。
■「殺害された子供たちを生き返らせた」という怖い伝説も……。
先ほどは美しいエピソードだったが、聖ニコラウスの伝説の中には、現代の感覚でいうと、ちょっと怖いものもある。フランスのロレーヌ地方では以下のような童謡の形で伝えられていた。
3人の小さな子どもがある夜、肉屋に泊めてもらった。肉屋の主人は子どもたちを殺して、細かく切り、豚肉のように塩桶に入れた。その7年後、通りかかった聖ニコラウスが、この肉屋に泊まった。聖ニコラウスは夕食の際「7年前にあなたが漬けた塩漬け肉が欲しい」とリクエスト。肉屋の主人は悪事がばれたことにびっくりして店の外に逃亡した。「肉屋よ、逃げるでない。悔い改めなさい」と聖ニコラウスは言った。そして、塩桶の縁に座って「そこで眠っている子供たちよ、私の名前は聖ニコラウス」と言って、3本の指を伸ばすと、子供たちは3人とも起き上がった。1人目は「よく眠った」。2人目は「僕もだ」。3人目は「天国にいるようだった」と話した。
このエピソードは、最も古いものでヨーロッパの12世紀の文献に記載されているという。バラバラにされて塩漬けされた子どもたちを生き返らせる聖ニコラウスは、今の感覚ではぞっとしてしまう。ただし、中世ヨーロッパでは人気のある話だったらしく、数々の絵画にもなっていた。
■オランダからアメリカに伝わり「サンタクロース」に
これまで紹介したエピソードなどで、12世紀までに聖ニコラウスはヨーロッパ各地で子どもの守護聖人として崇められるようになっていた。
12月6日の「聖ニコラウスの日」かその前夜に、彼の名前で子どもたちに贈り物がされるようになった。子供たちは聖ニコラウスのために長靴下や靴を窓辺や玄関口においたという。
この風習がオランダ移民によってアメリカに伝わった。オランダ語で「聖ニコラウス」を意味する「シンタクラース」がなまって、「サンタクロース」になったという。
聖ニコラウスの風習を元に、1823年のニューヨーク州の新聞に「サンタクロースが来た」という詩が掲載された。この詩が原型となり、「クリスマスイブに、サンタクロースがトナカイに乗ってやって来る」という話がアメリカ中に広まった。やがてヨーロッパにも逆輸入されるなど、世界各地に広まっていったのだという。
参考図書:
『図説 クリスマス百科事典』(柊風舎)
『黄金伝説 1』( 平凡社ライブラリー)
『クリスマスの歴史』(原書房)
『サンタクロースの大旅行』(岩波新書)
『サンタクロースの謎』(講談社+α新書)
『サンタクロースの秘密』(せりか書房)
『サンタクロース伝説の誕生』(原書房)
『アメリカン・クリスマスの誕生 Santaが生まれた背景』(ブケイ)